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瑞輝が帰国した翌日は、桃の嫌いな体育の授業があった。
暑くなり、プールに入ることになったのだが、実は桃は泳げない。
嫌々プールの中を歩き回っている。
対するびとーも水は苦手だ。少し離れて桃を見守っていた。
と、風に乗って、ある気配を掴まえる。眉をひそめた。
放課後。檸檬が桃を迎えに、理事長室に入ってきた。
その姿を見て、びとーは光輝と玲に言う。
「少しの間で良い。檸檬と桃を頼む。それから、ロウソクを点けておいてくれるか?」
いつもとは様子の違う炎の精に、二人は顔を見合わせた後、頷いた。
「判りました。」
玲が言って、ロウソクに火を灯す。それを確かめてびとーが檸檬と桃に向き直った。
「俺が戻るまでここにいろ。」
びとーが単独で外に出る。少し歩いてから、背後に向かって言った。
「…何か用か、マク。」
ゆっくりと振り返る。
「いや、もう新たな名前に変わっているか。」
と、何も無かった空間に、金髪の少年が浮かび上がった。
「さすがだね、フェル兄さん。気配を消していたつもりだったんだけどな。」
面白そうに少年は言った。
「名前は、変わったよ。ノアールにね。」
「どうしてここが判った?」
「何か気になる男がいてね、ついて来たらフェル兄さんがいたのさ。」
「で?何の用だ?」
怪訝な顔をする炎の精に、雷の精は肩をすくめた。
「ちょっとお願いがあってね。
今度の僕のマスターは世界を掌握することを考えているんだ。
それでフェル兄さんにも、今の契約を解除して、仲間になってもらえないかと思って。」
「何だって?!」
「フェル兄さんに協力してもらえたら鬼に金棒だし。
フェル兄さんにしても子守よりは働き甲斐があると思うけど。」
びとーのこめかみに青筋が浮かぶ。桃を馬鹿にされるのが一番我慢ならないのだ。
「…帰れ。」
静かな一言に殺気が漲っている。少年は後ずさりしながら言った。
「怒らないでよ。今日は挨拶とお願いだけだから。
…でも、今度会う時は実力行使するからね。覚悟だけはしておいて。」
一瞬で雷の気配が消える。びとーは怒りを放出したまま、理事長室に戻った。
びとーが姿を見せた時、光輝が情けない表情で桃と向き合っていた。
「…どうした?」
「…桃ちゃんが。」
「桃が?」
桃がニッコリ笑った。
「びとーにもみえるでしょ?」
「何が?」
「おとこのひと。」
「は?」
「すっごくきれいなおとこのひと。」
「はぁ?」
びとーが二度に渡って首をひねると、桃はまんまるのほっぺを更に膨らませた。
「びとーにもみえないの?
おにいちゃんもりぢちょーせんせーもゼロにもみえないんだよ。
でもね、りじちょーせんせーのうしろにいるの。おとこのひと。」
目を凝らしても見えないものは見えない。何か妙な波動を感じるだけだ。
びとーは首を振った。
「まぁ、それは良いとして…。」
良くない、と言う光輝を制して、びとーは話し出した。雷の精のことを。




