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「桃と檸檬と精霊と」二作目です。
よろしくお願いします。
R15は保険です。
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海が見える小高い丘の上に煉瓦造りの学校がある。
二階建てで中央部分は塔になっている独創的な建物だ。
ここは大宝特別支援学校といって、体の不自由な子や病気の子供が通う学校である。
「理事長先生!桐島 桃ちゃん、来てませんか?」
激しいノックと共に入ってきたのは、桃の担任の福本 清美先生である。
一見、若くて可愛らしく見えるが、その中身は楽天的でサバサバした性格だ。
息を切らしているのは、走り回ってきた為だろうか。
秘書の間宮 玲と顔を合わせた後、理事長の大谷 光輝は首を振った。
「いえ、朝は顔を出しましたが…。桃ちゃん、いなくなったんですか?」
福本教師は大きく頷いた。
「昨日、算数の小テストをしたんですよ。
引き算のテストだったんですが、桃ちゃんってば、マイナスの記号に縦棒を書き足して、全部足し算にしちゃったんです!」
「は?」
「それで叱ったら逃げ出してしまって!」
そう言って、福本教師は扉に手を掛けた。
「お忙しいところ、申し訳ございませんでした。他を探してみます。」
扉が閉まると、光輝と玲は声を出して笑った。
「やっぱり可愛いね、桃ちゃんは。」
「賢いですよ。苦手な引き算を棒一本で足し算に変えるなんて。
普通は嫌いだから、苦手だからと言って、
問題の方を変えるなんてそんな発想はできませんからね。」
良くも悪くも、桃贔屓な二人である。
「外には出て行っていないと思うけど、一応、びとーに確かめておこうか。」
光輝の言葉に頷いて、玲がライターを取り出す。
小さく揺れる炎に呼びかけると、十五センチ程の精霊が現れた。
「担任の先生が桃ちゃんを捜しに来たんだけど。」
光輝が言うと、びとーはニヤッと笑った。
「先生がいない間にちゃっかり教室に戻ったぜ。
叱られた後だ、先生がいると教室に入りづらいらしい。」
「やっぱり賢いですね。」
玲の言葉に、笑いが弾けた。