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戦場の鎮魂歌  作者: 猿道 忠之進
第一章 決断の時
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第一章 決断の時 Ⅴ



 目隠しをされた兵士達が、大きな穴の手前で立たされている。

 一列に整列した兵士達、彼らの表情は口元から読み取れた。


 脅えて言葉をなくし、自分たちの行った行為を後悔する者、死を覚悟して表情を引き締める者、絶望しいつ死ぬかわからない恐怖に表情をゆがませる者、だが、彼らはこうなって当然の行為を行ったのだ。


 リオデはその光景を、整列した銃兵隊の横に立って見つめていた。

 冷淡に同情などという生易しい感情を押し殺して、ただ、見つめていた。

 村人達はそれを遠くから見つめ、さまざまな感情を胸のうちに秘めていた。

 共通する感情は一つ。


 整列した彼ら、罪を犯したユストニア兵に対しての憎しみだ。


 銃兵隊を率いるベルシアがサーベルを抜いて、声高らかに叫ぶ。


「構え!」


 その声に合わせて整列していた兵士たちは銃のチャンバーに弾を込め、長銃を前に突き出した。

 無機質な長銃に弾を込める鉄の擦れる音は、青く広がった空と、雪で覆われた土地に響き渡り、最後のときが来たことを知らせた。


 風が耳を触り、かすかな物音を立て、寂しげな歌を歌いながら高原を駆け抜けていく。

 その静寂の中、目を隠された一人のユストニア兵が大きな声を上げた。


「我が祖国 時は来た 双頭の鷹を背に 剣を持て 汚れた血でその体を汚しながら 突き進め……」


 とても綺麗とは言い切れない歌が高原に響き渡り、その歌は段々と音を上げていく。

 となりにいた兵士もまた、声を震わせながら、歌いだし、そのとなりの者もまた口を合わせ始める。


 一人また、一人と声を合わせ、ユストニア兵達は祖国の国歌を歌いだした。


 風の音にあわせ、誇らしく、祖国の国歌を大声で叫ぶように歌いだし、いつしか大合唱となっていた。

 銃を構える兵士達はその光景を目にし、動揺を隠しきれないでいた。

 顔を見合わせ、合唱をする兵士達を見つめて、引き金から指を離す者も出てきたのだ。

 それを見かねた指揮官は、サーベルを振り上げて、声を上げようとした。


 だが、その振りあげられたサーベルに手をかけて、制止する人物がいた。


 この部隊を指揮するリオデだった。

 彼女は指揮官の行動に、手をかけてとめたのだ。指揮官は白く綺麗な手をみたあと、彼女の顔を見つめる。リオデは顔を左右にゆっくりと振ると、それを見た指揮官も意図を理解したらしく、サーベルをゆっくりとおろした。


 ひとしきり歌い終わった兵士達の顔に恐怖の二文字はどこかに消え去っていた。

 それを見た銃兵隊の指揮官は、不快な表情を露にしてサーベルを振り上げた。


「撃て!」


 号令が掛かり、一斉に並べられた銃口から硝煙と炎、鉛弾が放たれた。

 高原に響き渡る発砲音は、風の歌をとめた。

 罪のない村人達の命の灯火を消し去った者達は、大きく掘られた墓穴に倒れ込んでいく。


 処刑を実行した者達の胸の奥に、何かを残して……。





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