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戦場の鎮魂歌  作者: 猿道 忠之進
第一章 決断の時
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第一章 決断の時 Ⅳ



 捕らえたユストニア兵の指揮官が口を割るのに、そう時間はかからなかった。

 ユストニア軍の一小隊であるこの部隊の長は、この惨劇が上の命令ではない事を白状した。その上で自分を処刑する代わりに、部下だけは助けてくれと、懇願してきた。


 だが、リオデもそれほど甘くはない。冷たく、冷酷な視線を送った後、その隊長を引き連れ、片付け終わっていない惨劇を目の当たりにさせた。


「これが同じ人間にする所業ですか?」


 リオデはその部隊長を見ながら、惨劇の痕を見せ付け、そして、「観念しなさい」と付け加えた。

 リオデは下をうつむいたままの指揮官を見ながら、考える。


(部下のやった事を黙認したのだから、全員処刑は当然……)


 村人達の墓穴を掘るユストニア兵には、全員処刑の意はまだ伝えておらず、リオデは墓穴に村人達を葬ってから、伝えると隊長に伝えた。

 その意にがっくりと肩を落とした部隊長は、小さな声で呟いた。


「慈悲という言葉もないのだな……」


 それを聞き逃さなかったリオデは、部隊長を睨みつけて怒鳴った。


「あなたはまだそんな事をいうのですか!? 罪のない人を殺し、女を犯し、これ以上にない悲惨な事を起こしておいて」


 感情の高ぶりを感じて、リオデは一呼吸おいた。しかし、そうそうこの怒りの感情がおさまることはなかった。

 リオデはその惨状を目の当たりにして、悲しみを通り越して憤怒を感じていた。


「私はただ、部下に……」


「命令は出されていない。と聞いています」


 リオデが遮るように言うと、部隊長は溜息をついて、その場に崩れ落ちた。


「人は間違いを犯す……。私の犯した間違いは最悪だったのかもしれん」


 リオデはその言葉を聞き、呆れてものも言えなくなっていた。

 この男がいまだになお、自分達のやった事が間違いでないと思う心があることに、あきれを通り越して絶望さえ覚えた。


「指揮官として、あなたは無能です……」


 彼女は崩れ落ちる男に対して、容赦なく言い放ったのち、背を向けて家屋から出て行った。

 胸の内に秘めたる思いを、この男に言ってもどうしようもない。それが分かったリオデは、外に出て胸一杯に空気を吸い込んだ。


 血の臭いが混じった空気は、高山の新鮮な空気を腐らせ、彼女に吐き気さえ感じさせた。

 穴を掘り終えたユストニア兵達の近くに行けば、彼らの困惑する顔が見られた。

 なんと言っても、墓穴のみならず、大きな穴を村から離れた場所に作らされたのだ。


 困惑しないほうがおかしいだろう。


 勘の良いユストニア兵は、その穴が何のために掘られたのか、察しがついたらしく、絶望と虚無感に襲われ、表情を硬直させている者もいる。

 結局墓穴を掘り終えたのは夜が完全にふけってからだった。

 そのあとの死んだ村人の埋葬は、村人自身の手と王国軍軍人の手によって行われた。

 最後の死人を葬ったのは、夜明け近くになってからだ。


 リオデは村人一人一人の墓を参り、無念と弔意の意を丁寧に伝える。

 だが、それだけで、村人たちの怒りが収まるわけがない。

 奇跡的に生き残っていた神父がいなければ、村人達の怒りを鎮められなかったのは明らかだ。


 最後の墓を弔問し終えたリオデは、その場を立ち上がり、登りきった太陽に目を向けた

 高原の朝日が憎らしいほど綺麗に輝き、リオデはその輝きに憎しみさえ感じた。

 朝日を睨みつけるように目を細めて見ていたリオデは、後ろに控えていたにベルシアに対して、小さな声で一言だけ告げた。


「処刑の実行を……」


 ベルシアはその言葉を耳にして無言で頷くと、その場を離れていった。




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