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戦場の鎮魂歌  作者: 猿道 忠之進
最終章 鉱山都市ポルターナ攻防戦
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最終章 鉱山都市ポルターナ攻防戦 Ⅴ


「カート隊長! 本隊が襲撃を受けています!」

 村の両端の城門を攻略し、ユストニア山道攻略部隊は村内の防衛陣地を包囲していた。タレンジの義勇軍と共に、この村の防衛陣地を包囲して、総攻撃は明日かける予定である。

 そんな時に、カートの耳に信じられないような言葉がかかっていた。

「そんな馬鹿なことがあるか!」

 カートは高原側の城壁に向かって、かけていた。そして、急いで城壁の上に登って、ポルターナ高原に目を向けていた。

 兵士の報告どおり、三つある大砲からは火があがっている。それだけではない。その後方にあった首脳の集まる作戦本部の陣地に、炎が煌々と輝いているのだ。

「どうやって!? いやその前に、篭城をしている部隊が、攻撃をかけたとでも!?」

 一人叫んでいるカートに対して、後ろから声がかかる。

「どうやら、敵の援軍らしいですな」

 その声にカートはすぐに顔を向けていた。横にいた人物、それはタレンジ共和国陸軍の指揮官だった。

「なぜ、わかるのです?」

 カートは指揮官の顔を見ながら、彼を問い詰める。

 デルマシア高原はユストニア側の手中にある。勢力圏を突破して、道を通ってきたことなど考えられない。

 この状況下、援軍など考えられない。だが、現実はそれほど甘くはない。炎に包まれる自軍の陣地、それが事実を物語っていた。

 タレンジの指揮官は冷静に、その光景を見つめていた。

「味方は全て城門前に張り付いています。何か城内で動きがあれば、すぐに分かるでしょう。攻撃をかけようとしても、我々には全てが筒抜けです。しかし、現実に攻撃をかけられて、ここまで手ひどくやられている」

「ようするに城内からの攻撃でない。と?」

 カートの声に指揮官はゆっくりと頷いてみせる。

「そう。城壁側の警備は万全、しかし、ここまで攻め入られた。ということは、城壁外からの攻撃と考えるのが普通です」

 タレンジの指揮官はそう言って、本陣の炎をあげる作戦本部を指さしていた。

 城壁から遥か後方に配置され、けして戦場になるような場所ではない。だが、火に包まれていることは、事実である。

 タレンジの指揮官が言うことは、しごく真っ当なのだ。

「だが、どうやって。ここに来る道は二つ、しかも二つとも我が軍が抑えている」

 カートはそう言って燃え盛る陣地を、拳を握り締めてみていた。

「簡単なことです。山を越えてきたんでしょう。私が彼らと同じ立場にたったら、同じことをやってるでしょう」

 冷静にそう言ってのける指揮官に、カートは怒りの視線を向けていた。

 タレンジの指揮官はあくまで、人ごとかのように言っているのだ。味方がやられていても、冷徹に感情のない言葉で言ってのける。

 タレンジ共和国もこの採掘利権を手に入れるために、形式上義勇軍という形で軍を派遣した。もとはユストニアの援軍要請が始まりだ。ユストニアが援軍を出してくれれば、戦勝時に鉄鋼資源の利益を、三割分け与えると提示したのだ。

 だが、外交上、グイディシュ王国とも国交のあるタレンジは、要請を拒否した。だが、第一の友好国であり、王国からの鉄を輸入する際に、最も近い輸入ルート上にあるユストニアを無視するわけにもいかない。

 そこでタレンジがとった行動が、形式上義勇軍の正規部隊の派遣であった。これならば、追求されれば、義勇軍であるからと言い逃れができる。

 そして、勝てば義勇軍が戦ったのだからと、ユストニアからの恩恵も受けられる。

 だが、現実はそこまで甘くなかった。義勇軍が向かうということを察知したグイディシュ王国が、タレンジ共和国に抗議したのだ。

 だが、ユストニアとの国交もあり、出港準備の整った義勇軍を今さら出さないわけにもいかない。そこで、当初、参加予定であった自国の護衛艦隊の二十五隻の護衛をとりやめ、ユストニアに護衛を一任したのだ。

 結果、王国は内海の王者と呼ばれ、畏怖される艦隊を迎撃にあてた。

 ユストニア側の艦隊は五十の軍艦で応戦、辛くもグイディシュ王国海軍を打ち破った。

 おかげでタレンジ義勇軍五千人は、ユストニアの首都ホルザイデルに無事到着した。

 そして、初陣がこのポルターナ攻略であった。だが、彼らはあくまで、タレンジの捨て駒である。もし、この戦いに敗れれば、その身の保障はない。

 負ければ祖国からも見捨てられる。それを自覚しているからこそ、彼らは必死で戦うのだ。それだけに、ここで顔をあわせた指揮官は、鬼のような冷徹さを持っている。

 だがそれでも、味方がやられて、指揮官がこのような態度をとることに、カートは納得がいかなかった。

「あなたがたの苦境は、お察しします。しかし、味方がこのようにやられているのに、あなたは冷徹すぎませんか?」

 カートの一言にタレンジの指揮官は、その鋭い視線を向けていた。

「お察ししますだ? 我々をここに巻き込んでおいた張本人に、そう言われる筋合いはない!」

「なに!?」

 今まで冷淡で感情をあらわにしなかった彼が、初めてカートに感情をぶつけていた。

「我々はあくまで国益のための捨て駒だ! 勝利の望めぬ戦にもかかわらずここに来た。それも全て、あんたたち、ユストニアのせいだ」

 怒りの感情をカートに向けるタレンジの指揮官、その手は腰の剣にのびていた。

「寝返ろうとでもいうのか!?」

 カートはそれに対して、あくまで感情を向き出したまま、向き合っていた。

「我々はあくまで、義勇軍だ。不当な扱いを受けたといって、このまま、寝返っても何もいわれはない!」

 指揮官はそう言って腰の剣を抜いて、カートに向けていた。反射的にカートも剣を腰から抜いて彼に向いて構える。

 カートは今更ながらに、自分が触れてはならないことに、ふれたことに気づいた。回りの兵士たちもそれに倣って、剣を抜いていた。友好国のタレンジ共和国軍と、ユストニア軍が一触即発の事態に陥ったのだ。

 村内で仲良く談笑していた両国の兵士、だが、その光景に直面して、腰の剣を抜いてたがいに向きあっていた。

 動揺した瞳を向け合う両国の兵士たち、その手には剣が握られている。

「馬鹿なことはやめろ! ここはユストニアの勢力圏だ。ここの村にいるタレンジの兵士は、八百あまりだ。こちらは一千以上」

 そういわれた指揮官は、動揺せずにまっすぐとカートを見つめていた。

「我がタレンジの兵と、王国の篭城した兵を合わせれば、互角の数だ!」

 だからこそ、カートは説得を続ける。ここで寝返られれば、せっかくここまで多大な犠牲を出してまで、攻め込んだことが水泡となってしまう。

 寝返りを許せば、また、ユストニア軍はこの村から追い出されてしまう。

「攻城に参加している貴官らの同胞の部隊員も、ユストニアの陣地内にある。ここで本隊に寝返ったことが知れれば、同胞はどうなる!?」

 カートは自分で言ったことを、恥ずかしく思っていた。ようは彼らの同胞を人質にとっていると、いっているのだ。

「そんなこと! 分かっている!」

 やり場のない怒りを、指揮官は剣を城壁に向かって振るっていた。どうすることもできない自分の立場、それが分かっているからこそ、城壁に剣を向けた。

 指揮官はそのまま剣を納めて、村内の兵士に命令する。

「剣を収めろ! ここでのいざこざは、わが祖国の国益を損じる!」

 その一声で剣を収めていくタレンジの兵士たち、そこら中から安堵のため息がもれ出ていた。それにならってユストニア軍も、剣を収めていた。

「悪かったな。盟友に対して、このようなことを」

 そう言ってタレンジの指揮官はカートに背中を向けて、城壁から降りていた。

 カートはその哀愁漂う背中を、ただ黙って見送ることしかできなかった。



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