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戦場の鎮魂歌  作者: 猿道 忠之進
プロローグ
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プロローグ



 空は澄みきった青一色で染め上げられ、地表を覆う雪は、真上から照らされる太陽の光をきらきらと反射していた。


 高地を覆う雪は雨期の手前にならなければ、溶けはしない。

 お粗末ではあるが気密性の高いレンガ造りの家々が、道を挟んで建ち並んでいる。


 太陽から降り注ぐ熱で溶け出した雪は、冷えきった夜に屋根の端で氷柱に姿を変えていく。その大小さまざまな氷柱は、家々の屋根にこびり付き、離れようとはしない。

 そんな中、村の少女は両手を広げて一人歩いていた。


「こんなに綺麗な青空、ひさしぶり」


 ついそんな独り言を放ってしまうほど、ここ最近は太陽と言うものを拝んではいなかった。曇り空ばかりで少女も飽き飽きしていた。


 春先の今はただやることなく、家畜のヤギと戯れることくらいが、村人の暇つぶしとなる。村の外にでることはなく、外界からは一切情報が入ってこない。


 春の終りから秋と短い期間で農作物を育てなくてはならない農民達の生活は、けして楽なものとは言いきれない。だが、今は特にやる事はない。一時の休息、それが冬からこの春の期間なのだ。


「今はこんな風にするのが一番かな」


 白い息と一緒に言葉を吐きながら、少女は青空を眺めた。

 まだもう暫くはこんな暇な時間が過ぎてゆくが、いずれはこの雪は溶けてまたいつかは過酷な農作業に従事するのだ。

 それもこれも全ては少女や村人たちが生きるために、必要なこと。

 村の端まで歩き終えた少女は、腕を空に向かい伸ばし背伸びをした。


「ん、あれは?」


 背伸びをする少女の目には、何かの群れがこの道に対して垂直に一列に並んでいるのが映っていた。遥か向うの丘の上、その統制された動きは野生の動物の動きではない。

 少女は目を凝らして、その何かの群れを見続けた。


「何かな……」


 丘の上から、白い雲の塊がゆっくりと現れ、その丘を影で覆う。それと同時にその何かの群れは、横一列の隊形を維持したまま丘を駆け出した。


「あれって……」


 少女は立ち止まっていたが、事態を飲み込んだ瞬間にその場を走り出した。まるで何かに脅えるようにして……。



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