一番に会いに行く
朝。今日はいつもより早く目が覚めた。昨日は…いい夢、見れた。……早くえるを迎えに行かないと。えるのことを考えながらご飯を食べて、支度をして外に出る。昨日の気だるさが嘘のように体が軽くなっていた。えるのおかげだ。まだ眠ってたら寝顔とか見れるかな。えるの寝顔を頭に浮かべながら、えるの家へ向かう。到着してインターフォンを押そうとした時
「……家になんか用ですか?」
ドアが開く音がした。現れたのはえるの弟。名前は…なんだっけ。まぁいっか。
「えるを迎えに来た」
「…姉さんならまだ寝てますよ。というか何時だと思ってるんです?こんな朝早くに来て、迷惑なんですけど。姉さんは部活やってるわけでもないし…」
「やっぱりまだ寝てるんだ」
「─────! なに勝手に家に入ろうとしてるんだよ…!」
ドアの前に立ち塞がったそいつを押し退けて、家の中に入った。……待っててえる。今行くから。一直線にえるの部屋へと向かおうとした時リビングのドアが開いて
「まこと、どうしたの───」
えるが現れた。寝てるって聞いてたけど、嘘つかれた。後ろにある気配に苛立ったけど
「…さとみくん?どうしてここに……」
えるに名前を呼ばれて我に返る。
「えるのこと迎えに来た」
「………私、に…」
オレが来たことに驚いたえるはぽかんとしたまま止まった。
こんなにびっくりしてるえるの姿、初めて見た。……かわいい。
「…姉さん困ってるんで、出てってもらっても────」
そんな姿を見つめていると、目の前に弟がやってきて再びオレを阻んだ。
「…まこと、待って。私は大丈夫だから。早くしないと朝練遅れちゃうよ?」
「…はぁ。分かったよ。……行ってきます」
やっといなくなった。邪魔者が消え去り、もう一度えるを見つめる。
「えっと…とりあえず上がって?」
頷いてえるの後について行く。
「えっとね、まだ朝ごはん食べてる途中で……」
申し訳なさそうにえるが視線を逸らした。
「いくらでも待つ」
その言葉でえるの視線はオレの元へと戻ってきた。
「それじゃあソファに座って待ってて。すぐ食べて、支度するから」
頷いてえるに言われた通りソファに座る。
改めてえるを見るとまだバジャマのままだった。えるのバジャマ姿はあんまり見られないから、しっかり焼き付けておかないと。オレの視線に気がついたのか、こちらを向いたえると目が合った。
「…そんなに見られると、なんか緊張しちゃうかも……」
恥じらう顔はいつもより赤くなっている気がした。そんな顔、するんだ。ほんとかわいい。
「気にしないで食べて」
「……う、うん…」
そのまま目を逸らさず見ていると、ご飯を食べ終わったえるが片付けを済ませてオレの元へやってきた。
「えっと、これから着替えようと思ってるんだけど…その前に一つ聞いてもいい?」
「うん」
「具合はどうなのかなって。まだ少し熱があるとかそういうのはない?」
心配を浮かべながら少し首を傾げたえる。その一挙手一投足全てが愛おしくて堪らない。このまま抱きしめたいけど、支度の邪魔したらダメだから、そう自分に言い聞かせてえるの問に答えた。
「なんにも無い。えるが治してくれた」
「…! わ、私は何もしてないよ?」
「来てくれたから」
全部消えて無くなった。えるはなんにでも効くから。
「…えっと、お見舞いに行ってよかったってこと…だよね?」
「…うん。ありがとうえる」
心からの感謝を伝えたら自然に頬が緩んでる気がした。そのおかげなのか
「…さとみくんが元気になってくれて良かった」
えるが安心したように笑ってくれた。
「それじゃあ着替えてくるね」
「待ってる」
それからの時間はいつも通りの朝とほとんど同じ。違う部分があるとすれば一緒に家を出たことくらいだ。
学校へ行く道も、隣にえるがいる安心感も何もかも全部同じ。だからこそ余計に、好かれる方法を考えた。幼なじみとしてじゃなくて、恋人としてえるの隣にいたいから。
一人でぼんやり考えていると
「さとみくん、どうしたの?なにか考えごと?」
「……うん」
「私でよければ聞くよ」
少し首を傾げながら見上げたえるの姿に口が勝手に動きそうになった。
「…えるには内緒」
これはえるに言っちゃいけないやつだから。
「……そっか。…それなら、私以外の人に頼ってみるのはどうかな?」
「オレにはえる以外いない」
「そんなこと、ないと思うよ。……家に帰ったら、相談してみる…とか。あの二人ならきっと、答えてくれると思う。さとみくんのことすごく大切に思ってるから」
大切に……──────。えるがそう言うならきっとそうなんだと思う。だってオレにはそんなこと分からないから。
あぁ………嫌なナイフが刺さった気分。えるがまっすぐオレを見つめて家族の話をするから、無視できない。痛くはないけど、どうしたらいいんだろう……。
ねぇ、える。オレが頑張って話したら褒めてくれる?もし、その態度がえるの前だけの…見せかけで、オレに家族なんてものは無くて、オレにはえるしかいない、えるがいないとダメだって……そう、なったら───────。
「さとみくん……?」
「………えるがそういうなら、考えとく」
そこから先を考えるのはやめた。せっかく良くなった体がまた悪くなりそうだったから。
「聞いてみたらきっと喜ぶよ」
喜ぶ……そんなわけはきっとないけど、今はえるの純粋な優しさと笑顔に免じで何を言ったかは知らないけど許しておく。どうせきっと上辺だけだろうから。
やめた思考がもう一度始まりそうになった時
「さとみくん、あの後…三浦くんとは話した?」
三浦って誰だっけ…。あ、文化祭の時のあいつ。
「…してない」
話すことも何も無いし。そう結論づけたオレとは真逆で、えるはなにか気がかりなことがある様子だった。
「…あのね、お節介なのは分かってるけど……その、さとみくんすごく怒ってて胸ぐらとかも掴んでたように見えたから、謝った方がいいんじゃないかなって思うの。一人じゃ嫌なら私も一緒に……」
…えるに見られたんだった。オレがあいつの胸ぐら掴んでたとこ。あと少しで殴れてた時。…えるは優しいから多分喧嘩でもしたんだと思ってる。そういう所もオレは好き。けど、あいつの視界にえるを入れるなんてありえない。ただでさえ同じクラスなの許せないのに。
「……いい。一人で謝る」
「…大丈夫、さとみくんならできるよ」
えるにそう言われると不思議と大丈夫な気がした。えるといる時間が減るのは嫌だけど、心配させておきたくないし。そう考えて仕方なくあいつと話すことにした。




