開幕
ようこそ。
ここは現世と常世の狭間でございます。
さあ、お気づきですか?
今、貴方様の目の前には、ゆらゆらと揺れる青白い蝋燭が並んでおります。
その数、ちょうど百本。
その炎の一本一本に、名も無き者どもの怨念と記憶が宿っております。
さて、『百物語』という風習をご存知でしょうか。
古来より、夜の帳が下りた頃、人々は蝋燭を百本灯し、怪談を一話語り終えるたびに、その炎をひとつ、またひとつと消してゆくのです。
やがては百話目の怪談が語り終えられ、最後の灯が闇に飲み込まれたとき──本物の怪異が現れると言い伝えられております。
現代を生きる皆さまは「ただの迷信だ」と笑うかもしれません。
ですが、これほど科学が進歩しているにもかかわらず、世の中には解明できない摩訶不思議な現象や伝承・伝説がたくさんございます。
人の見えない悪意。土地が生み堕とす呪い。あるいは陰の次元の隙間からこぼれ落ちた奇奇怪怪は、今も確かにあなたのすぐ隣に潜んでいるのです。
今宵、ここに集う語り部たちは、皆、その“非日常”に惹かれ、触れて、時には理不尽に囚われてしまった哀れな者たちばかりです。彼の者らが体験した、身の毛もよだつような恐怖を、これから一つずつお裾分けいたしましょう。
されど、ご用心ください。
百物語は『死に近しきもの』を呼び寄せる代物です。
途中、貴方様が闇の向こう側に引き込まれぬためにも、案内人としてここで三つ大切なお願いがございます。
一、決して途中で逃げ出さないこと。
二、語り部たちの言葉を侮らぬこと。
三、 蝋燭が消える瞬間をしっかり見届けること。
もし、禁忌を破られた場合、貴方様の安全は保証できかねますので、くれぐれもどうかお忘れなきよう。
さあ、そろそろ皆々様がお待ちかねです。
……準備はよろしいですか?
では どうぞ──
逝ってらっしゃいませ。




