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婚約破棄は期限切れ

掲載日:2026/06/01

 今日は私の二十歳の誕生パーティ。我がレストルド公爵家の広間には、多くの貴族が集まっていた。


「ジュリーナ!」


 大きな声で私の名前が呼ばれる。婚約者のアヒョードル王子だ。彼の怒鳴り声に、貴族は皆こちらを振り返る。

 まるで自分がパーティの主役かのごとき立ち振る舞い。彼と私は一年しか歳が違わないというのに、時折十歳ほど下の人間と接しているのではと勘違いすることがある。


「よく聞け!俺はお前との婚約破棄を宣言する!」


 ざわめく貴族達。慌てふためくというより、どうなるのか興味深そうにこちらを見ている。

 婚約破棄は、我が国では禁じられた行為では無い。通常、貴族間の婚約は家同士の問題だが、どうしても個人同士の折り合いが付かない場合はある。その場合の最終手段として、我々には婚約破棄が権利として残されているのだ。


 正直アヒョードル王子に対して未練などない。むしろぜひ婚約破棄したい。子供のおもりをするのは大変なのだ。

 しかし、私が返事をする前に、アヒョードル王子はこう続けた。


「ちなみに原因はお前の態度だ。つまり、今回の件はお前に非がある。そうだろう?」

「――それはかなり横暴な理論ではありませんか?」

「いや、そんな事は無い。なぜなら、お前にもいつでも婚約破棄できる権利はあったからだ。でもしなかった。つまりお前は俺に対して不満が無かったわけだ。――今回の件、お前が原因以外の何物でもないだろう!」


 怒濤の意味不明理論展開。会話をするのも面倒。


「つまりだ。公爵家は俺に謝礼をする必要がある。よって!公爵家の秘宝、雷炎の魔法石をよこせ!」


 これが狙いか。公爵家に代々伝わる秘宝。持つ者に絶大な魔力をもたらす、公爵家の象徴。そんな物をよこせだなんて、あまりにも横暴だ。

 ニヤニヤと煩わしい顔。思わず引っ叩きたくなる衝動を抑える。


「なるほど……しかし、気の合う事に、ちょうど私も婚約破棄を宣言しようと思っていたのです。――もちろんアヒョードル様の態度が原因で」

「でたらめを言うな!こういうのは先に言った者勝ちだ!俺は正式な権利を先に行使し、それが認められているのだ!今さらジタバタあがくな!」

「――でしたら、私の言い分が先に正式に認められていたら、アヒョードル様は言うことを聞いたと」

「もちろんだ。謝礼も惜しまないぞ?貴族として当たり前なのだから」

「そうですか」


 私は一度言葉を区切り、一呼吸置いて続けた。


「アヒョードル様。婚約破棄が無効になる条件をご存じですか?」

「……何を言い出すかと思ったら。これは認められた権利なのだ。無効になどならんわ!」

「いいえ、無効になる場合はございます。それは、相手がある年齢に達している場合です。結婚するのに不利な年齢で婚約破棄をされてしまっては、貴族の後継を作る機会が減ってしまいます。――基本、婚約破棄は学生などの若い世代でしか起きませんから、前例はありませんけれど」


 私の言葉に動揺するアヒョードル王子。婚約破棄が無効になる条件など知らなかったのだろう。

 知っていたら、今日婚約破棄をするなど、絶対にあり得ないのだから。


「それで、その年齢と言うのは……」

「二十歳です。――おや、そういえば今日は何のパーティでしたっけ?私の記憶が正しければ、今日は私の二十歳の誕生日ですね。つまり、婚約破棄はちょうど今日期限切れなのですよ。アヒョードル様」


 私の発言を聞き、みるみる顔が赤くなるアヒョードル王子。

 先ほどまでの余裕な態度はどこへ行ったのやら、目には涙を浮かべている。泣いても誰も助けてなんてくれないのに。


「クソッ!クソッ!!」

「では、アヒョードル様。続けて私から、婚約破棄をさせていただきます。――分かっていると思いますが、アヒョードル様はまだ十九ですので、これは正式に認められる宣言となります」


 目の前の男は、悔しさのあまり顔をゆがませ、手をギュッと握りしめている。

 自分で巻いた種だと言うのに。今さら後悔したところで、もう遅い。 


「さて、先ほどなんて言われてましたっけ?あぁそうそう。私の言い分が先に正式に認められたら、謝礼を惜しまないのでしたね。――雷炎の魔法石に匹敵する謝礼、楽しみに待っておくことにしますわ」


******


 結局謝礼として送られてきたのは、多大な金貨といくつかの魔道具程度だった。公爵家の象徴と比較するとたいした物では無いが、元々もらえる予定の無かった謝礼だ。欲張らず、ありがたくいただくことにした。

 今回の一件で、アヒョードル王子は知識も精神も成熟しきっていないと、王の器ではないのではないかと、声が多く上がっているらしい。もう知ったことではないが。


 あれ以降、私の元には多くの婚約の申し出がきている。毅然とした態度に惚れただの、賢いあなたと一緒にいたいだの、歯の浮くような口説き文句ばかり。家の為に婚約はしないといけないが、全くその気になれるような人がいない。

 私は、今日も届いた婚約申し出書類の山に、思わずげんなりするのであった。

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