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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第2編『消える共犯者』
35/43

第35話『消える証拠』

資料室の引き出しは、確かに開いていた。


だが中身は「空」ではない。


白鐘雨音はそこを見つめて、声を落とす。


「……ここ、昨日まで証拠品ありましたよね」


有馬が即答する。


「そんなの入ってねぇだろ」


白鐘は固まる。


「入ってました」


「共犯者の身元資料と、現場写真と……」


言いかけて、止まる。


“何が入っていたか”が、少しずつ曖昧になっている。


久瀬黎司は引き出しの中を見る。


そこには何もない。


しかし“何かがあった痕跡だけ”が残っている。


紙の擦れ。

インクの滲み。

だが内容はゼロ。


久瀬は静かに言う。


「消えている」


有馬が眉をひそめる。


「だから何がだよ」


久瀬は答える。


「証拠だ」


白鐘が小さく言う。


「証拠って……消えるものなんですか?」


久瀬は少し間を置く。


「普通は消えない」


その言葉が逆に重い。


沈黙。


白鐘がもう一度引き出しを見る。


「でもこれ……“最初から何もなかった”みたいに見えます」


久瀬は頷く。


「それが厄介だ」


有馬が苛立つ。


「いや普通に盗まれたとかだろ」


久瀬は否定しない。


だが静かに言う。


「盗まれたなら、空白は“空白として残る”」


「これは違う」


白鐘が息を呑む。


「どう違うんですか」


久瀬は引き出しの底を指す。


「“存在の履歴ごと削除されている”」


その瞬間、有馬が小さく呟く。


「は? 履歴ってなんだよ」


久瀬は答える。


「この世界は記録で成立している」


「記録がある限り存在は維持される」


白鐘が震える声で言う。


「じゃあ……記録が消えたら?」


久瀬は一言だけ答える。


「存在も消える」


沈黙。


資料室の空気がわずかに軽くなる。


いや、“軽くなったように感じる”。


有馬が周囲を見回す。


「なんか……一人減ってねぇか?」


白鐘も即座に確認する。


机、椅子、人数。


だが“誰がいないか”が分からない。


ただ、確実に何かが減っている。


久瀬だけが静かに言う。


「また消えたな」


白鐘が顔を上げる。


「何が……消えたんですか」


久瀬は答えない。


代わりに机の上を見る。


そこにあったはずの報告書の束が、完全に消えている。


有馬が声を荒げる。


「おい!さっきまであっただろ!」


白鐘も頷く。


「ありました……確実に……」


だが次の瞬間、白鐘の表情が曖昧になる。


“それが何の報告書だったか”が思い出せない。


久瀬は静かに言う。


「始まっている」


白鐘が震える声で問う。


「何がですか」


久瀬は短く答える。


「現実の自己修正だ」


有馬が呆れる。


「またそれかよ」


久瀬は窓を見る。


雨は変わらない。


だがその雨粒の一部が、確かに“減っている”。


久瀬は確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「証拠という概念そのものが、現実から削られ始めている」

読んでいただきありがとうございます。

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