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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
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第11話『消えたはずの一致』

雨音は戻っていた。


取調室の空気も、何事もなかったように平常に見える。


有馬が頭をかく。


「さっきの……夢じゃないよな?」


白鐘は即答しない。


資料を見ている。


だが、その手がわずかに止まっている。


「……夢じゃ、ないです」


久瀬は黙ったまま白板を見る。


そこにはさっきまでの事件概要が書かれている。


――正しいはずの記録。


白鐘が言う。


「ただ……」


有馬が顔を向ける。


「ただ?」


白鐘は小さく続ける。


「一箇所だけ、引っかかります」


久瀬が視線を上げる。


「どこだ」


白鐘は白板の一部を指す。


「この“被害者の発見時刻”です」


有馬が覗き込む。


「え、合ってるだろ?」


白鐘は首を振る。


「合ってます。でも……」


「この事件、通報が“二回あった”記録になってます」


空気が止まる。


有馬が眉をひそめる。


「は? それ初耳なんだけど」


白鐘も困惑している。


「でも資料には……」


久瀬は静かに資料を取り上げる。


そこには確かに書かれている。


――第一通報:午前2時

――第二通報:午前2時(同時刻)


有馬が呟く。


「いやそれおかしいだろ」


白鐘が顔を上げる。


「普通なら片方消えます」


「でも両方残ってるんです」


久瀬は資料を見たまま言う。


「消えない方が問題だ」


白鐘が反応する。


「え?」


久瀬は続ける。


「通常なら“矛盾は修正される”」


「でも今回は“矛盾が共存している”」


有馬が嫌そうに言う。


「それ何が違うんだよ」


久瀬は短く答える。


「現実の整合性が働いていない」


その言葉で空気が少しだけ重くなる。


白鐘が小さく言う。


「……でも、誰も気づいてないんです」


有馬が頷く。


「普通に仕事回ってるしな」


久瀬は窓を見る。


雨は変わらない。


だが、音だけが少しずれている。


わずかに“遅れている”ような感覚。


久瀬は静かに言う。


「女が言っていたことと一致する」


白鐘が顔を上げる。


「残響、ですか?」


久瀬は答えない。


ただ一つだけ確かなことがある。


“何かが消えたあと、まだ残っている”


それだけだ。


有馬が資料を閉じる。


「まぁでもさ」


「結局何も起きてないんだろ?」


その瞬間。


白板の文字が一瞬だけ滲む。


誰も触れていないのに。


久瀬の視線が止まる。


白鐘もそれに気づく。


「……今の」


有馬が見る。


「え?」


白板はもう元に戻っている。


久瀬は静かに言う。


「起きている」


白鐘が息を呑む。


「何が……?」


久瀬は短く答える。


「“起きたことが起きていない扱いになっている”」


その言葉に、誰も返せない。


雨音だけが、静かに資料室を満たしていた。


そして久瀬は確信する。


この事件はまだ“壊れていない”。


だが――


確実に“ずれ始めている”。

読んでいただきありがとうございます。

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