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今夜もあなたの夢のほとりで

作者: 生田英作
掲載日:2026/04/28


 

 今日がいつで、どこなのか


 誰も知らないこの屋敷


 あなたの夢のほとりの果てに


 誰かが建てたこの屋敷


 長い廊下とアーチの回廊


 ステンドグラスが、きらきらと


 淡い月夜のサンテラス


 モザイク模様のタイルが煌めき


 ランプの炎が青く燃える


 ここでは、時計も逆回り


 月夜の光は、西から差して


 夜明けの光は、東へ沈む


 ボーン、ボーン、ボーン


 大時計の鐘が鳴る


 時間なんてありはしない


 時計の針も互い違い


 あぁ──


 なんて、不思議なところでしょう


 床に伸びた月明り


 長い長い廊下の上で


 シャラン


 シャラン


 腰から下げた鍵が鳴る


 真鍮製の鍵の束


 ドアの数だけある鍵は


 無限に並んだ無数のドアの


 無限に並んだ部屋のドアの


 果てなく続く廊下の果てへ


 ゆっくり、はやく、ゆっくりと


 螺旋を描く大階段


 上がって、下りて、曲がったり


 シャラン


 シャラン


 シャラン


 あぁ──


 今日は、どこの部屋かしら……


 今日も、あなたがやって来た


 わたしは、壁をすり抜けて


 あなたの元へと歩いてく


 窓から伸びる淡い月


 青い光に照らされた


 ピアノの置かれたサンルーム


 月の光にほの青く


 白く咲いた百合の花


 あなたの指が伸びていき


 ピアノの音が「トンッ──」と鳴る


 わたしは、ドアを先回り


 ガチャン


 ドアの鍵を掛けました


 あなたは、そっと顔を上げ


 ドアの方を見つめてる


 ふふふふ


 もう、そのドアは開きません


 真鍮製の蒼錆びた


 鍵は、どこかでひっそりと


 闇の中で溶けていく


 シャラン


 シャラン


 シャラン


 あなたは、耳をすませると


 わたしの後を追いかける


 長い廊下に大きな階段


 ぐるりとめぐる大回廊


 背中に感じるあなたの気配


 うなじに感じるあなたの視線


 この手に感じるあなたの鼓動


 あなたは、肩を喘がせて


 わたしの後を追いかける


 あぁ、なんて愉快でしょう


 めくるめく


 月夜の闇に満たされた


 無限に続くこの時を


 右に左に


 上、下に


 東も西も無い部屋の


 北も南も分からない


 ドアを開けば廊下が伸びて


 ドアを閉めれば、がらんどう


 上がってみれば、下ってる


 下ってみれば、廻ってる


 袋小路のアマリリス


 ドアが、バタン、と開いたら


 ランプの光が青々と


 揺れる暖炉の大広間


 辿り着いたその場所は


 月の明りに揺れている


 暖炉の上の少女の絵


 あなたは、肩で息をして


 暖炉の絵を見つめてる


 気が付くかしら?


 どうかしら?


 ステンドグラスがさわさわと


 月の光に騒めいて


 あなたは、瞳を見開くと


 周りをきょろきょろ見渡して


 まるで誰かを探してる


 ふふふふ


 螺旋の先は行き止まり


 わたしは花を掻き分けて


 真っ暗闇をひた走り


 ドアの鍵を掛けていく


 ガチャン


 ガチャン


 ガチャン


 ガチャン


 錠が次々下りていき


 ドアは、だんまり不愛想


 あなたは、左右を見渡して


 わたしのことを呼んでいる


 あぁ……


 いまは、まだ──


 いまは、まだ──


 ガチャン


 ガチャン


 ガチャン


 ガチャン


 そう、あと少し──


 もう、少し──


 錠が次々下りて来て


 ドアが残らず閉じていき


 鍵も、次々消えていく


 時間なんてありもしない


 この屋敷の永遠を


 詠う暖炉のわたしの絵


 青い光もお別れの


 寂しい歌を奏でます


 ステンドグラスにゆらゆら揺れる


 月明りのセレナーデ


 さあ、あとひとつ


 そう思ったその矢先──




 ボーン、ボーン、ボーン、ボーン




 朝焼け模様の時計の針が


 終わりの歌を知らせます


 あなたは、どこかへ一目散に


 目覚めて今日も帰ります


 わたしは、鍵を握り締め


 サンテラスでぼんやりと


 月の光とまちぼうけ


 でも、残った鍵はあとひとつ


 わたしは、夜を待ちわびる


 鍵を閉めるその時を


 あなたと過ごす永遠を


 今夜もあなたの夢のほとりで




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