第六章 レースのあと
ゴール後、土煙が収まる頃には、北門広場は熱狂の渦に包まれていた。
「……信じられない! 勝ち時計、これまでの記録を十秒以上も短縮です! まさに『音を置き去りにする末脚』! 勝者、シュンスケ選手とブラックローズお嬢様ぁーっ!!」
受付嬢ミラの絶叫が響く中、リリアナが涙を流しながら駆け寄ってきた。
「シュンスケ様! ローズ様ぁ! やりました、やりましたわ! 私、全財産を……商会の予備金まで全部、お二人の単勝(一着固定)にブチ込んでいたんです!」
「……おいリリアナ、お前、一歩間違えたら破産だったぞ」
「いいえ! 信じておりました、あの脚を! これで商会は立て直しどころか、王都に支店が出せますわ!」
リリアナは鼻水をすすりながら、ローズの手を取ろうとしたが、ローズは「ひっ」と短く声を上げてシュンスケの背後に隠れた。
「……ちょっと、汚いわよ。さっきのリンゴ、追加でもう五つ用意するなら、手くらい握らせてあげてもいいけど」
「はいっ! リンゴでも燕麦でも、お好きなだけ用意させていただきますわ、神馬様!」
そこへ、バルガスがガシャガシャと足音を立てて近づいてくる。
足元では、まだ「……俺の地竜は……本気を出せば……」と虚ろな目で呟いているガストンを、バルガスが容赦なく踏んづけて通り過ぎた。
「ガストン。解説はもういい、お前は失格だ。……シュンスケ、嬢ちゃん。見事な走りだった」
バルガスは隻眼を細め、二人の姿をじっくりと見つめる。
「だがな、一つ忠告だ。この街でこれほど派手に『風』を吹かせたんだ。すぐに噂は広まる。……特に、王都の連中や、隣国の『鉄血騎士団』どもが、その脚を放っておくはずがねえ」
「……鉄血騎士団?」
「ああ。連中は強力な魔獣を揃え、勝ち星のためなら手段を選ばねえ『死神』どもだ。……近いうちに、正式なレースへの招待状が届くだろうよ。断れば、この街ごと踏み潰されかねん厄介な招待状がな」
駿介はローズの肩を抱き寄せ、不敵に笑った。
「……いいぜ。内でコソコソされるよりは、外から堂々と来てもらったほうが、掃除しやすくて助かる」
「……ふん、言うわね。シュンスケ、次の相手は『死神』なんですって? ――ちょうどいいわ。誰が本当の『死を運ぶ風』か、思い知らせてあげる」
夕日に染まるパドックの街。
新たな伝説が、異世界のターフを駆け抜けようとしていた。




