始まり(第2話)
馬車は突然、町のはずれで止まった。ライトは窓の外を見て目を丸くする。
「な、なんですの……ここは?」
御者は無言で馬車を降りるよう促す。ライトが足を下ろすと、そこには見慣れない建物や道しかなく、豪華な城門はどこにもない。さらに、後ろから現れた職員がライトのドレスやティアラ、豪華な靴、魔導アクセサリーを次々に取り上げていく。
「ちょっと待ちますの! これは私の……私の身分を示す重要なものですのに!」
職員はニッコリ笑うだけで、手元の箱に姫の装飾品を詰めていく。ライトの姿は、あっという間に質素な合宿用服とサンダルへと変わった。
「わ、私……皇女ライト……」
言おうとしたところで、職員は姫の言葉に耳を貸さない。姫のティアラは消え、豪華な髪飾りもなく、ただの少女の姿になっていたのだ。
仕方なく、ライトはぐったりと肩を落とし、職員に先導されて町の教習所へ向かう。道中、ライトは何度も振り返り、「あの豪華な馬車はどこ……!」と嘆く。
ようやく教習所に到着すると、ライトはさらに驚く。合宿所は、想像以上に簡素な建物で、4人部屋にベッドが並んでいた。職員はあっさりと
「じゃあ、ここが今日からの部屋ね!」
と言い残して去っていく。
部屋に入ると、すでに3人の少女がいた。ひとりは元気いっぱいの銀髪少女、もうひとりは落ち着いた雰囲気の黒髪少女、そして小柄でおっとりした赤毛の少女。
「よろしくね!」
「……え、えっと、よろしく……」
「同室だね!」
姫は自分の身分を名乗ろうとしたが、口を開く前に、銀髪少女がクスクス笑った。
「はは、冗談でしょ? 姫様だなんて。こんな部屋にいるのに?」
黒髪少女もにっこり笑う。
「誰でも平等だよ。身分なんて関係ないの」
赤毛の少女は首をかしげた。
「うん、ここではみんな同じ。だから名前だけで十分だよ」
ライトはむなしく肩を落とす。ティアラもドレスもない今、誰も信じてくれないのだ。
「……わ、私、雷光=ライト=ローゼンクランツ、雷光帝国の皇女……」
しかし3人はまたクスクス笑うだけ。姫の威厳は、質素な制服の前では完全に無力だった。
その夜、ライトはベッドに横たわり、ため息をつく。窓の外には遠くでドラゴンが飛ぶ影が見える。
「ふふ……皇女としての威厳も、王室の威信も……全部、ここでは役に立たないですのね……」
だが、同室の少女たちの笑顔を見て、姫は少しだけ覚悟を決める。
「……仕方ありませんわね。いやいやながらでも、この合宿を乗り切ってみせますの……!」
こうして、雷光姫のいやいや合宿免許生活は、身分を隠された状態で始まった。
皇女のプライドと、平等な部屋生活、そして未知なるドラゴン教習――笑いと混乱に満ちた日々が、ここから幕を開けるのだった。