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いつか書く  作者: サラダ
カーボ
1/8

1.幼い少年と抗う少女

 魔法の設定がややこしいので、先に説明しておきます。


・魔法は魔力を魔力器官に取り込んで使うもの

・実は作品中の世界の人間は神の魔法によって造られた

・魔力器官ってのは神の存在が腑分けされたもので、人間の思いってのはそこから生まれる

・強い思いを持つことで魔力器官が覚醒して、魔力器官の限界を超える強い魔法が使える

 

とかです。中二病ですね。


 では、どうぞ!

〇登場人物


 カーボ


 とある町の、臆病な少年。

 魔法を使うための器官、"魔力器官"が破損している。


 リン


 カーボの姉。

 最強の魔術師。



————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「カーボ、早く!」


 二人は、森の中を駆けて行く。


 それは、逃げるために。

 あるいは、掴み取るために。


 ◇ ◇ ◇



【二年前】


【煙たく、とても広い書庫】




「ねえちゃぁぁぁん!!!どこだよぉぉー!!!」


 情けない声で叫び、姉を探す一人の少年がいた。

 怖がっているのが丸わかりな表情をしている。


 彼の名は、カーボ。

 炭焼きの家の息子だ。


 そんな彼がいる書庫は、本が天井まで立ち並び、図書館といってもいい程の大きさをしていた。


 それは、カーボにとっては気味が悪く、とても心細い。

 それも当然だ。

 だって、カーボはまだ6歳になろうかというところである。

 身長など、カーボの近くに置いている黒い箱と同じぐらいだ。


 おまけに、書庫はとても暗いのだ。

 ひとりでこの書庫まで来たカーボは、早く姉を見つけようと思った。


 奥には暗闇が広がっている。

 カーボは、肩を狭めながらも恐怖を我慢していた。


 ———そのすぐそばに、誰かが潜んでいた。


「わぁっ!」


 急に、カーボの隣にあった黒い箱の影から、白い少女が大声をあげながら飛び出した。


「わあああ!!!!」


 奇しくも同じ事を、音量を上げて叫ぶカーボ。



「...って、姉ちゃん!何するんだよ!」


 彼女の名はリン。カーボの姉であり、白い髪が特徴的な明るい少女だ。


「ごめんごめん。怖がってそうだったからつい」


「余計悪いよ!」


 そう言って、カーボはリンの手を取って立ち上がった。


「驚かしてくるなんて、聞いてないって!」


「…いっつも私、カーボがこの書庫に来るたびに、あそこから驚かしてるよ?」


「…ほんとだ!」


「まだ気づいてなかったんだ」


 そういって笑うリン。

 リンが全く懲りていないことにカーボは憤慨して、こう言った。


「姉ちゃんとはくちきかない」


 リンは戦慄した。


「そ、それだけは!魔法、一杯教えてあげるからっ!」


「…今日だけとくべつだよ」


 カーボは、この前姉と一緒に行った八百屋さんが使っていた値切りのセリフを使って、姉を特別に許してあげた。


「よ、よかったー!ありがとー!」


「それよりも早く、新しい魔法教えてよ」


「分かったよ、まずは前に魔法について教えたことの確認からね」


 この世界では魔法が使える。

 凍らす、燃やす、動かす、または維持させる、といったような。


「最初の問題!そもそも、魔法って何だっけ?」


「えっと、思いによって、魔力から何かを起こすこと」


 魔法の原理は単純だ。

 空間に充満している魔力を自らの器官に取り入れて、強い意志によって指向性を持たせることで魔法を使うのだ。


「次!魔法を使いすぎるとどうなる?」


「魔力器官が壊れちゃう」


 魔法の素質には個人差がある。

 それは、魔力を取り込む器官、魔力器官の大きさによるものだ。

 また、魔力器官は使いすぎると破損する。

 そして、それは怪我などと違い、自然に回復したり、回復魔法で治せたりするものでは無い。

 なぜなら、魔力器官は特別な魔法で造られているから。

 そして、それを造ったのは———


「最後の問題!魔法で生き物を作ったのは誰って言われてる?」


「これは簡単だよ、神様でしょ」


 とある神であったと言われている。

 そして、生物は、元は全て魔法であったという。

 神の魔法が意志を持ち、生物になった。

 つまり、生物とは今も続く魔法による現象なのだ。

 魔法は時間が経つと霧散する。

 そのため、生物は無意識的に自分を維持する魔法を使っているという。

 ———ともかく、神の特別な魔法によって生まれた魔力器官は特別な魔法でしか治せないのだ。


「全問正解!そんなカーボには、魔法を教えてあげよう!」


「やったあ、って、違うって!驚かした分、姉ちゃんがいっぱい魔法を教えるって約束でしょ」


「魔法のことはしっかり覚えてるね」


「なんだよバカにして…それより早く教えてよ」


 二人はそんなことを話しながら暗闇へ歩き出す。


「今日は何の魔法を覚えたい?」


「かっこいいやつ!」


「じゃあ、空間を歪ませる魔法とかかな」


「ぜったい無理なやつじゃん。ていうか、暗いから光だしてよ」


 カーボは姉に明かりを求めた。


「おっけ。≪ライト≫」


 リンがそう唱えると、リンの右手、いや、その少し上の空中が少し震えた。

 そして、そこに小さな明かりが生まれた。

 これこそが魔法である。


「…まったく、さいしょから部屋明るくしてほしい」


「分かって無いなー、ムードってもんが」


「怖いだけだし、さらにおどろかしてくるじゃん」


「…ごめん」


「じゃあ明るくしてね」


「それはちょっと無理かな...」


(だってここ――


 王城の書庫だし)


 このバカ広い書庫、王城のものである。

 過去に、リンがとある事情で手に入れた【王城に立ち入る権利】を活用して王城に入り、勝手に王城に魔法を使って鍵の掛かった書庫に入っている。

 転移魔法———テレポートを使って。


「ここ、入っていいのかな?なんか変な箱とか、王国のざいむじょうきょう?みたいな本も本だなにあるけど」


「良いんだよ!お姉ちゃん頑張ったから入れる権利持ってるし!ほめてほめて」


「えらいね」


「冷たい!?」


 ちなみにカーボも、姉の転移魔法で作った門をくぐって来た。

 5歳のカーボでも一人で簡単に来ることができる。

 ただ、明かりをつけると王城の警護兵などにばれる可能性があるので、明かりは小さく。


 ちなみにカーボは、姉が王城に入る権利を持っているのは知っているが、この良く分からない書庫に入っていいのかまでは良く分かっていない。

 だから、なんで部屋を暗くしているのか疑問に思っているのだ。


「代わりに今日は、回復魔法≪キュア≫を教えて進ぜよう」


「やった!」


 秘密の場所での、魔法の授業が始まる。




≪カーボの6歳の誕生日≫



 【王城宮殿】


「リン、君には、辺境の結界を更に強化してきてほしい」


 恰幅のいい王が言う。


「分かりました」


 リンもそれに頷く。


 リンは、国随一の結界師である。

 国に結界を張って、()()の侵入を抑える。

 これまでもそうしてきた。

 リンは今年で14歳である。まだこの国の成人まで2年。

 働く義務はないが、理由はある。

 それは...


「報酬は、調魔剤で支払う」


 カーボの病気だった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 ノブレス・オブリージュ———



 この国の王が好きな言葉だ。


 意味は、「権力を持つものはそれ相当の責務を持たねばならない」。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


≪更に2年前≫



 たまたまあった非常に巨大な魔力器官、つまり魔法の才能。それをひけらかし、家族を蔑ろにしながら、リンは王の支援を得て魔法の研究に没頭した。


 そして、リンは暗殺されかけた。


 他国の暗殺者。

 暗殺者の数が多すぎて、護衛もいない一人では魔法を使ってもさばききれず、隙をさらした。


「姉ちゃん!!!!!」


 カーボは、持てるすべての力を使おうと、魔力器官を全駆動した。

 姉に向かう暗殺者を止めようと。


 だから、カーボの魔力器官は破損した。

 魔力器官は、神の魔法そのもの。よって、限界もある。

 子供の、いや、人の限界を超えていた。


 そして、カーボは調魔剤が必要となった。

 調魔剤とは、この国の外敵「魔物」の魔力器官を、とある方法で変幻自在な形に加工したものだ。

 神が創った魔力器官を人の手で手当てするには、同じく魔力器官を使うほかないのだ。

 それを摂取することで、治すことはできずとも、カーボは一時的に魔力器官をなんとか稼働し、自らを維持することができる。

 その製造には、死した魔物の魔力器官が必要だ。

 人の命を懸けて戦わないとと得られない。

 さらに、その加工技術は王家のみに受け継がれている。


 つまり、調魔剤の値段は非常に高い。


 だから、リンは王と取引して、働いた。

 家業の炭売りだけでは、調魔剤なんてとても買えないから。


 自分を生かした弟を生かすため、破損した魔力器官を保たせるため、王の命令に従った。

 更に暗殺者は増えた。しかし、いい。

 自分が死んだなら弟に一生分の調魔剤を渡すよう、王に言ってある。


 弟の魔力器官のトレーニングとして、魔法も教えた。

 弟が、自分と同じように、魔法が好きなのは分かっていた。

 一生初歩的な魔法しか使えないだろうが、魔法を使うことで魔力器官は活性化する。


 調魔剤を得るため、自分のせいで傷ついた弟のためなら、何だってできる。


 蔑ろにしても自分を愛してくれる弟が生きられるなら、自分は笑える———



 だから、王は働かせた。


 王は国民を愛している。

 そのために、魔物によって人が死ぬことを嫌った。


 魔物は、遠い昔に邪神が産みだしたとされる、人が栄えていくのに伴って数と力を増していった人間の大敵。

 黒いオーラをまとい、野生動物の姿をしながら野生動物以上の力を持って人を無差別に襲う化け物。

 この国でも、多くの被害が出ていた。


 だから、ノブレス・オブリージュを自らの根幹とし、国民にも語っている王は、力のあるリンに、調魔剤の対価として国を守らせた。


 ただ、ひとつ問題がある。

 リンが決死の思いで結界をつくったことにより、国に魔物が入ってこなくなり、魔物を狩らねばならぬ数が減った。

 だから、将来的には調魔剤が足りなくなる。

 子供一人を生かすために無駄に魔物を狩って、兵士を犠牲にすることなどできない。


 さらに、宗教があった。世界中に広まる、宗教が。


 はじまりの魔法により世界を創った神。

 その神が相打ちした、世界を破壊する魔神。

 そして、魔神に取りつかれ、()()()()()()()()()、魔神の供給によって生きながら他の生物を襲うようになったあまたの生き物。

 彼らを消し去り、この世界を守った女神。


 そのせいで...


「魔力器官が壊れた子供など、クソにもならぬ」


 王はカーボを、()()としては見ていなかった。


(リンが死んだら、カーボはそのままでいいか)


 もしリンが死んでも、「一生分の調魔剤」など渡すつもりも渡す当てもなかった。


 調魔剤が尽きるまでに、リンは死ぬだろう。何者かの手によって。

 リンが結界をつくって他国で有名になったことにより、暗殺者の数は増えたし、さらに辺境など危ない場所だ。

 あいにく、リンの手によって結界は完全となり、ほかの低級の結界師によって結界は維持できるようになった。

 それでもわざわざ、成人もしていないリンを使う理由は...


 当然、リンが死んだら調魔剤を渡さなくてよくなるからだ。


 できれば早めに死んでほしい。結局、リンだって魔力器官の歪んだゴミの姉だ。


 便利な道具としか、見ていない。


 力を持つなら、それをすべて使いきって死ね。


 他の結界師を危険な辺境に行かせる理由などない。


 そもそも、調魔剤の素である魔力器官の粉は、実験や研究にだって使うのだ。

 これ以上どぶ沼に捨てるのは勘弁だ。





「クソみたいな王だ」


 リンは、すべてわかっていた。


 リンは賢い。だからこそ、必死で更に魔法を学び、必死で結界を作り、その勲章としてカーボの一生分の調魔剤と王城への自由出入りを認められた。


 国民に、自分のことを「まったく益の無い王城出入りを求めるなんて、忠義がある子供だ」と思わせることで、カーボへの差別を緩和した。


 二人で、近所の八百屋に行けるほどには。


 必死だった。


 そして、極めた魔法を使って、勝手に、王城の書庫に入った。


 もしものために———

 もしそうであったなら———

 予感が当たってしまっていたら———



「ない」


 王があると言っていた、カーボの一生分の調魔剤。

 帳簿に書かれた調魔剤の素———魔物の魔力器官は、


 カーボに必要なものの10年分も残されていなかった。


 リンのすることは決まっていた。




 カーボも、賢い弟であった。だから、リンが働くことに疑問を持った。



 姉ちゃんが毎日くれる薬。

 その瓶を開けると、白い光が漏れ出る。

 そして、数秒もたたずに、その白い光は僕の中に吸い込まれる。


 あの時に、後先考えず魔法を使いすぎて、自分の魔力器官がなにかおかしいのは知っていた。


 昔は自分に関わろうとしてこなかった姉に、それでも「使いすぎは身を滅ぼす。お酒みたいなもんなんだ。お父さんを見ればわかるでしょ」と教えてもらったにもかかわらず、使いすぎて、壊れた。


 そして、姉ちゃんを傷付けた。

 姉ちゃんは泣いていたから。

 でも僕は、姉ちゃんが助かるならそれでよかった。

 近所の人たちにいじめられるのは、ちょっとつらかったけど。



 姉ちゃんはその日から、毎日のように働きだした。


(毎日くれるあのお薬のせいなのかな)


 そう思って姉ちゃんに聞くと、どうやらそんなに高価ではないといわれた。


 ただ、王様の「ノブレス・オブリージュ」という考えに共感を持って、自分も国の人々を助けたいと思ったらしい。


 確かに、姉ちゃんは今までと同じように、笑っている。

 それなら大丈夫か。そう思って、安心した。


「すごい仕事をしてやったぜ!


 ほら、新聞の一面に載ってるでしょ!王城入り放題だって!

 いろんな人たちにすばらしいーって言われてるんだよ!


 これでカーボ、魔法をいっぱい覚えられるよ!

 ほら、魔法使いたいって昔言ってたでしょ!

 ほめてほめて!」


「すごい、お姉ちゃん」


「...っ、ありがとう... カーボ」


 尻尾を振るようにカーボに飛びついてくるくせに、ほめると急に言い淀んで、顔を背ける姉ちゃん。


 その口がにんまりしてるのはうれしいからなのかな、と思うと、カーボもうれしくなった。




 しかし、

 ずっと家に帰ってくる姉を見ていたから。


 やはり疑問を忘れられず、姉に再度尋ねた。


「なんでかわかんないけど、くるしそうな気がするんだ」


 自分に向ける笑顔。

 幸せそうな、満面の笑み。

 でも、ずっと見てきたから分かる。

 

 その笑顔は、あの日以前と比べると、もっと楽しそうで、

 ちょっと寂しそうな気が、した。


「……」


 リンは少し、黙って、それから言った。


「ノブレス・オブリージュ」


「能力のある人は働かなきゃいけない。できない人以上に頑張らないといけない。

 そんな風な言葉だって、王様は言ってる。」


 リンは、真実を優しく遠ざけながら、カーボに思いを伝えようとした。

 死ぬかもしれない、自分の。


「でも、私はちょっと違うの。


 私は、魔法の才能があるからって大勢に自慢して、認められた。

 危ない目に遭って助けてもらってからは、本当に後悔してるけど。


 でも、その時認められたのは、頑張れば報われるっていう社会があったからだと思うんだ。

 頑張れば、報われるから、頑張れた」


 リンは思い出した。

 つい最近、結界をつくった日のことを。



 冷たい視線。

 協力してくれない辺境の人々。

 大量の魔物。控えめに言っても死にかけた。


 でも、結界をつくり終えたとき、見る目が変わったのだ。



(あんな苦労をして、やっと認められるの?)

(じゃあ、魔法が使えないカーボはずっと認められないの?)

(私は、本当は社会から認められなくてもいい。カーボのためだったら頑張れる。けれど)


 弟を救うために働いていた。

 その助けたいという思いが、さらに補強された瞬間。

 自分を身代わりにしても、助けようと決めた瞬間。


「だから、報われない社会なんて嫌なんだ。

 頑張るためには、励ましてくれて、背を押して、手を持って引き上げてくれる人が必要なんだと思う」


 私は薬のために、これからも危険に身をさらし続けなければいけない。

 でも、それで私が死んだら、誰の助けもないカーボはどうなるんだろう。

 頑張る理由が必要なのだ。

 私がそうであったように。


 私には力がある。

 そして、自分を犠牲にしてでもカーボを守りたい。


 だからー


「しょせんお前なんか、なんて蔑んで言ってくる社会、お姉ちゃんは壊したいんだ。

 そのためだったら、お姉ちゃん、頑張れる気がするんだ」


 リンは笑った。

 自分が、この生き方がいいと思ってるということを、伝えるため。


 リンは、辛い現実に立ち向かう。


 ただ、カーボが大切だった。

 ただ、カーボが生きられるようにしたかった。


 それが、リンの想いだった。


 だから、本当を込めて、噓をついた。


「私は、いっぱい報われてるよ」


 ()()()()()の笑顔で。



 私は、カーボが助かればいい。

 カーボがいれば、それでいい。


 ――少しの、胸の痛みには顔を背けて。



(じゃあ、なんで)


 カーボは、納得がいかなかった。


 報われてるというのに、なんで()()()()顔をしてるのか。


 でも、リンが満足していることも分かって、何も言えなかった。


 自分が姉の荷物にしかならないと知っていたから。

 リンに感じた、覚悟のような強いものに、心配を募らせながら。



≪そして、時はまたカーボの7歳の誕生日≫



 王城にて、リンは言った。

 計画を実行するため。


「今回の結界強化に、カーボを連れて行ってもよろしいでしょうか」


「……それには、護衛が必要だろう。許すとでも思ったか?」


 そう言いながら、王は訝しんだ。


(カーボ……あのガキを連れていくだと?)


 ずっと家にいるカーボ。カーボをともに連れて行くなんて、理由が全く分からなかった。

 ちなみに、カーボが外に出ないのは、王が裏でこっそりと近隣住民にカーボへの迫害を指示しているからだ。

 そうすることで、リンの行動範囲を絞っていた。


(どういう意図だ)


 リンの魔法の実力を高く認識し、自らのリンへの扱いの悪さも分かっている王は、辺境での反逆の可能性を考えた。

 まあ、たった二人で民に慕われる私に打ち勝つなど、無理であろうが。


「カーボは、魔物に襲われない力を持っています」


 リンは、自分の発言の理由を説明した。


 そう、カーボには()()()()()()()()()という特性がある。


 理由はリンも分かっていないが、魔物のいる可能性が少しある辺境で、役に立つ能力なのは間違いない。

 ...町の人々は、その特性のことを「魔物に仲間だと思われてる」なんて言うのだが。


「ふむ、それならば護衛が必要ないな」


「私も魔法を使えるので、今回の結界強化に護衛は必要ありません」


「……なぜだ」


 王はリンを睨んだ。


「護衛がいても、下級騎士数人では魔物や暗殺の対処に意味がありません。私一人で…」


「そういうことではない、なぜカーボを連れていく」


 王は分かっている、弟を愛するリンが無為に危険な場所にカーボを連れて行くようなことはしないと。

 リンは、弟のために死を顧みず働いているのだから。


「……弟に、外の世界を見せてあげたいからです。


 辺境では、魔力器官による迫害が少ないので」


 それは、王が裏で迫害を指示していることへの、皮肉。


「……なるほどな」


 ……気付かれていたのか。


 そう焦りながらも、その怒りを向けられると、王は納得した。

 弟の迫害が嫌だから辺境を見せたい。当然かもしれない。


 王は、長年リンが自分に忠実だったことを信頼して、

 そして、そんなリンが怒りを見せたことに本音を感じて、

 そして自分の裏の行動を許させようと思って、

 リンの言葉を疑わず、信じた。



≪次の日≫



「カーボ、私、言わなきゃいけないことがあるの」


 リンは、カーボを見た。


 あの時の目と同じだ、とカーボは思った。

 強くて、着いて行きたくて、でも心配な目。

 だから、カーボは黙って姉を見た。


 リンは言った。



「この国、逃げよう」



 国外脱出の、計画を。



「…なんで?」


 カーボは、どういう意味か分からなかった。


 リンは伝えた。

 カーボの調魔剤が、足りないのだと。

 だから、国外に出て2人で魔物を狩って生きようと。


 カーボは気づいた。

 調魔剤の価値を。

 そして、こんな計画をする程に———


 リンは、自分のために思いもよらないほどの努力をしていたのだと。

 自分のために、たくさん働いてくれていたのだと。


「姉ちゃん、俺は…姉ちゃんが一番大事だ」


 姉への心配。

 自分の不甲斐なさに心を蝕まれながらも、カーボはそれを伝えた。


 しかし、リンはカーボを包み込むように言った。


「私も。きっと、カーボ以上に、カーボが大事。


 これはね、私がどうしてもカーボを生きさせたいだけ。

 どうしても、やめない。私がしたいだけだから。


 だから、気にしないで」


 そう言って、リンは笑った。


 それなら、自分は、どうすればいいか。

 答えはすぐに出た。


「ありがとう、姉ちゃん」


 カーボは、同じように笑った。姉に応えたくて。


「それじゃあ、カーボは逃げるために持ち物をまとめといて。

 私は書庫でしなきゃいけないことがあるから」


「わかった!」


 そう言って、カーボはドアを開けて走っていった。

 小さな勇気を、胸に抱きながら。



 リンは、書庫へと歩いて行った。

 そして、黒い箱の前で立ち止まった。

 いつも、陰に隠れてカーボを驚かしている、あの箱だ。

 そして、いつもリンが解錠しようとしていた箱。


 深呼吸を一つ。


(私なら、できる)


 強く、純粋な願いが魔法となって、光を発した。


≪アンロック≫


 リンの繊細な魔法によって、箱が開いた。


 その、中身は———


(これで、やっと調魔剤を作れる)


 王家秘伝の、調魔剤の製造方法。



 だと、思っていたが———


(!?)


 違った。

 だって、それは———


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 カーボは、姉に言われた荷物整理を行っていた。

「よし、そろそろ終わる…」


「カーボ!」


 リンの声が響いた。


「どうしたの、姉ちゃん!」


「すぐに逃げるよ!」


 焦った様子でリンは言った。


「城のやつらに、気づかれたかも!」

面白い小説を書きたいです!


アドバイス等、修正点あれば感想で教えてください!

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