-世界の果てへ進むこと-
ヒューマンドラマとも、エッセイともつかないものなので、
その他といたしました(^_^;)
だいぶ前になる……。
この世界へと戻ることにした頃のことだ。
その頃はまだ、異世界転生もの、なろう系という言葉を知らなかった。
そうした頃の話だった。
その頃はまあ、いろいろあって、
以前の生活を切り換えて、
過去の世界へと、一度捨てた世界へと適応しようとしていた。
十年以上も、全く見ていなかったメディアなどを、
ふたたび覚え直そうとしていたのだった。
以前はそれこそ、息をするように読んでいた小説や和製のファンタジー小説をふたたび読もう思っていたのだった。
自分がそうしたものを見ていたのは、今はライトノベルという名前で定着している小説群に、そうした名前はまだ付いていなかった頃のことだ。
その頃の自分はまだ、ネットワークで文章を読むということを、(もちろん書くということも)始めていなかった。
その時はまだ、投稿サイトという存在を知りもしなかった。
きっかけは、あるアニメーション作品の番組を観たこと。
終わり間際の回の放映を、何度か視聴したといったことからだ。
剣技をテーマとした、仮想現実のゲーム世界へと閉じ込められた人々と主人公の物語。
過去のファンタジー小説。異世界召喚、異世界転生の物語へとつながるピースに出会った瞬間だった。
自分は古い作品、以前に手放した(海外であったり、和製であったりの)ファンタジー小説など、そうしたいろいろなものを取り戻そうとしていたのだけれど……。
書店で新しい物語へと手を伸ばしたのは、あの物語を見たことがきっかけだったように思う。
仮想現実世界での剣技。
アニメーションの元となり、ネットでの小説から出版された一巻を手にとって、それから二巻、三巻と読み進んでいった。
そこに囚われていた人の、そこから脱出するための、
死と隣り合わせのゴールを目指す物語。
現実の孤独から、ゲームの世界へと埋没することとなる主人公の、
苦しさと、孤独と、一握りの憧憬と、
そんな想いが込められた作品として、それは自分の心へと響き、刻まれた。
孤独さと繊細さ……。その青い結晶のような想いは、
今も自分の中に残っている。
それから、いろんなラノベの物語を読みあさった。
ただ、自分の気持ちはネットワークには向かわなかった。
書籍の形を求めていた。
以前からの、紙の手触りを好んだからだった。
たくさんの、ネットから生まれた本に出会った。
そうしたなかで、面白いもの、楽しいもの、自分には合わなかったもの。
とても心に響いてきたもの。
いろいろな物語と出会っていった。
そしてまたひとつ、響く作品へと出会い、惹かれた。
その物語は、初めのきっかけとなった作品と、似ている世界という印象を受けたものだった。
だからこそ惹かれたのだと思う。
蒼弓の世界。その果てを目指す物語。
仮想現実ではないはずのゲームである世界が、何故か現実となる。
そうした不思議な出来事に巻き込まれた、たくさんの人たちの物語。
とても多くの、多種多様な人たちが楽しんでいたゲームの世界は、
彼らの世界は、蒼空に浮かぶ島としての大地と、
それらを渡る飛空船とで結ばれた、冒険の世界へと変わっていた。
なぜそうなったのか?
自分たちはそのゲームの世界で、本当に生きているのか?
ゲームをクリアしたなら、もとの世界に戻れるのか?
たくさんの事がわからないままに、ゲームのクリア後の帰還を願い、人々はゴールを目指す。
そうしたなかで、主人公の目的はゲームを、その世界の冒険を楽しんでいた。
仲間との絆、その憧憬と、
心おどる冒険と、世界の謎と……。
命懸けの戦い。
戦闘での意表を突かれる展開と演出。
ゲームのクリアを、蒼弓の果てを目指す物語を……。
自分はこの物語がとても好きだった。
物語の軽妙さと、心踊る冒険を主眼に据えたところ。
楽しさという雰囲気を、物語を通じて発するところ。
世界の成り立ちを、その謎解きを想像するところ。
そうしたものが、その時の自分の感性に合ったのだ。
非現実だからこその楽しさの部分と、現実となる部分の問題提起と、
困難に立ち向かうための決意と、仲間への手助けを求められる素直さ……。
立ちはだかる出来事を受け流すしなやかさを得たい。
そして心許せる仲間が欲しい。
その時はおそらく、そんなことを感じていたのではと思う。
蒼弓の果て……。
その言葉はとても好きで、
そこに行きたいと、いつか行ってみたいと感じていた。
そうした、いろんな物語を読みながら、
間を置かずに、またひとつ心に残る作品と出会う。
それは今まで読み、心に残ったものと似ていたけれど、それまでのものとは見ているものが違うもの……。
ゲームの世界から始まりながらも、そこで生きることを考えている物語だった。
まだ見ぬ新たな地平へと至るための日々を綴る物語。
のちにアニメーションとなるこの作品は、
架空の、ゲームという世界でありながらも、現実と連なる事象、現実を思わせる出来事など、
そうしたさまざな苦悩、そこから逃れられない人々の日常を描き続ける。
孤独さを、迷いを抱えていた主人公は、
そうした多くの課題を、仲間たちから支えられて解決してゆく。
現実では無かったはずのゲームの世界が投げかけるもの。
ゲーム世界に閉じ込められた人々へと、
現実の影響と、ゲームという違和感とを見せつけながら、この閉じ込められた世界への疑問を投げかける。
この世界に生きるのは、自分たちだけではないという現実を……。
この世界で生き抜くことを、遥かな地平線を目指してゆくことを、
世界の中で、周りを見つめ直すこと、自分と向き合うということを……。
目を背けずに歩くことへの気付き。
そうしたことを考えさせられる物語だった。
スタートは似ていても、かれらの進む道は違う。
以前、ここからいなくなった人が言っていたこと。
ある作家さんの言葉だとおしえてくれた、あの人の言の葉。
「たとえどんな歩き方で、どの方向に歩き出そうとも、あなたにとっては前進だ」
深く心へと響いた、あの言葉を思い出した。
彼らは、物語の主人公たちは、
いろいろな想いを紡いで、そしてそれぞれの道を進んで行ったのだろうと……。
たくさん物語、たくさん世界。
読者を導くためのスタートは似ていても、その進む道は違う。
心に響く、共感を呼ぶ物語。
読み手の心を惹きつけている物語たちを、主人公と共に読み手の想いを、
書き手たちは導いてゆくのだと……。
あの頃ここで、自分がこの投稿サイトで書き始める前、
三つの物語は綴られている途中だった。
ゲームという世界は面白く、
そして物語を作り出し、表現するためのやり方は興味深く、
そして何よりも、とてもとても楽しかった。
すべての物語がひとつに内包されているような感覚と、日々のいろいろなものから遠ざかれる楽しさ。
それは過去に楽しんでいた、テーブルトークRPGというゲームのセッションのことを思い起こさせるのだった。
あの頃の、埋没してゆく楽しさを……。
世界を、
物語を、
そうしたものを作り上げてゆくという、心から楽しんでいた頃の想いを。
自分も何か書けるだろうか……。
その時、微かにそう感じたのだろう。
そうして、自分は書き始めるための準備を始めたのだった。
そしていろいろあって、自分はここで書いている。
久々に、とても好きだった物語へと想いを馳せて、
あの頃に、ここで書き始めた頃の気持ちを思い出す。
ああ……、
自分はここで物語が書きたかったんだ。
自分の、自分だけの物語を。
-つぶやきのような感謝のきもち-
川原礫先生
瀬尾つかさ先生
橙乃ままれ先生
『ソードアート・オンライン』
『スカイ・ワールド』
『ログ・ホライズン』
ゲームという世界での物語を書いたこれらの作品へと触れることで、
自分の心は、当時、友人たちとしていたTRPGセッションへと埋没していた頃へと戻っていったのだと感じています。
物語を読み、世界を楽しむという感覚から、
物語を考えて、世界を作り上げることを楽しむという感覚へと、
自分の気持ちは還っていったのだと。
ですから、
それぞれの先生方に感謝を。
投稿サイトでの物語を読む習慣の無かった自分が、
こちらで書き始めたことのきっかけの一部は、
間違いなく、緒先生方の作品を書籍として見たことからでした。
今の自分は、物語を読む楽しみと、物語を書く楽しみの、
二つの楽しみの中を行き来しています。
世界の果てへと向かう一歩を踏み出して、
果てなき世界へと、歩き続けることを、
今も繰り返しています。
ここでは書かなかった本にも、たくさん出会いました。
言葉にしなかった物語たち、作者の方たちにも、とても感謝しています。
そうしたたくさんの作品と触れあえて、自分の今があります。
どうもありがとうございました。