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ホシタネの短編集

落涙と幻影の曇り空

作者: ホシタネ


 何十年この研究に携わって来ただろう。ただ一つの事を証明する為にありとあらゆる手を打ち続けた。その過程で数多の革新的な発見をしたが故に科学者としての名声は得たが、証明したかったものは結局分からずじまいで終わりだ。

 私は既に重い病に罹っている。長くとも数日、早ければ今日中にも私はこの世からいなくなる。心残りしかない。どれだけ賞を貰おうと、どれだけ尊敬されようと、私の心を満たすことなど出来やしなかった。

 私は目の前の景色に視力を使っていなかった。目を瞑って、あの光景を思い出した。私が科学的に解明して見せると決めた、あの不思議としか形容出来ない出来事を。



 既に40年以上の月日が経っているが、それでも鮮明に覚えている。小学1年生の春。こうして暖かった日の4時間目。体育で外に出ていた私達は“それ”を見たのだ。ここまで鮮明に覚えている理由は一つ。それだけ衝撃的だったからだ。そして、それと言うのは



 空を浮かぶ鯨型の雲だった。



 今にして思えば、よくあんな摩訶不思議な現象をごくあっさりと受け入れられたなと思う。それだけ日常にありふれた事のように感じていた。当時の同級生は兎も角、先生すらパニックを起こしていなかった。

 並大抵の人間はここで既に笑い出すだろう。冗談を言っているだろうと。それで構わない。何故なら、本来それが正常な反応だからだ。この時点で既に言っている事が支離滅裂なのだが、更に続きがある。

 あろうことかその鯨雲と会話したのだ。そして鯨雲はおいでと言うから、皆で輪になって飛ぶと、風が吹いて私達を鯨雲に連れて行った。

 強風でも無いのに、何がどうしたのかそうなってしまった。そして、鯨雲の上から街を眺めた。その時は純粋に楽しんでいた。今考えると無垢であったことを痛感させられるが。


 鯨雲の一件を徹底的に解明したい一心で、私は科学者になり研究し続けた。しかし、幾ら研究しようとも出てくるのは副産物ばかりで、メインディッシュが姿を見せることは無かった。そして、私は既に消え入りそうな命を抱えている。


 涙を流していた。もう私は身体を動かす事すらおぼつかない。過去から戻り目を開けても、コンクリートの天井以外何も見えない。

 その時、天井が光ったかと思うと、その先から何かが降りて来た。私は我が目を疑った。

 そこにいたのは鯨雲だった。その上に乗っていたのは、かつての同級生と先生だった。どうやら私を迎えに来てくれたようだ。再び流れた涙は私の頬を伝ってゆく。なんだ、簡単じゃないか。鯨雲は…


 こうして、偉大な科学者は次の世界へ旅立った。その旅路がどうなったのかは、誰も知らない。

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