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エマの特異体質

お祖父様も私の指差す方を眺めます。

そこには、川岸に上半身が乗り上げた状態で倒れた人の姿が。

お祖父様の目も驚きで見開かれ、そして急いでブラックまで戻り、ブラックの体に吊り下げていた鞄から、ロープを取り出しました。



川岸のかなり太い木にロープをくくりつけ、そして反対側をお祖父様の体に巻き付けています。



「エマ、ここから動かないように。いいね。」



私はブンブンと首を縦に振り、川に入るお祖父様を見つめます。



対岸まで、約50メートル程でしょうか。

下流で穏やかと云えど、川の中程迄進んだお祖父様は、胸の下まで水に入っています。

背の高いお祖父様であの状態であれば、私は絶対川底に足も届かないでしょう。



無事、対岸まで渡りきったお祖父様は、急いで倒れている人に駆け寄りました。

おそらく、心臓の音を聞いているのでしょうか。お祖父様が倒れている人の体に耳をつけている姿が見えます。



お祖父様は私に向かって大きく手を振って、生きていると叫びました。

その後は倒れた人を背中に担ぎ、自分の体とロープでくくり直し、川を戻ってきました。



お祖父様に担がれた人は、どうやら男の子のようです。

イーサン兄様と一緒ぐらいか、もしくは少し小さいように感じます。

男の子は、そのままお祖父様に背負われたまま、再度しっかりとロープで結び直しました。

そして、急いで3人でブラックに乗り、家に帰ったのです。



見知らぬ少年を抱えた、びしょ濡れのお祖父様を見て、屋敷の皆は驚きを隠せません。

執事長のセバスに客間の用意と、医師を呼ぶようにお祖父様は伝えました。



そして、全身ずぶ濡れの男の子も、温かいお湯で体を拭いたあと、イーサン兄様の服に着替えさせられました。



私も、ブラックの上で濡れたお祖父様に抱えられていた事で濡れてしまっていたので、侍女達に無理矢理お風呂に入らされました。



医師の見立てによると、顔や腕に擦り傷や切り傷、全身に打撲は見られるが、骨折はしていないようです。

そして、おそらく昨日の雨で増量した川に、何かしらの事故で流されたのではないかと大人達は話していました。

溺死してもおかしくない状況で息があったことは、奇跡としか言いようがないとも。

しかし、長い間水の中にいたせいか、肺炎になりかけているらしいです。

医師より、絶対安静を言い渡されました。



私も着替えを済ませ、急いで客間に向かいます。

客間の扉を開けると、お祖父様、執事長のセバス、女中頭のマリアが居ました。

あ、良かった。お祖父様も着替えを済まされています。いくら身体が丈夫なお祖父様でも、あの状態で長時間いたら、風邪を引いてしまいます。

そして、男の子はどうやら薬が効いているのか、眠っていました。



「彼は、どうなりましたか?」



私はベッドサイドに腰を掛けていたお祖父様に声をかけます。



「今はよく眠ってるよ。でも、肺炎になりかけているようだから、このまま安静にしてあげような。」



ポンと私の頭に手を置いて、撫でてくれました。



まじまじと彼を見ます。

黒い髪は癖っ毛なのか、クルクルしています。少し長いのか、前髪が目に被さっています。

今は眠っているので、目の色はわかりません。

頬には大きなガーゼが貼られています。確か、切り傷があったので、治療されたのでしょう。

やはり、イーサン兄様くらいの年齢でしょうか。少し服は大きいように見えますが、まずお兄様は平均よりも身体が大きいですから。



それにしても、左腕には点滴が繋がっていて、痛々しいです。

私は点滴の針から目を反らしました。そして何気なしに見た手首に、腕輪が填まっています。

そこには、紫の石が嵌め込まれていました。



「あ、きっとあの時光ったのは、これなのかもしれない……。」



私が彼を見つけれたのは、何かが太陽に反射して光ったからです。

私はなにも考えずに、その腕輪に触れようとしました。と同時に、横に座っていたお祖父様が徐に立ち上がり、いかん!!と言って私の手を掴もうとしました。




ーーーパリンッ




お祖父様が私の手を掴むより、私の方が先に腕輪を触ってしまいました。

とっても嫌な予感です。

先程の音は、もしかして、もしかすると、私が原因かもしれません。

青ざめながら、私は自分の指先を見ました。



ーーーーーー!!!!



彼の手首にあったはずの腕輪が、真っ二つに割れていました。



「お祖父様っ、どうしましょう。これ、魔道具だったんですか?」



お祖父様は、頭を抱えてしまいました。



実は、私は生まれた時から魔道具との相性が悪く、私が触るだけで何故か壊してしまう、魔道具クラッシャーなのです。

ならば、体内の魔力値が高いのか?といえば、それは全くの真逆で、ゼロなのです。

人間、誰しも必ず魔力があります。後はそれが多いか少ないかの差なだけで、オギャーと生まれた時から、持っているものです。

それが、何故なのか私には1ミリもありませんでした。



その事実を知ったのは、去年のことです。

ラウール王国民は5歳の誕生日を迎えると、必ず領地の神殿へ赴き、自分の魔属性を調べる事になっています。

普通は、属性を調べる水晶に手を振れると結果がわかるようになっているのですが、何せ水晶も魔道具なので、私が触れてしまったら壊れてしまいます。

神殿にその事を伝えたら、王都の大神殿にいらっしゃる、教皇様であれば、直接調べることが出来ると言われました。



教皇様は神殿の中で一番偉い方なので、そう簡単にはお会いすることが出来ません。

結局お会い出来たのは、5歳の誕生日から半年過ぎていました。

大神殿へは、教皇様と顔見知りという事で、お祖父様に連れていってもらいました。お父様は自分がついて行きたそうでしたが……。



大神殿に到着すると、話しは事前に通されていた事もあり、すんなりと神官の案内を受け教皇様と対面しました。



「久しいなバレル。息子に家督を譲ったら、孫と悠々自適の生活か?羨ましい限りだのう。」

「そうだろう、そうだろう。孫は可愛いぞ。お主も早く若いのに譲ったらどうだ?いつまでも耄碌ジジイがデカイ顔をしててどうなる?疎まれる前に引退する方が幸せだぞ。」



お互いにがっちり握手をしながら、腹の探り会い……でしょうか?



事前にお祖父様から、見た目は好好爺だが、神殿という特殊な団体のトップに長年降臨しているだけあって、只のジジイと思うなかれと苦言を呈されていました。

とりあえず困ったらニッコリ笑っとけと、お祖父様からアドバイスを頂いています。



「さてお嬢さんや、名前は?」

「エマ=ウィンドミルと申します。」



ドキドキしながら、覚えたてのカーテシーを教皇様に披露しました。

お祖父様も隣でウンウンと頷いているので、おかしくなかったようです。



教皇様はニッコリと微笑み、両手を私に差し出しました。



「どれ、早速属性を調べてみるかの。エマ嬢、私の手をとりなさい。」



私は言われた通りに、教皇様の手を握りました。

すると、体の中を何かが駆け巡るような、とても不思議な感覚がしました。



「ほほう。これはこれは……。」

「おい、焦らしとらんとはっきり言わんか!」



お祖父様が我慢できなかったのか、教皇様に詰め寄ります。

教皇様は私の握っていた手を離しました。



「うーむ。ワシも何万と見てきたが……。こんなのは初めてじゃ。」

「だから、勿体振っておらんと、教えてくれ。エマの魔属性はどうなんだ?」



教皇様は何やら考えこまれてしまい、あーでもない、こーでもないと呟いています。

教皇様が初めて見たという属性って、一体………。

自分自身なんだか怖くなってしまい、お祖父様にすがり付いてしまいました。



「……………無いのじゃ。」




「「えっ?」」



無い?

私もお祖父様も、お互い顔を見合せ首をかしげます。




「エマ嬢は、属性どころか、魔力が1ミリも無いのじゃ。」




「なんじゃそりゃぁぁぁ!!!」

「…………………………………」



隣でお祖父様は、今にも教皇様に飛び掛からんとする勢いです。傍らで私は、呆然としました。

魔力とは誰しも持っているものと教えられてきました。

魔道具を壊してしまう力も、何かしらの魔力が働いているせいだと家族皆が思っていましたし、私もそう思っていました。

それがまさか、ゼロだったとは。



「しかしもっと、……もっと不思議なのは、魔力は無いのに、魔力庫の容量が半端無く大きいのじゃ。」



魔力庫?初めて聞く言葉です。

私は首をかしげると、それを見た教皇様が教えてくれました。



「魔力庫とは、その人本来が溜めておける魔力のタンクみたいなものじゃ。これが大きいと、魔力量も比例して大きくなる。その魔力庫が、エマ嬢は魔導師並み、否、城の特級魔導師並みの大きさがあるから不思議で仕方がない。」




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