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ウィンドミル辺境伯

ここは、ラウール王国の王都から西に3,600キロ離れた、隣国ピエタ帝国との国境の要塞都市ザイオン。

そこを納めるのは、武力を誇るウィンドミル辺境伯である。



隣国ピエタ帝国は魔法に特化した国で、魔道具の輸出で財をなしている国だが、国土も狭く、鉱産物などの資源も乏しい。

逆に、ここラウール王国は広い国土と豊かな土壌、豊富な鉱産物を排出している。



35年程前までは、ラウール王国からは農作物を、ピエタ帝国からは生活用品の魔道具を輸出入し、両国の関係はとても友好的であった。

がしかし、ピエタ帝国の皇帝が息子へ代替わりした途端、穏健派だった前皇帝とは違い、好戦的な現皇帝は、輸入に頼るのではなく、領土を奪えば良いと国民へ訴え、ラウール王国に対し、戦を仕掛けるようになった。



元々王家の領地であったここザイオンを、当時将軍職であったバレル=ウィンドミル伯爵に、辺境伯の位を授け、ピエタ帝国との国境を守る様に命を与えた。



現在のウィンドミル辺境伯当主は、将軍の長男であるルーカス=ウィンドミルへ代替わりし、将軍職も次男へ引き継いでいる。

ただし、まだまだ若い奴には負けないと自負があり、日々体を鍛えている。

そして、今一番、自分を虜にしてやまない存在……。



「お祖父様ー!」



満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってくる幼子。

ピンクブロンドのふわふわな髪を靡かせ、勢い良く飛び付いてきた。

もちろん、腕を広げて抱き抱える。



「エマ、そんなに急いだら危ないぞ。」



バレル将軍といえば、泣く子も黙る、どんな猛者も名前を聞くだけで縮み上がると言ったように、恐怖の象徴と言っても過言ではなかったのだが、孫にだけは激甘ジジイである。



「だって、お祖父様に久しぶりにお会い出来たんだもん……。許してくれましゅか?」



噛んだことが恥ずかしかったのか、自分と同じ碧眼をウルウルさせられたら、もう何とも言えない。

抱き抱えて自分の腕に乗せ、目線を合わせる。



「そんな嬉しいことを言われたら、許すに決まってるだろ。」



もう、デレデレである。

こんな姿は部下には見せられない。



私は、エマを抱き抱えたまま、何処へ行くつもりだったのか聞いてみると、ちょうどエマも、次兄のイーサンに会いに訓練場へ行く予定だったと聞き、目的地が一緒だったので一緒に向かった。



ウィンドミル辺境伯領には、国軍に引けを取らない、否、国軍以上と云わしめる者もいるぐらい、強固な軍隊を擁している。

それはもちろん、日々最前線で国境を守り抜き、切磋琢磨しているからに他ならない。



「あっ、イーサン兄様!」



エマの指差す方を見ると、もう一人の孫であるイーサンが剣術の指南を受けているところだった。

エマのその声に私の存在に気付いた部下達が、訓練中の手を止め、一斉に頭を下げる。

そんな中、エマに呼ばれたイーサンが駆け寄ってきた。



「お祖父様、出張お疲れ様です。エマ、訓練場は危ないから来ては行けないと言ってるだろう?」



「だって……兄様、木苺摘みに連れてってくれる約束は?」



ジト目でイーサンを見れば、あっ、忘れてたと焦っている。



「なんだ、エマは木苺摘みをしたかったのか。そうか、イーサンは忙しいみたいだし、ワシが連れてってやろう。」



エマは本当に?やったー!と満面の笑みを浮かべ、私の首に抱きついた。



「お祖父様、帰ったばかりでお疲れでしょう!私が連れていきますので、ゆっくり休んでください。」



そう言うと、イーサンは私からエマを剥ぎ取ろうと、エマの脇を抱き抱えようとする。



「いや、気にするな。どうせイーサンが連れてくとなると、もう一人護衛もいるだろう?ワシなら一人で十分エマを守れるしな。」



それを聞いたエマも、絶対離さないと云わんばかりに、さらにギュッと力を込めて私に抱き付いてきた。



「すみません、お祖父様。では、お願い致します。エマもお祖父様の言うことをちゃんと聞くように!」



そう言ったイーサンに、エマはコクコクと首を縦に振る。

何ともしっかり者の兄であるイーサンの頭を、私は無造作にガシガシと撫でてやった。





ウィンドミル辺境伯家は、現在、私の長男であるルーカスが継ぎ、次男で騎士爵のオーウェンが将軍職を継いだ。

ちなみに、将軍職は世襲制ではない。完全なる実力社会だ。

その中で息子が継いでくれたことは、正直嬉しく思う。



そして領主となったルーカスには子爵家より嫁を迎え、三人の子どもに恵まれた。嫁についてもここだけでは語れない逸話が幾つかあるので、後々紹介出来たらと思う。

私の孫に当たる、ルーカスの子ども達は、上からジェームズ(15歳)、イーサン(11歳)、エマ(6歳)。

長男のジェームズは現在王都にある貴族の子息子女が通う、王立アカデミーに在学中で寮生活だ。



私の息子達に似たのか、長男ジェームズはどちらかと言えば頭脳派で、次男イーサンは武道派だ。将来領主となり領土を治めるには武のウィンドミルと云えど、それなりの知略が必要である。

その点、将来領主を継ぐことになるジェームズには心配などしていない。

ルーカスやオーウェンのように、二人の孫には、将来の我が領を盛り立ててほしい。



そしてエマは………。

あぁ、将来お嫁に出さなくてはならないのか。

ずっとこのままウィンドミルに閉じ込めておきたいのは、ジジイの戯言である。


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