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最終章 第5話  「死地」

20210915公開




【‐皇国歴313年「衣月いづき」29日午前‐】



 2番目の夢で出て来た迫撃砲モーターと、今から放つモーターは全くの別物だ。

 とんでもなく精度の高い照準機器を使って、計算した上で正確に着弾点を弾き出す迫撃砲モーターを、射手の感覚だけで放つモーターが真似する事は不可能だ。


 では、何故、モーターと名付けたか? 


 撃ちだす速度と爆発の散布が違うのだから当然の事だけど、魔杖弓M203で使う圏外魔術アウタムマギアの術式が、ランチャーとモーターとでは全然違うからだ。

 だから、同じやじりを同じ魔杖弓から撃ちだすにも拘らず、別のモノとした。


 弾道がほぼ直進するランチャーは、前方に向けての指向性を持って鏃が爆発して、魔術マギアの効果が残っている鏃の金属片を前方に向けて爆散させる。

 モーターでそんな爆散の仕方をすれば、地面を耕すだけだ。

 

 実は統合鎮護中隊で魔杖弓M203の習熟訓練を受けた士家当主達には、モーターの圏外魔術アウタムマギアの術式を教えていない。

 違う術式を覚える手間も有るが、正確な照準を会得させる手間と時間を掛ける余裕が無かったからだ。

 夢で出て来た砲兵ミルを教えるなんて、とてもじゃないけど時間の無駄だし、分かる様に簡単に説明出来る自信も無い。

 とはいえ、統合鎮護中隊の重擲弾兵、魔杖弓M203担当の隊員にも砲兵ミルなんて教えていなんだが。

 円周を6400等分する精度の照準器なんて、どうやっても造れないからな。 



「射撃開始」


 俺の命令を受けて、担当の中隊本部要員が赤い旗を打ち下ろした。

 直後に24個の鏃が撃ち出される音が響く。

 魔杖弓M16量産型も魔杖短弓M4も、発砲音は夢で聴いた音と違って、耳に残らない音だった。

 魔杖弓M203の発砲音はちょっと耳に残る。

 なんでだろう? 口径の違いか? 鏃に術式を与えているからか?

 

 大溝帯街道のあちらこちらで爆発が起こった。


 やはり、着弾点の散布はひどいことになっている。

 1人当たり20発以上は訓練で試射している筈だが、感覚がまだ身に付いていないのだろう。 

 自身の魔素ピコムが鏃に残存するからなのか、エクスアロでもそうだが、自分で撃った鏃の軌跡を見分ける事は可能だ。曳光弾みたいな感じで、どこに飛んで行ったかが分かる。

 まあ、訓練を続けて行けば、その内に感覚も身に付くだろう。


 モーター3射目の爆発が起きた頃には、チャイン帝国の騎兵の混乱は頂点に達していた。


 理由は簡単だ。

 どこから撃たれているか分かっていないからだ。

 ランチャーは爆散に指向性が有るので、冷静に戦場いくさばを見れば、被害の方向性が分かる。

 モーターの爆散には指向性が少ない。

 突如、円形に被害が発生しているから、方向を掴むのは難しいだろう。


 更に、指揮官級(士官・将校)がどんどんと撃たれているのも混乱に拍車をかけている。

 装甲擲弾科第2小隊が良い仕事をしてくれている。

 元々、第2小隊は練度が高かったが、出陣式で先陣を務めた事で士気も最高潮だ。 

 指揮官級が一定の間隔で着実に狙撃されている。

 残りの2小隊は騎獣を狙っているが、こちらは外れている鏃も多い。

 地面に着弾しているので、土煙がかなり上がっている。

 静止した的を撃つ訓練の時と違って、命が掛かっている状態で走り回る敵に当てるには、経験が足りない隊員が多いからな。



 重擲弾兵の攻撃がモーターからランチャーに切り替わった。


 狙う目標はもう命令にして出してある。

 偶然にもモーターの着弾点の空白地帯に居て、被害が少ない部隊だ。

 部隊としてまとまった行動を取っているのなら、その部隊はまだ脅威と言える。

 大溝帯街道の斜面を駆け上がって来る可能性も無いとは言えないからな。

 ただし、荷を積んだ獣車群は除いておくように命令していた。

 周囲に負傷兵が多いから、さすがに良心が咎めるからな。




 

 チャイン帝国の騎兵が騎獣から降りだしたのは、重擲弾兵が小隊統制射に切り替えて直ぐだった。




 戦闘中に取る、その行為はチャイン帝国では降伏を意味する・・・





△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


 未だに、あの時の事を思い出すと、よくも生き残れたものだと思う。

 あの遠征の時に乳飲み子だった長男が成人してからも、偶に夜中に思い出して眠れなくなったものだ。

 我々はまさしくあの瞬間、『死地メイス』の真っ只中に放り込まれた。

 蛮族どもの『死地の遣い(メイシーシ)』が至る所で待ち構えているかのようだった。

 気が付けば、失禁していたが、それは生き残った兵の大半も同じであった。

 それだけの恐怖を全員が味わったのだ。



 幸いにも負傷はしなかったが、2度と騎獣に乗れなくなるほどの、恐怖を味わったのだ、あの時の我々は・・・


 

              【とある青果店の店主の手記より抜粋】


△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽




 

お読み頂き、誠に有難う御座います。



 昼過ぎまで更新する気は全く無しだったのですが、ブックマーク&フルマーク評価をしてくれたハンサムな紳士もしくは嫋やかな淑女が現れたので、急遽更新する事にしました。

 ありがとうございました\(^o^)/



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