第1章 第4話 「前期模擬戦大会」
20201009公開
【‐皇国歴309年「流月」18日朝‐】
今日は僕が通う初等学校の前期模擬戦大会の初日だ。今日と明日で全競技が終わる日程になっている。
僕が出るのは初年生から3年生までの低学年組個人戦だけだけど、今回の大会優勝候補の本命視をされている。
初年生ながら1年間に2回ある大会を連続で優勝したからだ。
あまりにも衝撃的な結果だったから、それからの僕は「神童」と呼ばれるようになった。
そりゃあ、5歳の子供が攻撃圏外魔術『エクスアロ』を使うなんて、誰も想像していなかっただろう。
今だから言えるけど、初めて参加した前期模擬戦大会の時はまだ使いこなせていなかった。
威力も今の1/4くらいだったし、矢もやっとこ3千爪(約45㍍)飛ばせる程度だった。
余りにも上級生と矢の射程が違い過ぎるので、得意な圏内魔術の『ボディチャージ』を全力で掛けて強引に接近して攻撃圏外魔術『エクスアロ』を撃ち込んだんだから、本末転倒の戦い方だった。でも重装金属鎧を装備して走り回った1年前の自分を褒めてあげたい。
今なら模擬戦で多用される攻撃圏外魔術『アロ』と『ハイアロ』も高学年に負けないくらいに使いこなせるので戦い方の幅は広がった。
念のために言うと、この模擬戦で使う矢では攻撃圏外魔術『エクスアロ』を使っても負傷しない程度の威力しか出ないし、防具も教練授業用の簡易型とはいえ重装金属鎧だ。
でないと、下手したら死傷者が出るからね。
個人戦の予選が始まって、現在、僕は選手控え場所に指定された演習場の一画で座って出場を待っている。
そうそう、僕の準備を手伝うためにトムスも一緒だ。
金属鎧一式を身に付けるのは自分1人だけでは出来ないんだから仕方ない。
すると、ガスとエミルが激励にやって来てくれた。
ちなみにガスは組対抗戦の主将を任されている。
僕という怪物が居なければ、きっと個人戦に選出されている実力者だ。
「エル、調子はどうだい?」
「いいよ。それに今回は秘密兵器を用意したから楽しみにしていて」
「えええ、エル君、また強くなったの?」
エミルが驚きの余り、少々大きな声を上げてしまった。
おかげで控室に居た選手と付き添いの子たちの視線が集まってしまった。
「あ、うるさくしてごめんなさい」
視線の圧力に思わずエミルが周囲に謝った。
「うん、今年の僕は一味違うよ。だから期待してて」
謝り終わったエミルに言って上げた。
すると先程の影響で無口になってしまったエミルの代わりにガスが訊いて来た。
「ますます神童ぶりに磨きをかける気か?」
時々、ガスは年齢に似合わない言い回しをする時が有る。
「多分、今回披露するのは誰も見た事の無い魔術のはずだよ。決勝戦には必ず使うから楽しみにしておいてね」
「そりゃあ、よっぽどすごいんだな」
「まあ、完成度は僕が考えている完成形の2割くらいだけどね」
「早く見たいな」
僕の答えはニッコリと笑う事だった。
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1回戦の相手は3年生の女の子だった。彼女も優勝候補だ。
身体能力を上げる効果が有る圏内魔術の『ボディチャージ』が上手い子で、更に大人顔負けの槍術が光る子だ。前回も準決勝まで勝ち上がっていた。
当然、『エクスアロ』を警戒して来るだろう。
4千爪(約60㍍)離れた開始線まで歩いて行く間も、彼女は僕が持っている弓と鉄管をチラチラと見ていた。
『エクスアロ』でも使う弓を持っているのは当然だが、鉄管は何に使うか分からないから当然の反応だね。彼女と同じ立場なら僕でも気になる。
開始線に着いてから改めて見渡すと、前回よりも見物客が多い。
先生方以外にも大人の姿が目立つ。
もしかすれば噂の神童見たさに来たんだろう。
まあ、分からなくはない。
僕の父さんは特に派閥に入っていないけど、世間に流れる噂が正しければ4等士家という家格が低い士家ながら、神童と名高い僕を自分の派閥に取り込めれば宣伝効果は高いからね。
大人の世界はそういう力学が働く事を理解している初等学校の2年生というのも、可愛げが無い子供だな、僕は。
あ、お母さんとハルを発見。
お父さんはお勤めが有るのでさすがに来ていない。
うん、ハル、そんなに手を振ったら後ろの人の迷惑になるよ?
模擬戦開始の号砲が鳴った。
事前の予定通り、弓も鉄管も放置して、僕は『ボディチャージ』をきつめに掛けて、対戦相手に急接近した。
金属鎧を装着した状態で走ったら、普通なら歩くよりも少しだけ速い程度の速度しか出ない。
『ボディチャージ』をきつめに掛けて、やっと長距離走並みの速度だ。
まあ、対戦相手もこちらと同じように『ボディチャージ』を掛けた状態で接近中なので急速に近付いている。
お互いが手にしているのは長さ1百爪(約1.5㍍)の教練用の短槍だ。
先手をどっちが取ったかは微妙だ。
同時と言って良い。
そして、初手で対戦相手の顔色が変わった。
自信を持って繰り出した突きだったのに、真正面から槍先同士がぶつかったからだ。
これで警戒しない方がおかしい。
圏外魔術が得意なら接近戦が弱いだろうという事前の判断が間違っていた訳だ。戦術の練り直しの分、後手に回るから顔色も変わるよね。
ちなみに、僕は別に接近戦が弱い訳では無い。
小さい頃から魔術の才能が目立っていたから、子供心に憧れた『エクスアロ』を一生懸命に練習したけど、僕は剣も槍も得意なんだ。弓だけは今一。
更に言うなら、お父さんとの稽古でしか使った事は無いけど剣術や槍術の中でも難しいと言われる『アシスト』も同時発動が可能だ。
勝負は程なくして付いた。
僕の3連覇で幕を下ろした前期模擬戦大会低学年の部だったが、満を持して決勝戦で初披露した高速『エクスアロ』は1度しか放てなかった。
審判役の先生が、余りにも試合が一方的になり過ぎるという判断を下したからだった……
お読み頂き、誠に有難うございます。
学園編(笑い)は今回で終了です。
次話からはメインストーリーに突入します。