第1章 第3話 「仮称 エクスカービン」
20201008公開
【‐皇国歴309年「食月」29日午前‐】
次の日、僕は道具屋街を回った。
ハルも一緒に来たがったが、お母さんのお供を言いつけられて渋々連れられて行った。
その代わりという訳では無いが、トムスがお供だ。こうやって小さい頃から一緒に行動する事で主従の関係を確立するんだ。
まあ、以前の僕ならそんな事を考えなかっただろうけど、これも夢を見た影響だろう。
どうでも良いけど、従兵家のみんなには名字は無い。
主人の家名記号がそれに当たる。
正式な書類ではトムスは「トムス・A・WSR」と記入される。「A・WSR」は「ヴィストランド家の筆頭従兵家」を表している。
僕なら「エルリング・ヴィストランド/WSR」だ。
神聖アースガーズ皇国では、家名を表す家名記号が少なければ少ない程高位の家格を表すのが特徴だ。
例えば、「A」と言えば「アルテアン1等将家」という具合だ。
僕ん家が吹けば飛ぶ様な家格というのがこういったところにも表れているけど、さすがにやり過ぎな気もする。
さて、探しているのは『エクスアロ』用の鏃がピッタリと通るくらいの金属の筒だ。
通るかどうかは弓術の練習用の鏃部分だけを持って来ているので簡単に分かる。
意外なことだけど、『エクスアロ』用の鏃は2つ目の夢で扱っていた『M4カービン』の鏃全体と変わらない形と大きさだった。『日本』で言うなら、直径1㌢、全長6㌢、重量30㌘というところかな? 違うのは後ろの1㌢が矢柄に差し込む為の部分で、芯となっている魔鉱が飛び出た構造になっているところかな。
3軒目のお店で、早々とピッタリ合う鉄製の筒を発見出来たことは幸運だった。
しかも、特注で請け負った仕事で造った製品の余り物だったので安かったのも有りがたかった。
まあ、それでも持って行ったお小遣いのほとんどが消えたんだけどね。
まだ若い職人の店主さんがサービスで30㌢、40㌢、70㌢のサイズで切ってくれたのも嬉しいことだ。
うん、『エクスカービン』(仮の魔術名)の開発が成功したら、予備の筒をまた買いに来よう。なんせ、あと5㍍は売れ残っているからね。
特注で特殊な部品の製造も受けてくれるそうなので、何か試作する時にはお願いする事にしよう。
思ったよりも時間が余ったので、自宅で昼食を食べた後にさっそく実験してみる事にした。
まずは、改造した発射用の推進魔術が想定通りに働くのかの確認だ。
僕の考察では問題無い筈だ。
圏内魔術で推進用に後方に収束して爆発を起こす改造『エクスアロ』を施して、衝撃で爆発する『エクスアロ』用の圏外魔術は緩衝域を設定して施せば、干渉しないはず。
弓で射る場合とは比較にならない推進時の衝撃で暴発する危険性も、圏内魔術が有効な範囲内なら圏外魔術発動を遅延させて回避できると思う。
トムスに手伝ってもらって、僕ん家の屋敷と従兵家用の長屋の間にある20畳ほどの中庭(鍛錬用の庭)で実験の為に台や筒を並べていく。
まずは、推進用の改造『エクスアロ』を弱めに時間を掛けて施す。
うーん、初めて試す魔術は緊張するな。
1回目、移動せず
移動しなかった理由は簡単だ。
慎重になり過ぎて魔術の効きが弱過ぎて、30㌘以下の力しか発動しなかった。
2回目、数㌢だけゆっくり移動
3回目、少しだけ速く移動
4回目、10㌢近くまで移動
改造『エクスアロ』の発動自体は問題なさそうなので、ここで初等教練用の低級精製鏃から中等教練用の中級精製鏃に切り替えた。
魔鉱の純度が上がる為に同じだけの魔術を施せば、もっと推進効率が上がるはずだ。
ここからは、鏃の核となっている魔鉱の内、どれくらいの比率を改造『エクスアロ』に回すかの検証も重要になって来る。と同時に、買って来た筒を使って、通過に問題が無いかの試験も兼ねる。
5回目、筒から飛び出たが、10㌢も行かずに落下
6回目、筒から30㌢で落下
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27回目、矢よりは遅い速度くらいで筒から飛び出て、家の塀に当たって止まる
推進用の改造『エクスアロ』の開発に目途が付いたところで夕食の時間に…
今夜の食事が終わった後で、お父さんに報告することにしようっと。
ほんの少しだけ不安が減ったけど、まだまだ完成には遠いな。
お読み頂き、誠に有難うございます。
全く小説とは関係有りませんが、本日は定期健診でバリウム検査の予定が入っています。
ええ、この話が公開される頃にはバリウムを飲んでいるでしょう(^^;)
白い悪魔が一刻も早く身体から出てくれる事を祈りつつ……