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第3章 第5話  「演習後講評」

20210527公開




【‐皇国歴313年「祝月しゅくづき」11日午前‐】  



 第2小隊の演習は、丘のふもとに戻って来た軽装甲兵員輸送獣車に装甲擲弾兵達が乗り込んで離脱した段階で終了の旗が上がった。


 集中して演習に臨んでいたせいか、大きな失敗や事故も無い演習だった。

 魔杖弓M16試作2型(第2小隊は先に編成されていた為に試作2型を装備していた。量産する為により簡素化した量産型は第3小隊以降に編成される部隊に装備される予定だ)の発砲間隔はだいたい平均して3トク(約3秒)を切ったくらいに思えた。俺の圏外攻撃魔術アウタムマギア『M4』と比べれば3倍も時間が掛かっているが、最初の頃の様に取り敢えずまとに発砲するのでなく、しっかりと狙って発砲していた。うん、兵器としての取り扱いも習熟しているな。

 弓による通常攻撃に比べると本当に桁違いの火力量と質と濃度になって来た。


 全体的に見ても装甲擲弾兵達と軽装甲兵員輸送獣車の連携が取れていて、両方の動きも良かったし、及第点は付けても良いだろう。

 


「現場に行こう」



 どうせだからと、俺はそう言って、左側の丘に向かった。

 遠回りして丘の頂上まで登ると、同行している全員にその場所から見える風景を順番に見せた。

 観閲場所の崖の上からは分かり難かったが、白く塗られた岩は転げ落ちない様に平らな段差を作って、そこに置かれていた。

 

「どうだ、何か気付いた点は無いか?」

「眼下の平地を見下ろせるのは良いですが、向かいの丘が気になりますね。ちょっと高いだけなんですが、嫌な感じです。遮蔽物が無いのも良くありませんね」



 答えたのは元上司の旧第7-L-L小隊の小隊長だったブルーノ・ブロムステット/BLS3等士(22歳)だ。

 


「布陣する際に常に高所を取るべき理由だな。高度が低い方が幾つもの理由で不利になる。例えば騎獣部隊が向かいの丘の頂上に布陣した敵を排除しようとすれば、一旦丘を降って平地を突っ切って丘を登らなくてはいけない。その間は攻撃を受け続ける事になるし、やっと丘に取り付いても上り坂で速度も上がらない。俺が指揮官なら先手を取られた段階である程度の犠牲を覚悟の上で2方向に分かれて退却して後方で再編、可能なら敵の後方に回り込んで退路を断って出血を強いるな。まあ、今の演習を見れば分かるだろうが我が中隊相手にその策は通じない。下に降りよう」


 来た時と同じ経路ルートで降りて、2つの丘に挟まれている元耕地に向かった。

 元耕地に辿り着くと、隣の人間と意見を交換している声があちらこちらから聞こえた。


「こうやって見ると、意外と岩が見えないな。『エクスアロ』で攻撃するのも骨が折れそうだな」

「敵の頭上に打ち上げて上からの落下で叩き込むしかないな」

「それか、頭を出させないように連続で叩き込むかだ」

「だが下り坂で速度を増した騎獣の突撃を受けるのはヤバいな。あっという間に飲み込まれて全滅するぞ」

「ああ。想像するのも嫌だな」


 そう、誰もここに布陣したいとは思わないだろう。

 だが、実際にこういう地形で攻撃を受ける事は有り得る話だ。


「どうだ、こんな場所に布陣したいか? 攻撃を受けたいか?」

「いえ、絶対にご免です」

「俺も一緒だ。こんな場所で攻撃を受ければ、全滅も有り得る。かと言って、命令によっては、移動の途中でこういう地形の場所を通らなければならない事も有る。世の中は本当に世知辛いからな。もしどうしてもこの様な地形を通る際は必ず偵察の兵を先行させるべきだ。可能なら丘の上を通る様に偵察兵の進路を複数設定すべきだな」

 

 クヌートソン1等士率いる第2小隊の分隊長も合流してからも、講評会は続いた。




「ほう、凄いな」



 その日の夕方、俺は中隊長室で1通の報告書に目を通していた。


「中隊長、嬉しそうですが何か吉報でも混じっていましたか?」


 俺宛の書類を分類していたエミリア・ペーデル曹長が視線を上げて尋ねて来た。


「いや、ヴィストランド工業からの報告書なんだが、魔杖弓のM16量産型とM203をそれぞれ1日に5丁ずつ生産出来る見通しが立ったそうだ」


 実家のヴィストランド工業が打っていた手がやっと実を結びそうだった。

 色々な方面に手を延ばしていたが、徹底した分業化で生産効率の劇的な向上を果たせそうだ。

 細々と自社だけで生産していた頃は日に1丁だけの完成だったことを考えれば、隔日の感がするな。


「それでは、例の計画を前倒しで進めますか?」

「ああ。連絡をしておいてくれ」

「了解しました」

「受け入れ準備の手配も頼む」

「はい」



 春に予想されているチャイン帝国の再侵攻に向けて、統合鎮護中隊に組み入れられていない士家隊と補隊の戦力増強は急務だった。

 補隊は将家の元従兵を核として新たに隊を編成して兵数を増やしているが、問題は士家隊だ。

 圏外攻撃魔術アウタムマギアを使える隊員ならば、それなりの割合で魔杖弓M203も使いこなせる筈だ。5人に1人でも使いこなせるのならば、大幅な火力の強化になる。

 選抜まではこちらではしないが、選抜された隊員の訓練を統合鎮護中隊が行う。

 というか、習熟訓練を第3小隊と一緒に受けさせるんだ。


 『泥縄』過ぎて苦笑するしかないが、得られる効果は高い。

 今出来る事は、その効果を積み重ねていくしか無い。




お読み頂き、誠に有難うございます。



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