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第3章 第3話  「旧交」

20210507公開



【‐皇国歴313年「祝月しゅくづき」11日朝‐】  




「第3小隊小隊長のラッセ・ヨンセン1等士が来られました」

「入って貰え」

「は!」

「第3小隊隊長ラッセ・ヨンセン入ります」

「はい、どうぞ」



 昨日、短時間だけど挨拶に来たラッセ・ヨンセン隊長は以前に比べて鋭くなった印象だった。

 確か花月かげつ生まれだから、まだ13歳だ。成人もしていないのに、顔つきが悪くなるくらいの戦場に放り込まれるなんて運が悪いとしか言えないな。

 うん、あんな経験をしたんだからとがっても仕方ないだろう。

 だが、今日の彼は少しだけ柔らかみが戻っていた。

 俺は敬礼を返した後で、笑顔を浮かべながら低机テーブルを示した。


「どうぞ座って下さい。この時間は旧交を温めましょう。ちなみにこの低机テーブル長椅子ソファ一式セットは当中隊の自慢の品なんですよ」

「そうなんですか? では、遠慮なく。おっ、本当に座り心地が良い」

「でしょ? ヨンセン1等士は確か菓葉茶ティファよりも果種茶カファの方が好きでしたね? 良い種が入ったんですよ」


 果葉茶もそうだが、何故か皇室御用達の逸品が軍の流通ルートで入って来るのだから不思議だ。

 犯人は俺の後ろで涼しい顔をして立っているな、きっと。

 しばらくしてトムスが淹れてくれている果種茶カファの香りがこちらまで漂って来た。

 俺的には菓葉茶ティファの方が好きなんだが、戦場で飲みたくなるのは何故か果種茶カファだ。鎮静作用と高揚作用の違いなんだろうか?


 果種茶カファを一口飲んだ後で、ヨンセン隊長が姿勢を正した。


「ヴィストランド隊長が小官を第3小隊の隊長に推薦してくれたと聞いた。素直に感謝を受けっ取って欲しい」

「大した事はしていませんよ。それに、有能な1士を遊ばせる余裕なんて、もう皇国には無いですから、当然の事をしただけです。むしろ、これからも最前線に送られ続ける事が確定した、と考えれば、苦労の方が大きいですし」

「苦労と言っても、ヴィストランド隊長の事だから理不尽な苦労では無いのだろう? それだけで十分だよ」

「まあ、あの爺さんにはお互い煮え湯を飲まされてますからね。ペーデル曹長、バルテルストレームに増援を送る話は出ているのだろうか?」

「いえ、出ていません。現地の守備部隊からは増援要請が出ている様ですが」

「やり過ぎたんだ、爺さんは」



 今朝発行の情報紙に、増援部隊撃退に成功した俺の部隊の損害と、バルテルストレーム奪還作戦に参加した部隊が被った損害に触れる記事が出ていた。

 もちろん、具体的な数字は書いていない。

 だが、片や損害0、片や損害甚大、の結果は読めば分かる書き方だった。

 しかもチャイン帝国に与えた損害が同じくらいだったので(騎獣に対する被害は俺の方が倍以上だったが)、バルテルストレーム奪還作戦は本当に成功だったのか? という印象が残る記事だ。

 

 俺の読みだが、近々ホルガ―・ラーレ老にバルテルストレーム固守の命令が出る気がする。

 まあ、宮中政治が絡むんで分からんけど。


 二口目の果種茶カファを飲んだ後で、ヨンセン隊長がそう言えば、という感じで口を開いた。


「ヴィストランド隊長、この後に見学する予定の演習はどんな内容なんだろうか? 演習に参加するのはクヌートソン1等士が率いる装甲擲弾科第2小隊という説明だったけど?」

「簡単に言うと、チャイン帝国の騎兵を装甲擲弾科第2小隊が迎撃するというものです。まあ、先日の増援部隊阻止戦闘を簡単に模したものになります」



 統合鎮護中隊が本格稼働するに当たって、問題は演習する場所だった。

 試制増強小隊時代も問題だったのだが、まずは魔杖弓と軽装甲兵員輸送獣車の扱いに慣れる方が優先だったので駐屯地内だけの訓練でなんとかなっていた。

 実戦も経験し、益々実戦形式の訓練が増える事を考慮に入れると、演習場の確保は必須だった。

 最終的に仮とは言え確保出来た土地は、徒歩行進で18佰脈ハク(約30分)に在る休耕地だった。小さな丘がところどころ有るせいも有って、中途半端な面積の畑に使う程度だったので休耕地になったらしい。

 まあ、そのまま演習場になるだろう。耕せば銃弾がゴロゴロ出て来る土地なんて畑に戻す価値が無いからな。




お読み頂き、有難うございます。

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