第2章 第14話 「2度目の凱旋」
20210415公開(本日2話目)
第2章 第14話 「2度目の凱旋」
【‐皇国歴313年「祝月」2日午前‐】
僕たちが帰還する事が、どうやら一部の勢力によって漏洩されていたみたいだ。
でなければ、これだけの数の都民が皇都から出て、郊外に在る駐屯地前に自ら出迎えに出て来る筈が無いからね。
ほぼ確実に第1皇子派の工作だと思う。
『神童ヴィストランドに栄光あれ!』
『神聖アースガーズ皇国の救世主に千の感謝を!』
『全能神プランティナインス様に万の感謝を!』
もっと色々な言葉も聞こえているけど、おおむねこの3つで8割を占めている気がするね。
きっと第1皇子派が手を回した『サクラ』とやらが、広めているんだろう。
余程、危機的な状況なのだろう。『軍神』とか『英雄』とかが必要になるくらいだからね。
僕の従兵が集めて来た情報によれば、「バルテルストレーム」奪還作戦はかなりの損害を受けたものの、何とか奪還自体は成功したらしい。
一時は作戦に参加した部隊の壊滅的損害も覚悟したという話も幾つか拾ったらしいけど、具体的な内容までは不明だ。
そういう事を含めて考えると、ラーレ家の当主ホルガ―・ラーレ様、御歳52歳が緘口令を敷いた可能性が高いんだよね。
具体的な損失が分からないながらも、『軍神』とか『英雄』とかが必要になるくらいの損害が発生していると見た方が良い。
そんな事を考えていると、補隊軽装甲兵員輸送獣車がゆっくりと停まった。
まだ、第101補隊が本拠を構えている駐屯地まで3町(約450㍍)は残っている筈だ。
馭者を務めている僕の従兵が誰かと話をしているのが微かに聞こえた。
嫌な予感しかしない。
「御当主様、第101補隊所属試制第2増強小隊のグンダー・クヌートソン隊長が火急の話が有るとの事で、乗車の許可を求めておられます!」
ほら、嫌な予感が当たった。
エミリア・ペーデル曹長を見ると、スッと目を逸らされた。
拒否するのは無理だ。
「許可するとお伝えしろ」
「ハッ!」
従兵の1人がすっと動いて、後部扉の閂を解除して、ゆっくりと扉を押した。
「おう、邪魔するぞ、神童!」
そう言って、グンダー・クヌートソン1等士が車体に固定されている踏み台に右足を乗せて車内の上って来た。
当然、車内に居た全員が立ち上がって敬礼する羽目になって、ちょっと窮屈になった。
真面目な表情で答礼をした後で、クヌートソン1等士の顔が破顔した。
「まさかここまでの完全勝利をもぎ取って来るとは思わなかったぞ! おかげで留守役の俺のところに移籍の相談をしに士家連中が山ほど来て困ったぞ!」
「それはご迷惑をお掛けしました。で、自派閥の割合はどれくらいだったんですか?」
「おう、それがな、半分以上は中立派だったぞ! 良かったら貴卿の派閥に入れてやってくれ」
もう1度、エミリア・ペーデル曹長を見ると、またもやスッと目を逸らされた。
第2太后陛下が陰で動いているんだろうね。
まあ、今は置いておこう。
「それで、火急の用件というのは何でしょうか?」
「おう、そうだ、忘れていた」
自分の感情を先に表明してしまうところなんかは、さすがクヌートソン1等士だ。
それでも、許してしまうのは、この人の人徳とやらなんだろう。
「2点有る。まず1点目は第2太后陛下、並びに第3皇子殿下と第3皇女殿下が駐屯地でお待ちだ。2点目が第2太后陛下から、出迎えてくれている都民に顔を見せて上げなさい、というお言葉を預かっている。俺も顔くらい見せてやった方が良いと思うぞ」
三度、エミリア・ペーデル曹長を見ると、またもやスッと目を逸らされた。
しかも口の端がちょっと上がっている。
この人出は第1皇子派と第2太后陛下の合同工作なんだろう、きっと。
「あまりしたくありませんが、仕方ありませんね。第2太后陛下には、臣エルリング・ヴィストランド、確かに賜りました、とお伝え下さい」
「おう、必ずお伝えするぞ。ではな」
クヌートソン1等士が去った車内には3つの空気が残された。
1つ目は、僕の従兵が出す感動というか感激というか、何にしろ高揚した感情だ。
ある意味、天上の貴人と言って良い御三方が待っている訳だから、もしお目に掛かれるなら一生に一度の出来事と言って過言では無い慶事だからね。まあ、士家当主以上しか会えないから実際にはお目に掛かれないんだけどね。
2つ目は、エミリア・ペーデル曹長が出している楽し気な空気だ。
もしかすると、第2太后陛下の行幸を事前に知らなかった可能性も有る。
逆に言うと、想定以上の出来事が起こっているけど、何かしらの情報を持っていて、その事からこれから起こる事態の推移を楽しもうと思っているのかもしれない。
3つ目は、僕が醸している諦めの空気だ。
益々、嫌な予感が強くなって来た。
『客寄せパンダ(地球には奇天烈な動物が居て、その珍しい姿で人寄せに使う場合にこう言うらしい)』をこなした僕は1人で第1増強小隊の小隊長室に向かった。
第2太后陛下、第3皇子殿下、第3皇女殿下の3人がこの日にこの駐屯地を訪れた意味は大きい。
何か大きなうねりが自分の傍まで来ている予感がしてならない。
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