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第1章 第2話 「改良と開発」

20201007公開




「エル! 大丈夫かい?」


 そう言って、通学途中で声を掛けてくれたのは、仲の良い幼馴染のガスことグスタヴ・フリーデル(FDL)だった。

 この子も僕と同じ4等士家の子で、家同士の交流も有る。と言うか、ガスの父上は僕のお父さんの同僚だ。そういう家同士の関係も有り、親子ともども僕と仲良くしてくれている。

 そういえば目を覚ます前から親子で何回も見舞いに来てくれた。

 ガスは『空気が読める』子で、気配りも出来る。やや茶色が混じった金髪と深い青色の瞳で整った顔立ちをしていて、当然女の子にも人気だ。

 その彼とここで出会ったという事はわざわざ遠回りしてくれたって事だ。


 

「おはよ、ガス。ああ、大丈夫だよ。しばらくは教練は出れないけどね」

「おはよう、エル君。教練に出れないのは残念だけど、エル君だったらすぐに調子を取り戻すよ」


 そう言ってくれたのは、ガスと一緒に待っていた、これまた幼馴染のエミル・ハーン(HHN)だ。

 僕よりも更に背が低くて、どちらかと言うと大人しめな男の子だ。武術を苦手としている。茶髪と茶色い瞳で地味なのと顔が幼い感じだから、いつも1つか2つ下の歳に見られるのが悩みの種らしい。

 エミルの父上は、僕とガスの父上と違って事務方系の役職だ。

 だから家同士の付き合いは無いが、何故か昔から仲が良い友達だ。


「うん、ありがとう、エミル」



 貴族と庶民で、授業が分かれる時が有る。

 それが教練と呼ばれる特別な授業だ。

 その授業で貴族は魔術マギアや武術を習うが、庶民は生活や仕事に役立つ技術を習う。

 そうして、貴族は武力という優位性を保つ訳だ。 


 とはいえ、僕の得意で好きな授業だけに教練に出れないのはちょっと惜しい気もする。

 特にあと少しすれば前期模擬戦大会が有るからね。

 少しでも勘を取り戻しておきたいんだ。

 


「まあ、さすがに体が弱っているから仕方がないか」

「そういう事。でも、そんなに休まなくても良いと思うよ。調子が戻って来たからね」


 僕はガスの言葉に笑顔で答えた。

 現に昨日の昼間、少し身体を動かしてみたけど、意外と体のキレは戻っていた。体力はさすがに落ちていたけどね。

 魔術マギアに関しては逆に大きく伸びていた。


 圏外魔術アウタムマギアと呼ばれる付加系の魔術の1つを発動前までしか試していないけど、お父さん並みの威力が出そうだった。圏内魔術インナムマギアの『ボディチャージ』に至っては確実にお父さんを凌駕している。あまりにも自然に強化出来てしまったので力加減を間違えてしまいそうだった。

 元々体内の魔素ピコム量は多かったけど、一度測定し直して貰おう。きっと増えている。





【‐皇国歴309年「食月しきづき」28日夕刻‐】



 4日後、体内の魔素ピコム量を測って貰う機会がやって来た。

 結果は以前よりも伸びたけど、自分で感じていた程では無かった。

 まあ、それでも同い年の平均体内魔素量の2倍を超えていたのだから、将来が楽しみだ。 

 測定して貰うまでに色々考えていたけど、この結果を考えれば、多分だけど魔素を感じ取る能力が上がったという事なのだろう。

 夢の中の世界では魔素は存在していなかった。

 魔素を感じない生活を過ごすという体験をしたせいで、より魔素を身近に感じ取れる様になったと考えれば、納得が出来るかも。

 それと同時に、使いこなす能力も上がっている可能性が高い。


 もしもそうなら、今考えている事に成功するかもしれない。


 目指しているのは、圏外魔術アウタムマギアの高速化と、新しい圏内魔術インナムマギアの開発だ。


 最も威力を重視した攻撃圏外魔術『エクスアロ』の場合、魔素ピコムと親和性の高い鉱物『魔鉱石』を精製した『魔鉱』(『日本』では銅と呼んでいた)を核とした弓矢のやじりに魔術を施して射る。

 放たれた矢は一定以上の衝撃を受けると独特の爆発的な衝撃波を発生させる。

 その衝撃波が魔鉱を覆っている鉄製の鏃と魔鉱本体を破裂させて、その破片は鉄などの金属で出来た盾や鎧でさえ防げない効果を発揮する。魔術を纏った破片が盾や鎧を貫通して人体を傷付けるからだ。更に衝撃波がその傷を拡大させる。2つめの夢で見た『グレネードランチャー』以上の威力だ。


 この国がラー平原を征服する原動力になった力で、今でも貴族が貴族たる所以となる「神に祝福された偉大なる力」の象徴的な魔術だ。

 だから、この魔術を発動出来なければ士家の当主になれない。

 その『エクスアロ』を、2つ目の夢で見た『M4カービン』の鏃並みの速度で放つ事が出来れば、画期的で強力な魔術になる。

 あの『Marines』でさえ避けようがないからだ。


 当然だけど弓で射る方法ではそんな速度を出すことは到底無理だ。

 方法はもう考えてある。その『M4カービン』を真似るのだ。

 矢の鏃の核に2重の魔術を施して、後ろ向きの衝撃波で飛ばす方法を考えている。

 問題は銃身代わりの筒をどうするかだが、多分何とかなると思う。皇都には沢山の店が有るし、最近建った集合住宅の建築現場で金属製の筒が積まれているのを見たからだ。

 明日のお休みに色々な店に探しに行く予定だ。



 以前の僕なら、魔術の改良や開発をするような事を考えたり行動したりしなかったと思う。

 みんなと同じように今知られている魔術をいかに上手く使いこなすかを目標にしていたからだ。


 もちろん、世の中には自分で新しい魔術を開発するような人物も居る。

 1番有名な例で言えば、150年以上前の人物だけど、『アロ』と『ハイアロ』という使い勝手の良い攻撃圏外魔術を開発したアクセル・ペーデルという貴族は、その功績で5等士家から4等士家に家格を皇主様に上げてもらっている。

 『エクスアロ』と違って、弓も魔鉱も触媒も使わずに弓矢以上の威力を持つ『アロ』と『ハイアロ』は今では貴族なら誰でも使えるように教育される。



 魔術の改良や新しい魔術を開発しようと考えが変わったのは、どう考えても夢の影響だ。

 生きるということ自体が、実は大変なことなんだと分かったことが大きかった。

 考えたことも無かった『化学』と『科学』に触れた事も大きかった。

 それと同じくらいに、空想上のものとはいえ、色々な魔術をその夢で知ったのも大きいと思う。

 3つ目の夢の中では、『気』とか『念』とかを練り上げて放出したり、炎や水や氷や植物や、果ては『電気』や『雷』や『隕石』を利用する魔術など、それこそ無数の魔術が考えられていた。

 どんな頭の構造をしているのか中を見てみたいと何度も思ったものだ。


 そして、『エクスアロ』の高速化と同時に僕は全く新しい魔術の開発に取り組んでいる。

 圏内魔術インナムマギアを利用して空中から水を集める魔術なんだ。1つ目の夢がどうしても脳裏から消えなかったから、『科学』を基に開発中だ。


 それが完成したら、更に複雑で本格的な魔術の開発を考えている。

 夏と冬を快適にする魔術だ。

 具体的には、3つ目の夢に出て来た『除湿器』という機械をおおもとの土台にしている。

 参考になるものは有る。 

 夢のぬしが書いていた空想物語で、主人公が『異世界』で快適に暮らすために『エアコン』と呼ばれる魔術を開発する話の再現を試してみる予定なんだ。


 空想物語を書く参考の為に夢の主はわざわざ『コンプレッサー式除湿器』という機械を購入していた。

 最終的に「暖房」と「冷房」と「除湿」と「造水」を1つの機械で行うという夢の様な『魔道具』を、夢の主は買って来た『コンプレッサー式除湿器』を基に詳しく絵入りで設定していた。

 その過程の全てを僕は見ていた。

 その夢の様な魔術と言うか魔道具は開発可能な気がする、多分。


 そうそう。『フィルター』という存在を忘れてはいけない。

 目に見えるホコリやカビは知られているし、目に見えるゴミを取ったり、お茶の葉を濾す様な物はあるけど、『菌』や『ウィルス』なんて存在が知られていないから、それらを取り除くフィルターなんて物は皇国には存在していない。高度な圏内魔術インナムマギアには『クリネス』という浄化魔術があるけど、『菌』や『ウィルス』に効いているか不安だ。

 だから、開発しておきたい。目指せ茶色い水も怖くない、だ。


お読み頂き、誠に有難うございます。



 作者注第2弾です(^^;)

 主人公には当たり前過ぎて作中では触れないので記しておきます。


 1月 祝月しゅくづき 新年を祝うから

 2月 衣月いづき   着ぶくれするから

 3月 茂月もげつ   植物繁茂の様子から

 4月 花月かげつ   国花が咲くから

 5月 植月うづき   主穀物の作付け

 6月 引月ひづき   水を引く頃合い

 7月 穂月ほづき   収穫

 8月 食月しきづき  美味しいよ

 9月 流月るげつ   大規模な流星雨がある

10月 降月こうげつ  降臨した記念月

11月 苦月くげつ   初期の苦労を忘れない為の戒め

12月 根月ねづき   根付いた喜び 

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作投稿お疲れ様です&応援してます! 夢で他者の人生を見る……素敵な設定だと思います。精神への影響はおっきいでしょうが、エル君が落ち着いていて良かった。 そして12ヶ月の名前! 好き!!…
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