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第2章 第11話 「エクスモーター」

20210407公開




【‐皇国歴312年「根月ねづき」26日早暁‐】 




 監視所にはすぐに着いた。

 まあ、補隊軽装甲兵員輸送獣車を停めた窪地からは3千爪カク(約45㍍)しか離れていないからね。

 丘の頂上から少し下がった場所の、元から在った窪みを夢で見た工具を真似して作った『シャベル』で拡げただけの陣地だ。2人並んだら一杯になる様な広さしかない。

 とは言え、発見される事無く監視できることが最重要なので、狭くても問題ない。迷彩模様の網や枯草、掘り拡げた際に出た表土などを使って偽装を施してあるから、余程の事が無ければ存在はばれないと思う。

 地面からの冷気を遮断する為に木の板を何枚か置いて、その上に毛布を敷いてあるのが見える。何と言うか、妙に生活感を感じてしまったのは何故だろう。



「おはようございます。現在の所、動きは有りません」


 監視所から見下ろせる街道を見張っていた兵長が、監視の視線を外すことなく報告して来た。

 うん、教育の成果が出ている。

 作戦計画通りなら、もう戦端は開かれている。一瞬も気を抜けない状況に突入しているんだ。


「分かった。だが、そろそろ増援が通りかかってもおかしくない。気を抜かずに監視を続けてくれ」

「はい」

「他に気が付いた事は無いか?」

「ハッ! 携帯カイロを有難うございました。本当に助かりました」


 監視所に詰める部下には携帯カイロを2個廻しておいた。そりゃあ、身動きも取れないから寒さから逃れられないからね。

 まあ、携帯カイロに関しては、ヴィストランド家で用意した僕や従兵用の迷彩上衣と同じで、部隊の装備品に入っていない『員数外』ってヤツだ。杓子定規に正規の装備品だけで身を固めると、『夢』で知った基準に照らして足りないモノだらけになってしまうからね。


 補隊軽装甲兵員輸送獣車まで戻る道すがら、監視所から別経路で引っ張った2本の糸が切れていないか、弛んでいないか、の確認をする。

 監視所からの連絡はこの糸を経由して行うから重要な事なんだ。

 

 

 「バルテルストレーム」の奪還作戦の中心は第2皇子派が占めている。そこに中立派と補隊の半分を付け足して戦力をひねり出している。

 まあ、ラーレ家の当主ホルガ―・ラーレ様、御歳おんとし52歳が主導しているから、どうせまた中立派を使いつぶしても構わないとでも思っているのだろう。作戦案をよく見れば分かる事だ。

 しかも、なんと言うか、作戦案が力押し過ぎる様に思える。奪還出来ても、かなりの被害が出るだろうし、チャイン帝国が無傷で精製工場を手放すかが不明だ。

 もちろん、僕としては「バルテルストレーム」の奪還自体は歓迎なんだ。精製された「大海獣油」の価値を考えれば、反対する者も少ないだろうしね。


 結局、今出来る事は命令通り、「バルテルストレーム」に向かう敵の増援を何とかする事くらいだ。

 幸いなことに、この辺りは起伏が激しくて、身を潜め易いし、敵の騎馬隊の機動力を削ぎ易い(進路を限定し易い)。中規模な林が近くに在る事もありがたい。

 想定される敵の規模だけど、500騎から1000騎という数字だけが降りて来ていた。

 対する我が方は、比べるのも馬鹿らしくなる兵力だ。

 『第101補隊所属試制第1増強小隊』1個と新編されたばかりの士家隊1個だ。

 普通に考えれば、僕を殺す為の謀略にしか思えない。

 まあ、僕に対する嫌がらせなんだろうけど(その割には生死が懸かっているが)、可哀想なのは付き合わされる士家隊だ。初陣がいきなり死戦必至なんて、泣いても良いと思うね。

 実際、顔合わせをした時に士家隊の隊長が半分以上の時間、呆然としていたからね。

 作戦は全て僕が立案して、配置も全て差配したのは仕方ないと思う。だって、僕と同い年の1等士家の当主にそんな事が出来る筈が無いんだから。中隊長以下も僕に任せ切りだったし。



 朝食を立ったまま食べている最中に動きが有った。

 監視所から連絡が入ったのだ。

 敵影見ユ、を意味する短3長3の拍子で鳴子が鳴らされたんだ。

 監視所に向かう前に、率いている部下たちに配置に付く様に指示を出す。

 今、ここに居るのは第1分隊と従兵6人と僕の合わせて16人だけだ。この人数で敵の増援を出来るだけ釣り上げなければならないんだからね。本当に人生って世知辛いと思うよ。


 敵の増援は斥候も放たずに街道を進んで来た。見渡せられる街道上を騎兵が埋めている。

 襲えるものなら襲ってみろ、と言わんばかりだ。

 では、御期待に応えるとしよう。

 敵の先頭が通り過ぎて、本隊らしき集団が見えるまで待つ。

 うん、あの派手な飾りが目立つ騎兵の集団が本隊だろう。懸案だった重騎獣部隊の姿は無い。

 補隊軽装甲兵員輸送獣車で待機する3人の馭者を除く、丘の稜線のこちら側に展開した部下に射撃準備を『ハンドサイン』で命令する。

 応答を見てから、丘を下って平地まで降りたところで、『エクスランチャー』用のやじりを籠めた弾倉をパウチから取り出す。と同時に『エクスモーター』を展開する。弾倉を所定の位置に嵌め込み、初弾を薬室部分に送り込んだ。

 

 敵の先頭から1千爪カク(約15㍍)ごとに落下する様に微調整をしながら発砲を開始。1トク(約1秒)ごとに『エクスモーター』用の術式を籠めたやじりが上空に放物線を描きながら飛んで行く。



 8発目を放った時に、最初の爆発音が響いた。





お読み頂き、誠に有難うございます。

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