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第1章 第16話 「戦時体制」

20201021公開


 




【‐皇国歴312年「食月しきづき」16日朝‐】



 

 結局、頼んでいた薪は間に合わなかったので、『シズク』で作った水と保存食で朝食を摂った。

 空は食月しきづき半ばという暦にふさわしいくらいに晴れている。

 この天気なら日中の気温は結構上がるだろう。

 『お風呂』に入りたくなって来たな。

 野営ということで身体の汗を布で拭うだけなんだけど、やはりサッパリしないからね。


 つい先ほど、本隊から命令が届いて、昼食までにタダ村に進軍することになった。

 捕虜にしたチャイン帝国兵はこのままここで監視するべしとなっていたので、無傷で済んだ補隊を2個置いていくことになった。

 監視する兵数よりも多い捕虜数だけど、負傷者がほとんどを占めているし、武器も取り上げたからなんとかなるだろう。

 戦死者の埋葬に関しては、本隊の『賢明な』判断に任せるしかない。

 放置すれば、流行病が発生し易くなるくらいの知識は有ると思いたいな。


 本隊は僕たちと交代で後方に下がるようだ。

 まあ、チャイン帝国軍を撃破して、タダ村を奪還したという手柄を確実に自分のものにする為に、ホルガ―・ラーレ卿ならきっと皇都まで下がる、に僕のお小遣い1か月分を賭けてもいいね。

 しかし、建前上は戦火を交えた前衛部隊の被害が大きかったから本隊がタダ村の奪還を担当した、となっているんだけどね。本隊の被害はどうなんだろう?



 昨日と同じように警戒を目的とした前衛部隊の横隊を先頭にタダ村に進んだ。

 到着したタダ村はいかにもといった住宅が20棟ほど寄り添って建っている農村だった。

 人口は100人から150人に収まるくらいだろう。

 いかにも農家らしい住宅は大きな被害を受けていないようだった。

 ここが戦場にならなかった証拠だ。

 出立の準備をしている本隊にも損害の跡は見えない。やはり本隊には、損害無しで大きな手柄だけが転がり込んだって訳だ。

 ホルガ―・ラーレ卿は笑いが止まらないだろうね。

 意気揚々と引き上げて行く本隊を見送った後、またしても軍議に呼ばれた。



「さて、神童、何か考えは無いか? なんでも構わん」


 

 昨日真っ先に僕の肩を攻撃した士家隊の隊長が口火を切った。

 グンダー・クヌートソン(KT)、43歳の1等士家の家長だ。見るからに3つめの夢でいう『体育会系』という風貌をしている。『脳筋』とも言うのかな?

 正直なところ、僕の記憶ではさほど重要人物に思えなかったが、どうやら武断の人だった様だ。

 政治の世界が合わなかったんだろう。以前見掛けた時よりも戦場の方が遥かに活き活きとしている。



「そうですね、まずは防備をどうするかですが、この一帯の地形を把握しない事には何も決まりません」

「そりゃあそうだ。よし、みんなで見て回ろうか?」



 なんと言うか、戦友として認められたと言って良いのか分からないけど、士家隊の隊長も、補隊の隊長も、段々と気安く僕に接する様になっている気がするんだけど?

 少なくとも、戦場で宮廷政治上の敵味方を持ち込んでも有益にはならないから構わないんだけどね。


 要所要所に警戒の為の補隊を配備して、一通りの視察が終わったのは5千脈セク(約1時間23分)後だった。

 


「この村を守るのは難しいと思います。この村の防備は諦めて、2ミチ(約300㍍)東方にある台地に陣地を築きましょう。この村は給水の為に確保するだけで構わないでしょう」

「そうだな、それが良さそうだ」

「だが、長期の駐屯になるのなら、今の装備では露営が続く事になるぞ」

「ラーレ卿に資材の手配をお願いしたいところですが、どうせのらりくらりと拒否するでしょう。例えば現地で調達せよ、とか言って」



 ちなみに、タダ村の周りは東方の台地を除いて平坦な平野だ。

 森林は大河セーベル川の近くまで戻らなければ無い。

 掘られている井戸が浅い事から地下水脈が浅い地下を通っているのだろう。そして収穫量が多そうな畑が一面に広がっている。

 機動し放題の騎兵部隊向きの戦場になるね。

 唯一、平野では無いのは東方に在る南北1ミチ(約150㍍)東西2ミチ(約300㍍)の台地だ。硬い一枚岩盤ではなく、岩石混じりの黒い土で出来ていた。

 平均の高さは4百爪メク(約6㍍)とさほど高くないけど、騎兵部隊の強みを殺すには十分だね。

 その台地の価値は昔も変わらなかったのだろう。台地の上には、大昔の建物の痕跡、より具体的に言えば砦の柱を建てたと思われる基礎部分が残されていた。「北土戦役」以前にコモン族が建てたものだろう。井戸の跡も探したけど、残念ながら見付からなかった。もしかすれば台地の内部は岩盤が広がっているのかもしれないね。



「ダールマン1等将家に支援を求めましょう。あそこを抑える利点をきちんと説明すれば、重要性を分かってくれるはずです」



 そう、あの台地に砦が在るだけで、チャイン帝国の行動を抑えられる。



 結局、僕たちが皇都に向けて出立したのは、月を跨いだ流月るげつ6日だった。

 簡易構造ながらも木造の兵舎が完成して住み易くなった途端だった。

 代わりに駐屯するのは、再編成を終えたダールマン1等将家の残存領軍の半分ほどだ。

 残りの半分は、他の予想侵攻ルート上に砦を造って抑えに回っているみたいだ。

 それと志願兵を集めて、補隊のような部隊も編制中らしい。



 侵攻を受けて、1ひとつきが経過して、やっと戦時体制に移りつつあるってことだ。



お読み頂き、誠に有難うございます。



 これで書き溜めた分は全て公開しました。

 第2章は宮中&試編分隊編になる予定です。

 第2章の書き溜めは第1章を参考にすれば約2か月ほど掛かると想定されますので、年末~正月に公開出来れば頑張ったと褒めてやって下さいましm(_ _)m


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