表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/57

第1章 第12話 「槍騎兵」

20201017公開




【‐皇国歴312年「食月しきづき」15日昼前‐】



「うーん、これは予想していなかったな…」



 ラッセ・ヨンセン/JN隊長が思わず言葉をこぼした。


「確かに想定外ですね」



 僕も同意するしかなかった。


 チャイン帝国の本隊が現れて、4ミチ(約600㍍)先で布陣を始めたが、まさか2種類の騎獣が居るとは思わなかった。

 100騎の横隊が5列並んだ先鋒が乗る騎獣は、皇国でも少数だが騎獣として使われるガッグだ。

 地球の『馬』並みの大きさで姿も似ている。『馬』と違うのは雑食性の為か、獰猛な点だ。

 それと頭部に前向きに生やした角を使って獲物を吹き飛ばす事も有る。

 顔つきも『馬』と違って可愛げが無いな。

 


「まあ、1トク(約1秒)で1千爪カク(約15㍍)進むという事が分かっているだけ、統制射撃の予測はし易いですね」

「そうだな。だが、あのデカブツは初めて見るから分からんな。もしも、あの図体でガッグ並みの脚を持っているとしたら厄介だな」

「さすがにそれは勘弁して欲しいですね」



 本陣と思しき後列は10×10騎で方陣を組んでいる。

 問題は騎獣だ。

 ガッグに似た姿だが、体長・体高・体幅が全てガッグの1.5倍はある。重量で言えば1,5倍の3乗なので軽く3倍以上だ。角もなんだか刺突に適した形をしている。

 あんなのに突撃されたら、止めるのが一苦労だ。

 もちろん、『エクスアロ』の直撃を受ければ、無傷ではいられないだろう。

 だけど、近距離に着弾した場合も同じかどうかは分からない。皮と脂肪が異常に厚くないことを祈るばかりだ。

 あんなに目立つ騎獣が報告されていないという事は、将家部隊はチャイン帝国の先兵に蹂躙されているという事だ。

 名付けるなら重騎獣にでもなるだろう存在を戦いの前に知れただけでも大きな収穫だ。

 

 それと、チャイン帝国の編成や練度や装備を見れたことも大きな収穫になる。

 これまで、どんな兵で、どんな武器を持っていて、どんな用兵をするのかが余り分からなかった。

 それがここで対峙したことで、知識が一気に増えている。

 整列をしている姿を見るだけでも練度の高さが分かる。

 騎兵の運用が身に付いているのは確実だ。

 ガッグに乗る騎兵の編成はこうだろう。3騎で1個班。3個班と小隊長を合わせて10騎で1個小隊。5個小隊で1個中隊。だから5列横隊500騎の前列は10個中隊になる。

 装備は『騎槍ランス』を持っているから『槍騎兵』と言って良いだろう。

 ただ、幸いなことに、重装金属鎧のような板金鎧ではなく、どちらかと言えば軽装皮革鎧に見える。騎獣ガッグも防具を身に付けていない。

 急場で組む『槍衾』でも対抗できる可能性が高くなって来た。


 後列の本陣は確定では無いけど、5騎単位の編成に見える。

 こちらも『騎槍ランス』を装備しているのは前列と同じだけど、完全な重装金属鎧で身を包んでいる。騎獣も前面に限定されるけどある程度の防具を身に付けている。

 前列で崩して、本陣がとどめを刺す、というのが基本の戦い方かもしれない。

 堅固な敵陣に突っ込むなら本陣の方が適している気もするけど。

 もしくは政治的な理由かな?


 

 なんにしろ敵の情報が増えれば増える程、戦い方の選択肢と戦術の幅は広がっていく。

 例えば、僕なら奇襲効果の有る攻撃を仕掛けることは可能だ。その後の展開も予測可能だ。

 だから僕は念の為に確認することにした。



「今なら一方的に敵の本陣も叩けますが、どうしますか?」


 

 チャイン帝国側はこれまでの将家連合との戦いから得た知識を基にして布陣しているのだろう。油断はしていないが、僕に対しては隙をさらしていることに気付いていない今なら、一方的に叩く方法は有る。ラッセ・ヨンセン/JN隊長にも敢えて具体的な数字を明かしていない射程の情報を教えることになるけど、割り切るしかないだろう。


 

「どうやって? まさかここから『エクスアロ』が届くのか?」

「『エクスアロ』ではなく『エクスランチャー』という僕だけの圏外魔術アウタムマギアですけど、届きます。本陣に直接叩き込めば、混乱に落とせると思います」


 

 ラッセ・ヨンセン/JN隊長が僕の言葉に考え込んだ。


「もっとも、本陣が混乱しても前列が突進してくれば、結局は想定通りの戦いになるだけです。それにこちらの手を晒す結果になるので、次回からは更に油断しなくなるでしょう。やるなら決定機に使いたい手ですね」

「そうだな。気が利いた前線指揮官なら本陣の混乱が収まる時間を稼ぐ為と、攻撃の元を潰す目的で突っ込んで来るかもしれんな」

「それに、今見えているだけがチャイン帝国軍の全てではない可能性も有ります」


 少なくとも、チャイン帝国は3つの集団で3つの侵攻路ルートで北土領を南進していた。

 その中央がこのダールマン1等将家(D)領を進む侵攻路ルートだ。

 それぞれの侵攻路ルートにどれだけの戦力を投入しているか全く分かっていないのが現状だ。

 予備戦力が有るとして、それと合流してから万全の態勢で攻めて来られるより、確実に目の前の部隊を叩く方が後々が楽になるかもしれない。その場合は一応各個撃破ということになるんだろうか?


 最終的に、敢えて奥の手を最初から晒すことを避けることにした。

 それにあっさりと後退を選ばれたら、追う脚が無い。2つ目の夢で散々乗っていた『Humvee』が有れば、混乱させた後に潰走まで持って行けるだろうけど。

 


お読み頂き、誠に有り難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ