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第1章 第11話 「布陣」

20201016公開


 


 渡河は襲撃も無く成功した。

 

 後続も着々とこちらの岸に辿り着いて橋頭保を盤石なものにしつつある。

 僕たちは命令に従って、このまま前進する。

 先鋒を務める第7隊の前方と左右に3個の補隊が援護目的で同行する。

 3個補隊の内、1個補隊は1ミチ(約150㍍)前方を横列で進む。

 待ち伏せや急襲を察知する危険な役目だ。

 第7隊隊長のラッセ・ヨンセン/JN1等士(13歳)が、士家隊や補隊の隊長たちと話し合ってくれた結果だ。


 援護目的で同行してくれる補隊の役割は最終的には『槍衾』だ。『馬防柵』が無い現状では、通常装備で騎兵突撃に対して唯一採れる策だろう。

 補隊が装備している槍は、士家隊が装備している槍よりも長く、全長2百爪メク(約3㍍)の長槍だ。士家隊と違って弓を装備していない為にそうなったのだろう。

 でも理由はどうであれ、『槍衾』を敷くなら長槍の方が都合がいい。


 渡河前に行った僕たちの隊の話し合いの時に、僕が説明の為に地面に描いた図を見て、その有効性に気付いた第7隊の小隊長以上のみんなの顔色は明らかに変わった。

 中には『これが神童と呼ばれる天才の知恵か…』と呟いた3等士家当主が居たけど、僕が偉い訳じゃない。

 驚く程、戦いを繰り返した夢の世界の歴史からの流用だ。神聖アースガーズ皇国とは戦いに関する知識の蓄積が違い過ぎる。僕も夢を見ていなければ、発想さえ出ない知恵だ。

 偶然なのかどうかは分からないけど、3番目の夢のぬしは『異世界転生チーレム』の空想物語ラノベを書くに当たり、色々な知識を調べて参考にしていた。おかげでそういう知識も豊富に得る事が出来たのは『ラッキー(幸運)』だった。


 その時に、みんなが気付いていないことも伝えた。

 騎兵部隊の利点は機動力と突破力ということだ。

 それを封じるには、高低差によって機動力を封じるか、圧倒的な火力か、『ナガシノの戦い』のように馬防柵を巡らせる工夫が必要になる。だけど、火力も資材も時間も無い中では無理な相談だ。

 半ば肉壁と言える『槍衾』しか残されていない。


 そして、僕が切り札として力をふるう。


 神聖アースガーズ皇国の軍事教本には、食料や矢などの消耗品を輸送する為に1つの隊に5台の獣車を組み入れるべし、と書かれている。なんでも、建国の時の戦いからの伝統らしい。

 獣車と言っても立派な物ではない。荷車を曳く獣は獣車に使われる動物では1番小さいグッグという中型の4足動物だ。積載量も僕が背負っている背嚢バックパックを10個も積めば満杯になる程度しかない。

 だけど、荷物をどけた後の荷台は高さ4百爪メク(約60㌢)の簡易の高台に出来る。

 これで背の低い僕でも射界は確保出来る。 

 専用のやじり魔術マギアの開発の為に千発以上も試射した結論から言うと、僕の『M4』は『エクスランチャー』と『エクスカービン』を1トク(約1秒)で1発の早さで『発砲』可能だ。1トク(約1秒)間で4ミチ(約600㍍)も飛ぶ小さな鏃を視認する事も避ける事も出来ないだろう。

 10発でも『エクスランチャー』を効果的に命中させれば、騎兵突撃を断念させる事が出来るかもしれない。あくまでも可能性の問題だけど。

 だから射界の確保は死活問題だった。 



 取り敢えず、布陣を命令された第一目標地点に着いたけど、ラッセ・ヨンセン/JN隊長は僕の進言を取り入れて、敢えて位置を間違えて布陣するという方策に出てくれた。

 1ミチ(約150㍍)北西にずれた場所がちょっとした丘になっていたんだ。

 進んで来た道は丘の裾を回り込むように蛇行して北に向かっている。

 なんせよ、ほんの数百爪(メク)の高低差でも戦いでは大きな違いを生む。

 見渡せる範囲がぐんと広くなる。

 射界も取りやすくなる。

 矢の勢いも打ち下ろしの方が落ちにくい。

 騎兵の突撃の勢いが落ちる。

 上を取っているという心理的な効果も有る。


 うん、この丘を取れたことは幸先さいさきが良いと言ってもいい。

 むしろここで迎撃するのが1番良い選択肢だと思う。


 丘の形を見て、歪な方陣を組むことにした。

 丘の北側に僕が乗る獣車を配置して、その南側に第7隊の士家当主たち45人を方陣で配置する。

 気休めかもしれないけど、ラッセ・ヨンセン/JN隊長が測敵と着弾観測をして、統制射撃を試みる予定だ。少なくとも初等学校を卒業している士家の人間なら教練の授業で統制射撃の為の訓練を受けているそうだ。覚えてるかどうかは別だけど。

 3個補隊150人と士家の従兵たち134人をその周りを囲むように配置をして、『槍衾』を形成してもらう。

 丘に布陣を始めた僕たちを見て、残りの隊も丘の南側の畑に布陣を始めた。

 どの隊も『槍衾』で円陣を形成している。少なくとも、命令通りに横陣に展開する愚は避けてくれたようだ。

 ラッセ・ヨンセン/JN隊長があちこちに従兵を出していたのは、この為だったのだろう。

 どうやら僕は上司に恵まれているみたいだ。



 丘の上から見渡しても、チャイン帝国の斥候の姿が見えないので、大急ぎで2ミチ(約300㍍)の位置を起点に1千爪カク(約15㍍)ごとに目印の矢を5本突き立てた。鏃は回収して僕が使うことにした。

 チャイン帝国の騎兵の突撃速度が不明な為にこれで測ろうという目論見だが、ぶっつけ本番になるので不安要素しかない。

 不安要素は他にも有る。2発だけ統制射撃の試射をしたけど、思わず目を覆うしかないくらいにバラバラの着弾だった。

 急遽、修正を加えてもう2射だけ試射をして、何とか1ミチ(約150㍍)先に2千爪カク(約30㍍)の範囲にまとめるのが限界だった。



 チャイン帝国の先兵が現れたのは試射に使った矢を回収し終えた直後だった。



 後に「タダ村の戦い」と呼ばれる戦いの幕がもうすぐ上がる。




お読み頂き、誠に有難うございます。

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