第1章 第9話 「歓迎式典の夜」
20201014公開
【‐皇国歴312年「食月」14日夕刻‐】
僕たちは、隊に5台配備されている獣車に食料や消耗品を積んで、徒歩で行軍した。
フォーゲリーン2等将家(F)領の領都フォーゲルストレームを経由して、ダールマン1等将家(D)の領都ダールストレームに到着したのは召集されてから4日後だった。
ダールストレームは大河セーベル川の中域南側に築かれた城塞都市で、農業が盛んなダールマン1等将家(D)の領都だけ有ってかなり栄えている。
もっとも、ダールマン1等将家(D)の領土の北側半分はハリアン2等将家領全土と共にチャイン帝国に占領されているので、この街が最前線のセーベル川に最も近い重要拠点になる。
ここを失えば、前線中央がフォーゲルストレームまで後退する事になる。
東西の戦線もつられて後退するだろう。
それにフォーゲルストレームはこのダールストレームと違って城塞都市ではない。防衛には向いていない。北土領全域の失陥の可能性が現実味を帯びてしまう。
士家以上の貴族を招いた歓迎式典が開かれたが、戦況が思わしくないせいか、暗い雰囲気に包まれていた。
まあ、領軍の半分以上を失った上に、1文字家たる1等将家当主当人が討ち死にしてしまったんだ。応援が来ても浮かれるのは無理だろう。
歓迎式典を開いたのは急遽跡を継いだ17歳の嫡男だけど、落ち着きのない性格なのかやたらと神経質な身振りが多い。
こんな侵略を受けるなんて想像もしてなかっただろうし、父親をいきなり失ってどうすれば良いのか分からないのだろう。
歓迎式典の後、立食会が催される予定だ。
だが、僕は早々に引き上げる気だ。僕はお偉い人達には受けが悪いからだ。
『M4』を披露した際に、『4等士家風情の小僧が皇主様のお気に入りを良い事に、はしゃぎおって』と陰で言われたくらいだ。
大方の将家や上級士家にとって、僕は秩序を乱す厄介者なんだろう。
それはそうとして、なんと言うか、呆れるしかない事が有る。
現段階になっても、チャイン帝国の侵略部隊の情報が降りて来ない事だ。
歓迎式典の前に確認したが、第7隊隊長のラッセ・ヨンセン/JN1等士(13歳)も知らされていなかった。
本当に勝つつもりが有るのだろうか?
「自分は立食会になったらすぐに休むが、みんなはそのまま楽しんでくれ」
「いえ、出来ればお時間を取って貰って、伍長様のお話を聞かせて欲しいのですが、構わないでしょうか?」
とっとと退散しようと考えていたら、エッベ・ロディーン/RDIN5等士が希望を言い出した。
他の班員も何やらキラキラした目で僕を見ていた。
集合してそのまま行軍して来たから、お互いの事をそれほど話していないのは確かだ。
有名人の僕の話を聞きたいというのは本音だろう。
僕が参加しないと、同級生のアイナに質問の矛先が向く。僕が少々政治的に微妙な立場という事を分かっていないアイナがおかしな事を言わない様にするには自分で話す方がマシだろう。
結局、ゲイルさん率いる第7-L-L-R班も合流して、10人で立食会を過ごした(従兵は立食会に参加出来ないので翌日の出陣の準備をしていた。その他にもダールマン1等将家(D)の従兵に接触してチャイン帝国の情報を集めてもらう任務も指示していた)。
『空調魔法』の実演は受けたね。いや、大受けと言って良い。
夜と言っても蒸し暑かったから、冷風を浴びると気持ちが良いからね。
お読み頂き、誠に有難うございました。