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プロローグ

20201006公開 1/2





 幼いエルリング・ヴィストランドは不思議な夢を見ていた。

 見た事も、想像もした事も無い褐色の肌の人々が、木や草が余り生えていない、乾いた大地で暮らす村の子供になった夢だ。

 歳はエルリングよりも少し下だろう。栄養が足りていないのか、手足は細く力も弱い。

 夢の中でエルリングは、毎日疲れ果てるまで水を汲む為に歩いた。

 口にできるのは土の中で育つ植物を潰して焼いたものと、見るからにやせ細った葉物、たまに出て来る正体不明の肉を焼いた小さな欠片だ。

 7日目にエルリングは高熱を出して病気で死んだ。



 幼いエルリング・ヴィストランドは不思議な夢を見ていた。

 今度の夢ではエルリングは初めて見るような鎧に身を包み、弓や剣や槍とは全く違う武器を扱う大人になっていた。鍛えられた筋肉を持つ馴染みの有る顔立ちと肌色の大きな男だった。

 扱う武器は小さなやじりを弓でもなく、圏外魔術アウタムマギアとも圏内魔術インナムマギアとも違う爆発を使った作用で遠方に飛ばす力を持っていた。

 竜車や獣車とは違う乗り物に乗って高速で移動したり、鳥よりも高速で飛ぶ大きな機械に乗って空を飛んだり、敵の顔どころか姿さえもろくに見れない戦場は、夢だと分かっていても背筋を凍らせるものだった。

 戦闘が毎日の様に続き、14日目にエルリングは荒れ果てた石つくりの町で、敵の放ったやじりに当たって死んだ。



 幼いエルリング・ヴィストランドは不思議な夢を見ていた。

 今度のエルリングは信じられない程に発達した街に住む父親くらいの年齢の大人だった。またもや初めて見るような顔立ちと肌色の緩んだ体形の男性だ。

 争いも無く、水も食料も何不自由なく手に入れられる環境は、まさに夢の世界だった。

 途中から複雑な文字を何となく読める様になってからは進んだ文明を貪る様に取り込もうと一生懸命だった。

 肉体を使った仕事ではなく、色々な空想上の物語を書いて生活をしていたが、563日目に大きな乗り物に轢かれてエルリングは死んだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




【‐皇国歴309年「食月しきづき」21日夕刻‐】




「エル! 分かる? お母さんよ! エル!」


 声が聞こえる…

 そう言えば長い間、普通の言葉を聞いて無かったな…

 ああ、夢ではないんだ…

 僕が何とか目を開けると、目の前にお母さんの顔がぼんやりと見えた。


「ああ、天翔ける全能神プランティナインス様、エルを返して頂き、心から感謝申し上げます…」


 そう言ってお母さんが僕を抱きしめた。

 懐かしいお母さんの匂いがした。夢の中では匂いが無かったので、不思議な感覚だ。

 2つ下の弟のハルフダンも泣きながら抱き付いて来た時に、初めて現実に戻って来た事を実感した。



 目が覚めて最初にした事は、水を飲む事だった。

 お母さんが差し出してくれた木のコップの中の澄んだ水は、これまで飲んだ中で一番おいしかった。

 夢の中の子供が一生懸命に汲んでいた水は茶色く濁っていた。

 もし、あの水を『クリネス』も掛けずに飲めと言われたら?

 きっと、僕には飲めない。

 おいしそうに水を飲む僕を見て、お母さんはまた全能神プランティナインス様に感謝を捧げていた。



 しばらくして姿を現したお父さんから、僕が夢を見ていた間の出来事を教えられた。

 公園の老木を木登りしている最中に、枝が折れて落ちた僕は7日間もの間、意識が戻らなかったらしい。

 途中、何度か息も止まったとも言われた。

 徐々に落ちた瞬間までの記憶が蘇って来た。

 今考えると、以前の僕は無鉄砲なところが有る子供だった。自分のことをなんでも出来る存在だと勘違いしていた。

 そのせいであんな細い枝に体重を掛けるなんて馬鹿な事をしたんだな。

 そう、子供は時として致命的な失敗を犯す。何故なら愚かにも想像力が足りないからだ。

 今回はなんとか生き残れたが、これからはもう少し注意深くなろう。



「エル、なんか雰囲気が変わったな」


 お父さんが話し終わった後に、ポツリと零した。

 うん、それは僕も思う。

 これまでの僕が生きて来た6年間とはまるで違う世界の夢を見たせいだ。これまでの僕では居られなくなった事を自覚しているからね。

 そして、死はこれまでの僕の人生に関係が無かった。まあ、対極の存在だったと言える。

 だけど、夢の中で僕は3回も死んだ。

 

 精神的に子供のままではいられない。

 そのせいで外から分かるくらいに成長したんだと思うんだ。


 それに3つ目に見た夢の影響は大きいと思う。

 父親として過ごした日々は大人としての視点を植え付けたし、信じられないほどに高度で、あり得ない程に多種多様な情報も得たせいで、ただの子供として居られないほど客観的な視点を持ったからね。



「夢を見ていたんだ… とても変で、とても悲しく、とても怖くて、とても平和な夢を…」




 こうして、僕は6歳の夏、死から逃れる事に成功した。

 と同時に、益々いびつに成長した子供になった。





お読み頂き、誠にありがとうございます。


 3~4章・10万字完結を目途に書いていきます。

 本当を言えば、エタ防止の為に執筆を終わらせてから公開したかったのですが、第1章・4万字まで書き終わった段階で辛抱出来ず公開してしまいます。

 意志薄弱と罵られる予感に震える今日この頃((+_+))

 取り敢えず、第1章の公開が終われば第2章の書き溜めの為にしばらくの時間が空く予定と予防線を張っておきますね(^^;)


 ちゃんと完結したいと神様にお祈りを捧げつつ……



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― 新着の感想 ―
[良い点] 久し振りに御作品を拝読(*'▽') 臨死体験の最中に様々な人生を経験するという始まり方、中々に印象深いですね。
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