閑話 episodeリア
私は生まれつきのミトコンドリア病で、寝たきり状態だった。
ミトコンドリア病とは、その名からも察せるだろうがミトコンドリアの働きが低下することが原因でおこる病気の事。ミトコンドリアは全身の細胞の中にあって、エネルギーを産生するはたらきを持っている。そのミトコンドリアのはたらきが低下すると、細胞の活動が低下し障害を及ぼす。
心臓の細胞で血液を全身に送ることができなくなり、筋肉の細胞で運動が障害され疲れやすくなった。
特に私は他よりもかなりの重症らしく、18歳まで生きることができたこと自体が奇跡だった。
二つの細胞が低下しているのだからもちろん動くこともままならず、よくなることなどなかった。
多分ね、あの呪いが作用しているんだろうなって、わかってた。わかってたからこそ悔しかった。
私は、現代医療の診断によってもっとも症状が近いミトコンドリア病だろうと言われていたけど、実際は違うんだ。でも、そんなこと私が言えるわけがないの。
プロの言葉と素人の言葉。
どちらの言葉を信じるかと言われれば確実に先生の言葉の方を信じるでしょう?
私だってそうする。
だから、私が「呪いの影響なんです」って言って信じてもらえるわけがなかった。
わかってる。だから言わなかったの。私が「いくつもの人の人生の記憶を持っています。」なんて、本当でも恥ずかしくて言えないよね。電波少女か何かかー!って話だもん。
多分、本で読んだ言い方で前世の記憶ってやつなんだろうね。
日に日に呪いが体を蝕んで、死を待つだけの最悪な日々。
こんな私のために仕事を辞めてずっと付き添ってくれたお母さんには申し訳ないなって思って、情けなくて。
お母さん。迷惑をかけてごめんなさい。
そんな私の最悪な日常が変わったのは、先生の言葉からだった。
「君のその呪いは、いつ貰ったものなんだろうね。」
多分、呪いっていうのは先生の比喩なんだと思う。先生は言葉遊びが好きだったから。そう言っていつも私を楽しませてくれたから。
でも、それでも話す理由には十分だよね。信じないのなら言葉遊びに対する作り話だと言えばいい。
だから私は、夢を見るのだと話した。それは呪いを受ける瞬間の話だけだけれど、何度も見たのだと話した。
くだらない。子供の考えた妄想。
そう思われると思っていたのに、先生はその話を信じた。
ミトコンドリア病に症状が近いとはいえ、全く似ても似つかない未知の病だったんだっていだったんだってさ。びっくりだね。先生は私の話を信じたほうが現実味がありすぎるって言ってた。私の本当の症状は一体何だったんだろうね。
あれは、私がVRプログラム技術と関わるようになった頃の事だ。
それは睡眠学習の研究のテスターが必要で、先生は私にその話を持ってきた。
もうわかるよね。フルダイブ技術を使用してその世界で授業を受ければ、寝ている状態でも教育を受けることが可能になる。
私に断る理由はなかった。多分、自分に価値を見出したかったの。
その日から私の生活は変わった。
毎日プログラムにログインしてほかのテスターの子たちと授業を受ける。
一日で三日分の教育を受けても脳に混乱は起こらず、結果としては睡眠学習は成功と言える。
学習内容は一般教養に剣術と体術。私はここで戦い方を教わった。
人間関係はあまりうまくいかなかったけど、私はそこで人生が変わることになった。
持ちかけられた話は、魂のデータ化。
魂とは、莫大なデータの塊だ。それを取り込むことができれば、体を失ってもデータ上で存在できる。
私の呪いはかなり進行していて、もう生きることなどできない。
だから、フルダイブ技術と応用して精神転生を行おうというのだ。
私が成功すればほかの子たちも救われる。断る選択は私にはないと思えた。
私は嫌われていたけど、それがその子たちの代表として実験台とならない理由にはならないから。
先生にはお人好しだと言われたけど、それが私で、今までの私もそうだったから、そうでありたかった。
私は誰かのためになりたいから。
読んでくださりありがとうございます。




