第五十七話
会場内へ入りまず向かうのは王国と王妃の所。夜会の参加者は主催者への挨拶が必須なのだとか。
「お久しぶりでございます。国王陛下、王妃殿下、ご機嫌麗しゅう。」
「ご機嫌麗しゅう」とは、「ごきげんよう」という意味だ。名乗らないというのは社交では不敬にあたるものだが、逆に相手と親しいのだという掲示とそることもできる。二つの判断方法は挨拶された側の反応の善し悪し。
国王も王妃も笑顔で受け答える。
「久しいな。今宵の夜会は楽しんでくれたまえ。」
「本当に久しぶりね。今日はルールなど設けていませんので、気楽にお過ごしくださいませ。」
「お気遣い痛み入ります。」
そう答えてリアも狐も丁寧に貴族の礼をとった。これは夜会が始まるまでの時間に必死に練習させられたものである。本来ならば一夜漬けにもならないこの礼も、さすがステータス補正__ダンジョン外でもステータスが反映されるのだ__と言うべきか、おそらくだが器用という項目による補正で動作が最適化されてかなり優雅にふるまえていた。
そこで王妃が「そうだ」という顔をしていたずらに微笑んだ。
「今日は息子や娘達も来ているの。紹介してもよろしくて?」
「とても光栄なことにございます。」
リアがそう返答すると、王妃は後ろで控えていた侍従騎士に全員を呼ぶよう言伝をした。
少し待ってから、かなり豪華な装飾を身につけた男性五人と女性一人の六人組が会場内に顔を出し王妃の隣に並んだ。王妃の近い方から順になって並んでいるのであろうか、ヨシュアは王妃から四番目に近い場所に立っていた。
「隣から、長男のハイドルア、次男のルゼルス、三男のガルトベート、四男のヨシュア、五男のヨハネ、それから、次女のカレンです。長女は嫁いでしまって、今はこの国にいませんの。」
「すみませんね。」と付け加える王妃に、リアは気にしないよう伝えると自らも名乗った。
「私はレミリア·リゼルニアと申します。こちらは私のパートナーとしてお連れしたカイトです。」
「カイト·レナルダと申します。」
リア·リゼルミアとカイト·レナルダは直前に二人で考えた仮名だ。
家名がないと貴族でないのがバレるというのと、狐という名前は流石に恥ずかしいとのことで違う名前にしたのだ。カイトは狐の本名なのだとか。
「わざわざありがとう。今日は楽しんでね。」
そうフランクに言った王妃に軽くお辞儀して二人はその場を離れ、料理の置かれた場所へと移動する。
夜会は立食形式になっており、参加している貴族ほとんどは手を付けずにダンスや顔合わせなどを行っていてそこにはほとんど人は立っていなかった。
リア達はそこから白ワインを取りこれからの作戦を話し合う。
「かなり注目されたから貴族たちへの挨拶は上手くいきそうね。」
「あとは会話からどれだけ情報を聞き出せるかですね。お嬢様は言葉遊びに自信はありますか?」
「無くはないけどある訳でもないわ。あまり期待しないでちょうだい。予定通り二手に別れて集める形でいいわよね?」
「構いません。従者と言えど貴族という立ち位置は変わりありませんから。」
そこまで話して、リア達は自分たちに近づくヨシュアに気づいて会話を止めた。
「レミリア嬢。」
少し緊張した様子のヨシュアにリアはなんの用かと首をかしげそうになったが、すぐさま取り繕って狐に移動するよう伝えて二人だけの状態を作った。
「ヨシュア様、先程は失礼をして申し訳ございませんでした。」
「いや、悪いのはこちらだ。すまなかった。
それより、この後ご予定などございますか?」
「いえ、特に急ぐものはございませんわ。」
「そうですか。でしたら、よろしければ私と踊って頂けませんか?」
そう言って手を出すヨシュアを見てリアは、内心でなるほどと苦笑いをした。
夜会の準備をする際に、リアと狐はダンスの練習もさせられたのだ。しかも全曲である。普通ならば不可能であろうことまでもやり遂げたのだからステータス様様である。
そしてダンスの練習はこの時のためなのだろう。踊れなければ貴族令嬢として疑いの目を向けられる。
ヨシュアは王妃に遣わされたのだろう。
そう納得したリアはヨシュアの手に自分の手を重ねた。
「ぜひ、お願い致します。」
読んでくださりありがとうございます。
貴族はよく分からないのでマナーやタブーが曖昧です。お許しを…




