第三十五話
本日二話目の投稿です。
何事もなく十八階層を抜けたリア達は十九階層も順調に進んでいた。
「す、すごいですね!攻略組の皆さんでも僕らを護りながら進むのは苦戦していたのに。」
綺麗な手のひら返しである。先刻までリアに向かって無駄なあがきだの無謀だの言っていた口には思えない。が、遊覧が言うのも当たり前の事だ。攻略組の最高レベルは27、対してリアは45。十九階層のモンスターなどノールックで氷漬けにできるし、圧倒的な実力差と言えるだろう。
まぁ、それを明かせるわけがなく、ただの魔石を『ギルドの人から預かった魔道具』と偽って手に持ち使っている風に装っているわけであるが、
「念の為忠告するけど、これは奥の手なの。数もないし取られても困るから誰にも言わないでね。もちろん攻略組の人たちにも。もしも情報が漏れたらあなた達全員ギルドに突き出すから。」
リアは目だけ三人に向けてそう忠告した。三人は顔を青ざめさせて何度も頷いた。これでバラされる心配はないだろう。
ギルドの情報を流したという理由でギルドに突き出すという事は、冒険者ギルドから除名されると同義なのだ。冒険者ギルドから除名されればこの世界で過ごすことはまず不可能だろう。
しばらく歩いて、十九階層の中間地点にあるルームに辿り着いた。
ルームにいたのは角兎の群れ。
突然現れたリア達を凝視し、次の瞬間襲いかかった。しかし、角兎はリア達の元へとたどり着く前に光の粒子となっていく。今回、リアは何もしていない。リア達に聞き覚えのある男の声がかけられる。
「間に合ってよかった。」
何が起こったのか分からずポカンとしていると、角兎によって生まれた光の粒子の中から声の主が姿を現した。
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「俺の不注意で君たちを危険な目に合わせて悪かったね。」
移動中、十九階層の中間地点にあるルームで合流した狐がリア達四人に謝罪した。
走るのをやめたのは三人であり、狐は先陣を切っていたので仕方なく、寧ろこちら側が謝罪をしなければいけないと思われるのだが、狐は四人の謝罪を拒んでしまった。彼なりに思うところがあるのだろう。
「それにしても、まさかこんなに早く合流できるとは思わなかった。このメンバーで進もうとは、君たちは勇気があるんやね。」
狐はニコリと四人に笑いかけた。
「リオが言ったんです。こんな所で諦めるなんて無責任だって。少しでも進もうって。」
「へぇ〜そうなん?」
遊覧がその時の事を話し、それを聞いた狐がリアに尋ねる。
「どうせゲームオーバーになるんなら、ただ座ってるより少しでも歩いて合流できる可能性に賭けたかったんです。狐さんが敵を倒した後で、モンスターに遭遇する可能性も少なかったですから。」
実際合流出来たでしょ?と言わんばかりに狐を見上げる。
狐は吹き出して、「そうやな!」と言った。
雰囲気も和み、リアは気になった事を尋ねる事にした。
「そういえば狐さん。」
「ん?狐でええで?」
狐はニコリと笑いかける。
リアは、この笑顔は苦手だなと思った。完全に狐のペースにされてしまう。
「き、狐。どうして、私達を探しに戻ってきてくださったんですか?見捨てる。という判断も出来たと思うのですが。」
「単純な理由や。君たちがいなくなってしまえば俺たちの食料も無くなる。ご飯を食べないと力が発揮出来なくなるやろ?」
「それはわかります。でも、三十階層で調達する方法もあったと思います。狐なら空腹になる前に到達出来るでしょ?」
できないわけがないと言う意味を込めて笑いかける。これは狐へのお返しの笑みだ。
「俺1人なら行けるやろうな。やけど、他に十人も連れて自分でも初めて入る階層を探索するんは意外と難しいんやで。」
なるほどとリアは納得した。
たしかに、レベルの低いメンバーを連れて自分も行ったことのない自分のレベルよりも上のモンスターがいる場所を攻略するのは難しいだろう。
「狐。見捨てないでくれてありがとう。」
気がつけば口から感謝の言葉が零れていた。
「僕も感謝してる。自分勝手に投げ出した僕達を探しに戻ってきてくれて。」
「自分も。諦めないで良かったと思った。」
「俺も。感謝しかない。」
リアに続いて遊覧、雨、涙もお礼を告げる。
狐は目を見開いて、それを隠すようにリア達から顔を背けた。
「まさか俺がお礼を言われるとはな。」
狐の小さな呟きは、リア達の耳には届かない。
今までされて当たり前と思われた事しかなかった狐の胸に、リア達のお礼は深く染み込んだ。
その後降りた二十階層も安全に進み、ようやく運搬組は攻略組と合流することができたのだった。
気が付いた方もいるかもしれませんがあらすじを少し追加しました。
まだ一章全然終わらないんですけどね。展開を予想して楽しんでくれると嬉しいです(笑)
次話は明日投稿します。




