第三十四話
「ふざけるな!なぜ置いてきた!?」
二十階層最終地点。モンスターの殲滅されたルームに黒羽の叫び声が響き渡った。
責められた鋼は肩をびくりとはねさせる。
「すみません。三人組が座り込んでしまって…ついて来る気がなさそうでしたので…」
「三人組…リオはどうした?」
黒羽の威圧的な問いかけに、鋼は全身を震わせる。
「彼女は三人がいなくなった後、迎えに行くということで一人で引き返して行きました。」
怯えながらも報告する鋼の言葉に、その場にいた全員が黙り込んだ。全員が、鋼が何を言っているのか自覚してない事に嘆いた。
いつも冷静な狐でさえも、驚愕に目を見開いていた。
「お前は、三人を見捨てる判断をしたんだよな?」
「は、はい。ですから…」
「じゃあなんでリオを止めなかった?」
「あ…。」
その指摘でようやく鋼は自分の報告した内容の意味に、失態に気が付いた。
リオが引き返した理由は三人を迎えに行くためだ。三人を連れて行かないのならついて来れているリオを向かわせる理由がない。止めて連れてくるべきなのは明白だ。
だが、鋼のせいだけではない。皆が己の事に必死で、結果全ての食料を失ったのだ。
狐は無言で立ち上がり、引き返そうと歩き始める。
「まさか戻る気か?」
「ああ。まだ生きてるなら合流できるかもしれんやろ?」
狐は足を止め肩越しに黒羽へ振り返る。黒羽は眉を下げる。
「あいつらのレベルじゃどのみち生き残れねぇ。幸い、ここはゲーム内なんだ。あいつらも死なねぇし、食べなくとも死にやしない。最悪、配布マップにあったセーフティーポイントで調達した方が利口だと思うがね。」
それに賛同するかのようにほかのメンバーは頷いた。
「お前らはアホか?」
「「「なっ、」」」
溜息をつき、あきれたような顔をする狐の言葉に賛同したメンバーは顔を赤くする。
「俺でもまだ辿り着いた事がない階層やで?通常の探索でも時間がかかるんになんでわざわざ状態異常を起こした縛りプレイをやらんといかんのや?」
その指摘に黒羽は言葉を詰まらせる。黒羽とてわかっているのだ。今回は長い間潜り、レベルを上げながら慎重に到達階層を増やしていく予定だった。黒羽の案は無謀もいいところなのだ。
だが、それを理解していないのかキラーが口を開いた。
「黒羽さんの案が愚策だとでも言うのか?確かにここまで先導したのはお前かもしれない。でもな、ここのリーダーは黒羽さんだ。お前のような奴でも黒羽さんは参加を許可してくれたのに、ついて来させてもらってる身で調子に乗るな!」
「おい。キラーやめろ。それ以上は、」
「お前らもそうだろ?黒羽さんが許可したから文句は言えねぇが裏切り者の狐がここにいることにいい思いはしてねぇはずだ。騙されねぇぞ。今度は俺らを貶めるつもりだろ?」
黒羽の制止も聞かず続けるキラーの言葉に、目を細めた狐の瞳の赤が飲み込むように深くなる。
キラーが言っているのは過去にあった別ゲーでのとある事件の事だ。
「お前ら、さっき助けられてる事を忘れたのか?確かに形式はこちらが狐を同伴させていることになってはいるが、狐がいなけりゃ今回の攻略は…」
「いいや。」
メンバーを止める黒羽の言葉を狐が遮る。
「俺は運搬組を探す。リオは分からねぇが、三人組はまだ生きてるようだしな。
後の攻略はお前ぇらでやっとけ。」
それだけ言うと、狐はメニューから[パーティーから抜ける]を選択し、ルームを後にした。
黒羽などの冷静な者を除く攻略組の面々はその姿を睨みつけている。
(嫌だねぇ本当に。決めつけも、押しつけも。あいつらもあの時の奴らと同じ。してもらった事を当たり前と思って自滅する。そのくせ責任を持たず他人が悪いと豪語して。本当に嫌な類の人間だ。)
狐は唇を嚙みしめて、もと来た道を早足で引き返した。
カランコロン。カランコロン。
静まり返った階層に、不機嫌な狐の足音だけが響いていた。
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