第三十三話
自称攻略組の戦闘は、そう言われるだけあってほとんど無駄な動きがなかった。
その為、思ったよりもすんなりと進んで十階層に到達していた。
その頃には疲弊した運搬班が遅れ始め、一度休憩することになった。
「意外と頑張るんだな。」
リアが疲れ切ったように休んでいると、黒羽がリアに話しかけた。
「いえ、まだまだだなと痛感しています。」
「そうか?お前よりも元々レベルが上で、しかも俺らの経験値が分けられてさらにレベルが上がった奴等が倒れかけてるのに、お前はまだまだ平気そうに見える。これなら、もう少しペースをあげても良さそうだ。」
ここに来るまでの間、運搬班が息を切らし始めた辺りでリアも息がきれかかっているのを装っていた。向こうもわかっていて言っているんだろう。
「いえ、根気があるだけですよ。今だって平然を振る舞うのがやっとで…これ以上はさすがに無理がありますね。本当は今にも倒れそうなんですよ?」
そういいながら上目遣いで黒羽を見上げる。
「それでも、30階層以降にはお前を連れていこうと思うんだが…どうだ?行きたくないか?」
その話にリアは目を見開き、身を乗り出した。もちろん演技だが、
「私を奥まで連れていっていただけるんですか!?」
「お、おう。今んとこお前が一番根気良さそうだからな。他のやつらは留守番だ。」
なるほど。黒羽はレベルなどというただの数値ではなく、自分の目で見て人を判断するらしい。
そこにリアは共感を覚え、そして安心た。きっと、いいリーダーになるだろうと予想して。
まったく、最初の印象などほとんどあてにならないものである。
「本当に、ありがとうございます。その、私頑張るのであまり早いペースで無いと嬉しいです。」
黒羽は笑って「頑張ると言ってもゆっくり歩くように頼むんだな」と言った。
休憩が終わり攻略組は再び下層へと足を進めた。
休憩により疲れも回復したのか、始めは順調だった。ペースが崩れ始めたのは十八階層に入ったあたりからだ。
モンスターのレベルが上がり、数が増え、攻略組が運搬組を守りながら戦うのが困難なのだ。
一応進んではいるが、ペースはかなり遅く攻略組の体力だけを奪っていった。ただ一人を除いて。
「チッ」
舌打ちが聞こえたかと思うと、次に耳に入ったのは『カラン、コロン。』という音だった。
それが足音だと理解して列の先頭を見ると、そこには狐が立っていた。狐は確か黒羽の話では二十二階層から先陣をきるため、序盤は援護のみで温存する予定だったはずだ。
「おいお前ら。このままじゃ埒が明かないから、ここからは俺が道を開く。出来る限り早く突っ切りたいんやが、体力は残ってるか?」
狐の言葉に皆が安堵して頷いた。
それを確認した彼は、大量にいたモンスター達を次々に倒し道を切り開いていった。
皆もそれに続く。
すごい。と、リアは関心していた。場の空気を一瞬で変え全ての戦闘を引き受けた背中が皆を先導する。彼は上に立つ資格を持っているように思われた。しかし、ついていけるのは強者だけだ。
攻略組の速さに足が追い付かず、運搬組がおいていかれてしまったのだ。
狐たちの方は大丈夫だろうと判断したリアは、慌てて運搬組の方へ合流する。
「大丈夫!?」
リアが駆け寄った時には、全員諦めモードで座り込んでいた。
「みんな立って。ゆっくりでも追いかけないと、完全にはぐれちゃう。」
「いや、でも僕らだけで生き残れるわけないじゃん。ここ十八階層だよ?君はまだ強敵と戦ったことがないから平気で進めるのかもしれないけど、僕らのレベルじゃ不可能。大体、あいつらが俺らを見捨てた時点で無駄なあがきなんてせずに大人しく強制送還される方が賢いと思うね。君は無謀だ。」
無謀と言われ、リアは頭に血が上るのがわかった。
なぜ実行する前からあきらめるのだろうか、リアには理解ができなかった。
戦う覚悟のないものに、なぜ無謀という一言で論されなければならないのか、勇敢と無謀は違うのだと、弱者が強者に言って誰が納得しよう。
リアの中にあるのは勇敢でも無謀でもない。ただの責任。
護られる者が、何も考えずに護られる事が許されるはずがない。無責任だ。そのくせ、自分達が危機に陥ったら他者のせい。
そんな身勝手な。仕事を何だと思っている。仕事をしているつもりすらないのだろうか?
勝手にあきらめて、役割を投げ出すことをリアはどうしても許せなかった。
「私が無謀?笑わせないで。あなた達のような無責任な人たちに私を語る資格はない!」
その時、丁度背後に現れた敵を振り返らずに氷漬けにする。モンスターがなぜ凍ったのか、理解が追い付かない運搬組の三人はポカンとしている。リアは続けた。
「私達は連れて来てもらっている立場。勝手にあきらめたくせして見捨てたなんてよく言えるね。連れて来てもらって、経験値を分けてくれている人たちの食料を持ってるの。何で自分の仕事に責任を持って果たさないの?私が無謀なんじゃない。あなた達が無責任なだけ。」
そこまで言ってリアは三人に背を向けた。
「私は一人でも行く。ここで無責任に死ぬか、私についてくるか、どちらが正しいか考えて。」
リアは周囲にいるモンスターを全て凍らせて先へ先へと歩いていく。
三人は顔を見合わせ、慌ててリアの後を追うのだった。
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