第十九話
活動報告でも申し上げましたが、登場人物紹介でリアのイメージイラストを載せておきました。
分かりにくいかもしれませんが文章よりかはイメージできるかと…!!
部屋に入れば、相手の殺気が肌を嫌というほど震わせる。
目の前には体長が三メートルほどある真っ赤な毛並みの狼が佇んでいた。
多分、これが初めての冒険。
今までリアは、どんな状況であれ、冷静に、確実に戦って、確定の勝利を掴んできた。
格上と戦う時も、ガルスと協力して敵を撹乱し、確実に仕留めてきたのだ。
だが、それでも格上は一つか大きくて二つ上。しかもそれは、ガルスとのレベル差がそう大差ない時の話だ。
今回は違う。相手とガルスのレベル差が10以上離れているのだ。ガルスには負担が大きすぎる。
だから、初めての冒険だ。
初めて対峙する、自分よりもレベルが5も上の相手。
初めて経験する、イレギュラーとの遭遇。
勝てるだろうか?いや、勝つしかない。
勝たなければ、リアは一生冒険ができなくなるだろう。だから勝つのだ。己のために。
『お主一人か?』
突然かけけられた言葉に混乱し、辺りを見渡すが、自分と狼以外になにもいない。
『私だ。主の目の前だ。』
その言葉に、リアは驚愕して目を見開いた。
目の前にいるのは自分より格上の存在。
「おお…かみ…?」
思わず声が漏れだした。
言葉を操るモンスターが存在することもまたイレギュラー。
まったく、今日はどれほどイレギュラーと遭遇するのか。それとも、これがひとくくりのイレギュラーなのか、
そんなリアをお構いなしに狼は話す。
『そうだ。私はレッドウルフの長。お主は?』
「みゃーはリア。一人だにゃ。」
『そうか。お主は混じり血か?』
先程から質問ばかりだ。
「混じり血?にゃんだにゃ?それ」
混じり血とは聞いたことがない。相手にばれないようにコマンドで検索をかけても、何も引っかかるものがない。
『お主等のような者達の存在の事だ。まあ、じきにわかるだろう。
それで、お主は私を倒しに来たのだろう?』
ほとんど説明せずに納得して話を進める。なんとマイペースなことか。
「その前に確認させてほしいにゃ。」
『なんだ?』
「其方があらわれたのは偶然かにゃ?それとも必然かにゃ?」
そう。それだけは確認しておきたかった。
偶然現れたのならイレギュラーなのだろう。だがもし、階層主の出現が限られた期間又は条件ならば、それはギルドに報告しなくてはいけない。
『どちらかと言えば偶然だろう。面白そうな存在を見つけたのでな?ぜひその力を見てみたいと思ったのだよ。』
「なるほどにゃ」
それならばいい。低ランク狩りはしないのだろう。
そうリアは判断した。
『もう大丈夫か?』
「そうだにゃ。全力で行かせてもらうにゃ。」
『ほう。では、楽しませてもらおうか。』
その言葉を合図にリアは駆けだした。
もちろん、正面から突っ込むのではなく回り込むように。
【アイスカッター】を顔に向けて何度か打ち込む。
『ほう?視界を奪うつもりか?』
目的が読まれていたようで、相手は面白そうにリアを観察する。
横から近づいてまず一発。拳を叩き込む。
格上と言っても、ステータスに差がありすぎるわけではないからか、多少なりともダメージは入る。
『あまい!』
「うぐっ!!」
気がつけば、リアは狼の尾で薙ぎ払われていた。
早すぎる。
想像以上だ。恐らく、目の前の敵は相当スピードに特化しているのだろう。
ダメージは普通。痛くないと言えば嘘になるが、それでも強くはない。
魔法をいくつか発動し時間を稼ぎ、立ち上がる。
何かいい手はないだろうかと思考を巡らせながら走り続ける。
頭の中で相手を囲うようにイメージして魔法を構築する。
「【氷の空間】!!」
その瞬間、氷でできたドーム状の物が狼を覆いつくした。
そして_
「【氷の針】」
氷のドームの中で大量の針を生み出して、的へ一度にそれを叩きつけた。
どうだろうか。これを食らえば無事では済まないと思うが、いかんせん当たったとは信じ難い。
その時、氷のドームにひびが入り、そして破られた。
こちらへ迫ってくる敵をどうにかギリギリでかわし距離をとる。
(不思議だ…)
リアは何かに違和感を覚えるが、それが何かを考えてもわからない。
一定の距離をとりつつ【風刀】を何発か打ち込む。
避けられることを考慮して避けた先にも魔法があるようにばら撒く。魔力の無駄遣いだが、当たらないよりかはましだろう。
その後も赤狼は何度も迫ってくる。
気づかぬうちに目の前に来ていた赤狼から、受け身をとれる体勢で距離をとろうと試みる。
しかし、敵が手前まで来ていて避けることなど不可能だろう。
だが、どれだけ経っても自分に入るだろうダメージは来なかった。そこでようやく違和感の正体にめどをつける。
(…?攻撃をしない…?)
そう。攻撃をしないのだ。
何度も敵の射程範囲に入ったにもかかわらず、受けた攻撃は最初の一度きり。
もし、もしもだ。
もしもステータスの割り振りが均等ではなく、レベルごとのステータス値の合計がほぼ均等で、個体による違いが大差ないのだとしたら。
目の前の赤狼は敏捷に特化している代わりに何かが欠けているのかもしれない。
それが攻撃しない、いや、攻撃できない理由だとしたら。
攻撃の命中率を決めるのは慣れ。そしてもう一つ、ステータスにより命中率が左右されるのは[器用値]だ。
たしかに、器用値が低すぎても、早ければ逃れられることはまずないだろう。だが、それができるのは圧倒的にステータスに差がある格下のみの話だ。
ステータスが離れすぎていなく、かつ、敏捷と器用がそれなりにある者ならば、避けることは容易であろう。
器用値が低いのだというのなら、リアに攻撃が当たらないのも、赤狼が攻撃を避けれないのも説明がつく。
試してみたい。そう思った。
接近してくるギリギリまで待ち、避ける。
(できた…!!)
こうすることで少しでも体力の温存ができる。
追撃を待ち、今度は避ける直前に足元に氷で針の山を作る。それに気づくも、避けられず赤狼は針山に衝突した。
(狼というより、まるで猪のようだな…)
スピード、動き、毛色。そのどれもがリアのイメージする猪と似ていた。
しかし三度目からはこの戦法も効かず、リアが避けると同時に赤狼も止まる。
学習能力のある猪と対峙している気分だ。
(それならこちらが追えばどうだろうか?)
そう考えたリアは、また、新しく魔法をイメージする。
リアがイメージしたのはミサイルのようなもの。生前読んだ本に出てきた、対象を追い続ける攻撃。
それを少し改良したもの
。頭の中で、氷魔法に風魔法を付与するように組み合わせる。
「【氷柱の追撃】!」
それを合図に、前に突き出したリアの手のひらから魔力が複数の氷柱に姿を変えて赤狼を追従する。
この氷柱はあくまで誘導。かわせるスピードで赤狼を追い続け、目的の場所まで誘導する。
赤狼は氷柱を壊そうと試みるも、攻撃が当たるわけもなく一方的にダメージを与えていく。
しびれを切らした赤狼は、術者であるリアの方へ一直線に突き進む。
そして_
待ってましたと言わんばかりに正面から突っ込むと、勢いに任せて魔剣で切りつけた。
リアのスピードと赤狼のスピードが、魔剣の攻撃力を引き上げ赤狼の体を両断する。
『主の同胞を…必ず、守るのだぞ…』
切られた赤狼は、それだけ言い残すと光の粒子となってリアの腕輪に吸い込まれていった。
視界に文字が表示される。
[レベルが上がりました。]
[ステータスポイントを分配してください(残りポイント410)]
部屋には、赤狼の言った意味が分からずにただ佇むだけのリアと、戦いの跡だけが残されていた。
バトルの描写って難しいですね。勉強します。
赤狼の言葉は二章へのフラグなのでまだ当分関係してこないと思われます。(ネタバレ)
読んでくださりありがとうございます。
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アクセス解析って機能を知ったので見てみたら、思ったよりも多くの方が見てくださっていたんですね。ありがとうございます。
あ、私の中ではの話ですよ。(保険)




