2話:テオード帝国の街
第二話です。
「山の下って、街があるんだよね?どんな感じなのかな」
騎士団達が去ってから早二ヶ月あまり。
優秀な執事のグレーとメイドのミュウによると、あれから戦争というものは起こらなかったらしい。どうやら国同士の話し合いで解決したとのことで。それは良かった、良かった。平和が一番だよね。
ところでだ。20年間引き籠りで外の様子を全く知ろうとしなった私は、ここ二カ月程でその外に興味を持ちだした。きっかけは二か月前の騎士団のせいだろう。
「まあ、お嬢様からしたら珍しいものだったでしょうね。騎士団というものは」
「とは言っても、華々しく人気の職業だから、下町の人間もいつだって見れるものではないにゃん。そういう意味ではとっても幸運だったのですよ」
別に騎士に興奮したわけではないけれども。ただちょっとだけこの世界に興味が沸いたのは事実である。
「……外に出てみようかなあ…。お買い物でもして」
ぽつりと漏らせば、グレーとミュウはそろって笑顔になった。
「宜しいと思います。お嬢様はいつになったら外に出るのか…大層心配しておりましたから」
「まるで老人のような隠居生活でしたしにゃん!街でも歩いて、新鮮な空気でも吸って来て下さいにゃん」
「ああ…うん。ありがと…。二人の気遣い、感謝するよ」
あははと乾いた笑いを残し、私は早速外に出てみることにした。
屋敷から麓の街に辿り着くまで、歩いて半日…って半日ぃいいいい!?
グレーの用意してくれた『帝国おススメの街と歩き方☆』な本を片手に持って外に出たが…馬鹿言ってんじゃないよ。たかだか街に歩いて行くまで、半日もかけられるかっていうの!
「はいはい。飛んでいきましょう!ええと……」
グレーとミュウによると、魔法を使う時には呪文を唱えるのが一般的だ。あと魔法陣を使うのも普通。しかし私はそのどちらも必要とせず、思い浮かべれば大抵の魔法は使える。
うん……今更だけど私ってマジ凄い。
自画自賛は置いておいて、魔法を使う時はある程度呪文があった方がいいなって思う今日この頃だ。
だって何も言わずに魔法を使うことはなんか寂しい…。攻撃魔法を出す時も、必殺技を言った方が何となくかっこよく思えるのだが、これって私だけだろうか?
ともあれ、正式な魔法呪文なんてものは知らないから、何も言わずに空を飛ぶ。
「ああ~!風が気持ちいい!イヤッホウ!」
まともに歩けば半日。飛べば5分。飛ばない理由はどこにもない。
街の入口で誰にも気付かれないように降りる。
「ほほう…これが街ですか…」
しかしかなり驚いた。初めて山から降りてみたが、これは街と言うより城塞都市だ。ぐるりと高い壁がそびえ建っており、入口には兵士がいる。
山を下れば沢山の家々が広がり、豊かな農村があるんだろうなあ~程度にしか思っていなかった自分だったが、何とまあ…これが帝国の街だということなのだろう。
「でもこれは帝都ではないよね…?帝国の中の、一部の領地ってところかな…?」
ま、何だっていいやと開き直った私はその都市へと降りてゆく。難なく門をくぐり、壁を越えて人が行きかう街へと歩いて行く。
「………ふむ…。街だな…」
正直な感想を言えば半分期待外れ。もっと店が並んで賑わっているのかと思ったけれど、日本で生活していた頃の商店街のような雰囲気だった。人も多い方なのだろうけれど、大都市東京で暮らしていた私からすれば、まあこのくらい…な人数だろう。
とは言え、珍しい布や小物、果物が売られているのは面白かった。
他の地域から来たのだろうか。いかにも旅をしています!といった風貌の人たちも多くいて、そんな彼らを見ているのも楽しかった。
「ん~!甘い!」
クレープもどきの謎の食べ物を買い、噴水がある広場で食す。見かけはイマイチだけれど、味はなかなか!
「お姉さん、それ美味しいだろう?この街の名物なんだぜ」
いつの間に隣に子供が座っていたのだろう。12~3歳くらいの男の子は、にかっと笑って誇らしげに私に話しかける。
「そうなんだ?うん、美味しいよ」
「お姉さん、街の外から来た人だろう?どこの国の人?」
男の子は興味津々で話しかけてくる。
「どこ…ん~…一応この帝国に住んでいるとは思うんだけれど…」
「そうなのか?どこの領地だ?」
分からん…。私に聞かれても分からないって。自分の住んでいる場所(山)の名前も、この帝国にどんな領地があるのかもさっぱりだ。
男の子の言葉をさりげなく無視していると、「おい!ガイ!」と向こうから男の人が隣にいた男の子に声をかける。
「おっと…親分だ。じゃあな、お姉さん!街を楽しんでな!俺、仕事に戻るから」
「仕事中だったんだ…。そっか、頑張ってね!」
あんなに小さいのに仕事しているのかあ…偉いなあ…。
働いて国に貢献して税金も納めているのだろうか。そう考えると、あれ?自分ってダメダメな人間かもしれない…。あの山にこもってのんびり暮らしているんだもの。
いやいや、前世で死ぬまで働いたのだ!何も罪はない!