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1話:ついついサービスしたあとに後悔


「あー……やってしまった。馬鹿ですわぁ…自分」


 滅多に見られない男性を見られた興奮からか、騎士団を招待してしまった阿呆な自分を呪う。


 あの後、即屋敷に帰り、魔法で急いで温泉を増設。ついでに仮眠をとれる別館も備えて。一応仕事中だってことだったので酒は駄目だが、食事も全て用意し、給仕にあたるメイドさんを複数つくっておいた。


「くっそう…。張り切りすぎた。前世であんなかっこいい男性見たことなかったから張り切りすぎた。馬鹿だ自分…なぜ私のオアシスに赤の他人を大量に入れているんだよ…」


 後悔しても遅い。あの時の自分はきっと何か魔法にかかっていたに違いない。ええ、一時の良くない魔法にね。


「騎士団の方達は大層喜んでおられますよ。見た事もない豪華な風呂と食事、そして休息の場もあると」

「ああ…そっか。こっちの人って、温泉って概念ないものね。勿体ない」

「同時にお嬢様は一体どこの貴族だって皆口をそろえているようです」

「ただの平民ですって言っておいて」

「…納得して下さるかは分かりませんが、承知致しました」

「あとは気になる事は?」

「ああ、その事ですが。騎士団長殿と副団長殿がご挨拶をしたいと」


 騎士団長と言えば、あの麗しい男性か…。正気に戻った今、会うのがとっても面倒くさい。どうせあれこれ突っ込まれて聞かれるんだろうし。ああー馬鹿だ、自分。なぜ最後まで傍観していなかった!?


「失礼する」


 そうこうしているうちに、ミュウが二人の男性を連れて私の部屋へと入って来る。


 二人はこれまた珍しい物を見るかのように、キョロキョロと視線を部屋の中へと彷徨わせる。まあ当然か…。和洋折衷な部屋の作りは、こちらの世界では物珍しいだろう。


 椅子に座った二人は何やら落ち着かなそうだったが、ややあって騎士団長が口を開いた。


「この度はご好意、感謝する。まさか戦をした後でこのような待遇でもてなして頂けるとは思わなかった」

「ああ…いえいえ。疲れが吹き飛んで下さったならば何よりです」


 相変わらずの男前だ。黒い髪に逞しい身体。こういう男性は、花のように可憐な女性が似合いそう。


 もう一人の男性は副団長とか言っていたっけ。団長と比べると、やや線は細いが、こちらの男性は役者のような顔つきをしている。前世の世界だったら人気が出そうな俳優顔ってところか。


「私は騎士団の団長を勤めている、ジルヴェスターと申す。こちらは副団長の…」

「アンドレアスと申します。この度は我ら騎士団にこのようなご好意を、ありがとうございます」


 軽く頭を下げる二人に私も倣う。丁度良いタイミングでグレーがお茶を容れてくれた。


「ところで、あなたの名前をお聞きしても?」

「あ…私ですか?」


 ジルヴェスター団長殿にそう問われ、私とグレーとミュウは顔を合わせる。名前…名前かあ…。


「…どうしたのです?もしかして我々には名乗れないとか…そういうご事情が?」

「ああ…そうではなくて…えっと……。名前ですが…」


 困り果てた私に代わり、執事のグレーとミュウが口を開いた。


「お嬢様、と我々はお呼びしております」

「お嬢様、ですにゃん。その他の呼び方は知りませんね」

「……そうね…。私、自分の名前決めていなかったものね」


 は?と騎士団のお二人が目を丸くした。いや…確かにね。そうなるよね。


 そもそも、誰とも関わって来なかったから名前なんて気にした事無かったよ。この世界に転生して引き籠り歴20年!名前なんて特別必要なかったわけで。


「どうしよう…何がいい?グレー」

「…それを私に聞かれても。お嬢様のお好きなように」

「と言われてもなあ…。私ネーミングセンスないんだよ…。ああ、お嬢様っぽく‘リリアン’とかは?」

「……ん~……可愛いすぎて、イマイチお嬢様には合わないかと思うにゃん…?」

「もの凄く失礼ね…。えっと…じゃあ………。ああ…面倒だわ…何も思い浮かばない…。名前考えるのって手間ね」


 元から名前とかにこだわりはない性分だ。そもそも名前を覚える事が苦手だった。店の名前とか、ブランド名とか。果てまた人の名前とか。聞いてもすぐに忘れるし。


 呆気にとられている二人の前でそんな会話をしたものだから、思わず苦笑いで誤魔化す。


「何でもいいですよ。好き勝手にお呼び下さい!あ、どうせならばこの私に命名して下さい!これもご縁ってやつですしね!」


 にかっと笑って誤魔化す。素敵な名前にして下さると嬉しいな!という具合で。




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