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結婚の挨拶

作者: 要中

「しかし自分の人生でこんなに早くこのイベントが発生すると思わなかったな〜」

彼女の家に到着した瞬間、ついそんな本音が漏れてしまった。

都心から車で2時間ほど離れた閑静な住宅街。

僕はこれから彼女のお義父さんと会って、人生で初めて結婚の挨拶をする。

でも長年交際を続けた上での今回の結婚挨拶、という訳では無くて、本当に偶然の出会いというか、

ひょんな事からそういう流れになって、あっという間に今日という日が来てしまった。

だから自分でもまだあまり現実味が無いというか、不思議な感覚がある。

まあでもそれが人生だし、それこそ運命ってやつなのかなとも思う。

「ちょっと。もしかしてビビってるんじゃないでしょうね?」

隣にいた彼女、有紗が怪訝な顔で僕に話しかけてきた。

「ビビってなんかないよ。何ならお義父さんと朝まで語り合いたいくらいさ」

この言葉に嘘はない。勿論覚悟は出来ている。ただ有紗のお義父さんは強面の上に身長も

185センチあるらしい。まあ今時、結婚の挨拶で殴られるなんて事は無いと思うけど。

「ならいいけど。まあ、今さら逃げようとしても絶対捕まえてお父さんに会ってもらうけどね。

さあ、行きましょ」

有紗はそう言って僕の腕を掴むとそのまま強引に家の中に入った。

「お父さん呼んでくるから、ここで待ってて」

有紗にそう言われて僕は和室で正座しながらお義父さんの登場を待つ事になった。

待っている間、やっぱり結婚挨拶と言えば和室だよな。その方が雰囲気あるもんな。などと

どうでもよい事を考えていた。

そうこうしてる間に奥の方から足音が聞こえてきた。

いよいよ勝負の時。大丈夫、僕なら出来る。

足音はだんだん大きくなり、僕のいる和室の前でピタッと止まるとゆっくりと

戸が開いた。

「待たせたね」

「あっ、お義父さん。は、はじめまして!僕は」

「まあそんなかしこまらず、座ってください」

実際に見るお義父さんは僕の想像をはるかに超える強面で一瞬で背筋が凍りついた。

けどよくよく見ると目元は柔和で口もとも笑みを浮かべている様に見え、

今回の結婚について反対という雰囲気は感じられない。

よし、これならいけるぞ。

「東京からわざわざ悪いね。大変だったでしょう?」

「いえ。全然。こちらからご挨拶に伺うのは当然の事ですし」

「そうか。そしたら回りくどい話は抜きにして早速、君の話を聞かせてもらおうか」

いきなり来た!よし!ここでズバッと決めてやる。

「はい。・・・お義父さん。娘さんを、兄にください!」

「よし来たっ!・・・えっ!?兄?えっ?」

「はい。兄と有紗さんの結婚を認めてください!」

「ちょっと待った。状況が全く飲み込めないぞ!じゃ、じゃあ君は誰だ?」

「僕は有紗さんと結婚する菅原宏の弟の菅原隆です!お義父さん!僕の兄と

有紗さんの結婚を認めてください!」

「どうして弟が挨拶にくるんだよ。結婚するのは兄貴なんだろう?兄貴連れてこいよ!

兄貴は今何やってるんだ?」

「兄貴は今、プレステやってます」

「プレステやってます、じゃねんだよ。来いよ。今すぐここに来いよ」

「それは出来ません。兄貴は、信じられないレベルの臆病者なんです!

強面の彼女の父親に結婚の挨拶をするなんて恐ろしい事、出来るはずありません!」

「じゃあダメ〜!そんな臆病者に娘を渡す事は出来ません!はいダメ〜!!!」

「でも兄と有紗さんは深く愛し合ってるんです!お義父さんお願いです!結婚を認めてください!」

「ダメに決まってるだろ。大体、何で弟の君がそんなにグイグイ来るんだね?2人の結婚に

何か特別な想いがあるのかね?」

「いえ!ありません!ただ今回、2人の結婚が認められると兄から多額の謝礼金が貰えるので

グイグイ行かせていただいてます!!!」

「兄弟揃ってロクでもねえ奴らだな!話にならん!大体、有紗も有紗だぞ!何で結婚の挨拶にも

来れないような臆病者と結婚しようとしてるんだ!」

「・・・私、臆病者で、子鹿のように怯える男性でしか興奮出来ないの」

「お前も大概だな!親の顔が見てみたいよ!・・・俺だよ!!!」

「お義父さん、どうしても兄と有紗さんの結婚を認めてはいただけないのですか!」

「認めませ〜ん!今すぐ出て行ってくださ〜い!」

「分かりました。兄には僕から諦めるよう伝えておきます。・・・だけどお義父さん!

その代わりにお願いです!娘さんを、谷にください!」

「誰なんだよ谷ってよ〜!!!ふざけんなよ〜!!!」

「谷は僕の親友で兄に勝るとも劣らないレベルの臆病者です!臆病者コレクターである有紗さんは

兄と付き合う一方、谷ともディープな交際を続けてきたんです!そして僕は谷からも

結婚の承諾が得られれば多額の謝礼金が貰える手はずになっているんです!だからお義父さんお願いです!

娘さんを、谷にください!」

「それに関して有紗が1番の悪である気がしてならん!有紗!!お前、一体、どうなってるんだ!!!」

「お父さん、私もう止まらないの」

「帰れ!お前も有紗も、2度と我が家の敷地を跨ぐな!!!」


結局、僕と有紗はお義父さんに大量の塩をかけられて清められながら車に押し込まれ、そのまま東京へと

逃げ帰る事になった。

帰り道の車内は重苦しい雰囲気に包まれていた。やはり谷の話を出したのは失敗だったか。

しかし、人の性格はそう簡単には変えられない。

兄と谷はこれからも怯え続けるし、有紗はこれからも臆病者に興奮し続けるだろう。

そして僕もこのまま何が正解なのか分からないままこの変態たちを

観察し続けるに違いない。







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