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08.準備期間

◇<ユイ>

 人間に虐げられている亜人たちを救う。

 そう決意してから一週間。

 事は急ピッチで進んでいた。

 ユグドラシルダンジョンの大岩を取り囲むようにU字型で機械人形(ゴーレム)たちの手により切り開かれていく森。

 最初はドーナツ型にしようと思った。

 では何故U字型なのかというとハイエルフの郷がUの上の位置にあるからだ。

 ハイエルフたちは他者との干渉を良しとしない。

 だからそこを避けてU字型にすることにしたのだ。

 一番外側に魔獣等の侵入を防ぐための見張り砦を兼ねた防御壁を設置。

 その壁の中はインフラ等がしっかりと整備された町。

 今はまだその町には誰も住んでいない。

 しかしもう少しして準備がキッチリ終わったらこの町に亜人たちを住まわせるつもりだ。


「本当はユグドラシルダンジョンに住めれば良かったんだけど…」


 私の呟きにシルアが返事をする。


『仕方ありません。この大陸、後々は世界規模で亜人たちを保護するとなるとさすがにユグドラシルダンジョンでは土地が賄いきれませんから』


 そうなんだよねぇ。

 だからユグドラシルダンジョンの外に町を作ることになった。

 この森は驚くほどに広大だ。

 故に世界規模で亜人たちを住まわせてもまだまだ土地は余る。

 疲れ知らずな機械人形ゴーレムたち。

 受け入れ態勢は順調に進んでいく。



<アレクシア>

 わたしたちがユグドラシルダンジョンって呼ばれてるその場所で暮らすようになってから二週間が経った。

 この頃になるとわたしたちも奴隷だった頃からは考えられないほどに生きる活力に溢れ、ユイさん・リーシャさん、シルアさん、メイドの皆さんのお仕事のお手伝いを率先してするようになった。

 そうそう。メイドの皆さん、シルアさんを除くと最初はお二人だけだったのにいつの間にか増えてるの。

 今は数百人くらいいると思う。いつ雇ったんだろう? ここに来てからびっくりすることばかり。

 シルアさんにそのことを聞いたら笑ってはぐらかされたから知らないほうがいいことなんだと思う。

 ところでユイさんはわたしたちが大人に混じってお仕事をすることをあまりいいようには思ってないみたい。

 嫌味的な意味じゃなくて心配で堪らないみたいなの。

 ユイさんの中ではわたしたちに割り振るお仕事は家事手伝い程度の予定だったんだって。

 そんなだからリーシャさんから「ユイは過保護ね」なんてよく言われてる。

 わたしもそう思う。大体これでも奴隷だった頃と比べると圧倒的に労働時間は短いし、やってることは危険が少ないことだし、それにユイさんたちがちゃんと傍にいてくれて指導をしてくれるから物事ががすんなり進むの。

 奴隷だった頃はそんなことなかった。

 初めてのことでも誰もついてくれず、だからどうやったらいいのか分からないから途方に暮れてたら「役立たずが!」って罵られて暴力を振るわれることが常だった。

 


「そうそう。人差し指の第二関節くらいのところまで穴をあけてそこに種を植えてね」


 それに比べて優しく丁寧に物事を教えてくれるこの環境。

 天国だ。この環境を知ってしまったら外の世界に戻りたくないって思ってしまう。


「ユイさん」

「ん?」

「わたし、ユイさんに助けてもらうまで辛いことばかりだったけど、頑張って生きてきて良かったです」

「そう。そう言ってもらえるとわたしも嬉しいよ」


 ユイさんはそう言うと微笑みを浮かべてわたしのことを撫でてくれる。

 気持ちいい。ユイさんって良い匂いがする。お母さん、又はお姉ちゃんってこんな感じなのかな? 抱き着きたい。でも今は手が泥で汚れてるから抱き着けない。


 できあがっていく街並みを見る。

 ここがもうすぐ人でいっぱいになると思うとワクワクする。

 

「ユイさん、楽しみだね」

「そうだね」


 ユイさんの手が止まってわたしから離れていく。

 もう少し撫でて欲しかったけど、代わりにユイさんの嬉しそうな横顔が見れたからいいかな。

 でもでも。


「うん、決めた」

「…? 何を?」

「ううん、なんでもない」

「気になるなぁ」

「ないしょー」


 お仕事のお手伝い終わったらユイさんに甘えるんだ~。



◇<ユイ>

 一ヶ月。準備はついに整った。

 後は亜人たちを呼び寄せるだけだけど、一度にそれを行うと大混乱を招くこと必至なので今回はとりあえず数千人をこの町に迎えることにする。

 

「始めようか」

「ええ」

『はい、畏まりました。マスター』


 リーシャもシルアもやる気は充分だ。

 よし! じゃあ最初は亜人たちの扱いが最も酷い王国からだよ。



<オルステン王国のとある奴隷・エルフの長老>

 アイリス。この世界は地獄じゃ。

 亜人に生まれたというだけで奴隷としての人生が決定するのじゃから。

 じゃが儂らは最初は奴隷ではなかった。

 集落の一族皆で奴隷商人に見つからないよう静かに暮らしていたんじゃ。

 じゃがそれも長くは続かなかった。

 いや、それでも数百年は隠れられたのじゃから長く続いた方なのかもしれぬな。

 兎に角儂らは奴隷商人についに集落を発見され、狩られることになってしまった。

 なんとか逃げ延びようともがいた。

 じゃが女・子供が捕まり、その子たちを人質にして大人しく投降しろと言ってくる連中。

 それでも逃げようとすれば儂らの目の前で口にするのも汚らわしい行いを連中は女・子供に笑みを浮かべながら心底楽し気にやりおった。

 そんな行いを目にした儂らは心折れ、連中の言いなりになるしかなかった。

 奴隷として連れられ劣悪な環境下で強制労働、或いは慰みもの・見世物。

 連中にとって儂らは壊れたら変えたらいいという道具扱い。

 そこに尊厳など存在はせん。

 これまで同胞が何人亡くなったじゃろうか。

 それなのにどうして儂のような年寄りが生きているのじゃろうか。

 いや、儂が生きているのは若い者たちに「きっと救いの手が差し伸べられるから希望を捨てるんじゃないぞ!」と言いづけるためじゃ。

 じゃがそう言う儂はとっくに希望なぞ捨ててしまっておる。

 儂らはこのまま連中に一人、また一人と壊され続けるのじゃ。

 

"ヴォォォォォォォォォォォォン"


 今日も労働の時間が始まる。

 地下牢から出され、連中に引きずられていく不死人(ゾンビ)のような儂ら。

 

「こいつらもうダメだな」

「ああ、そろそろ処分するか? 新しいの連れてきたらいいだろ」


 ああ、漸く終わるのじゃな。

 儂が死に救いを見出した時じゃった。

 この腐った国に異変が起こったのじゃ。

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