07.決意
◇<ユイ>
エルフの子供を救出してユグドラシルダンジョンに戻ってくるとそれから少ししてリーシャとシルアの二人もそれぞれ保護した子供たちの手を引きながら戻ってきた。
シルアが異常を発見して私たちが駆けだしてからすぐ後、同じような異常が二件別の場所で発生したため私たちはそれぞれ手分けしてその場所へ向かい救出を急いだのだ。
「あ、あの助けてくださってあ、ありがとうござい…ましゅ」
「あり、ありがとうございます」
「ありがとうございます…にゃ」
エルフの少女が一人に獣人の少年が一人、同じく獣人の少女が一人。
せっかく助かったのになんだか皆、怯えたような顔をしているのは気のせいだろうか?
『マスター、子供が怯えていますが魔獣への手加減をミスしたのではないですか?』
「シルア。私にもシルアが助けてきた子供が怯えているように見えるよ。そっちこそミスしたんじゃない?」
「二人とも怯えさせたらダメじゃない!」
「リーシャ、残念だけど説得力ない」
『ええ、まったくありませんね』
「うっ…。実は矢に魔法を纏わせて射ったら首を切断してしまったのよ」
『「うわぁ…」』
目の前で首チョンパされたらそりゃ怯えるよね。
念のためシルアにも聞いてみると彼女は彼女で戦闘が楽しくて笑いながら魔獣を倒していたら子供にトラウマを植え付けてしまったらしい。
私のことも話したら二人からドン引きされた。何してんだ、私たち。
三人が三人、それぞれの所業に頭を抱える。
「あ~~~、あのね」
『「「ごめんなさい」」』
私たちは子供たちにびしっと斜め四十五度。華麗に頭を下げた。
そこからは子供たちも漸く落ち着いたらしくそれぞれ自己紹介などをしてくれた。
エルフの少女がアレクシア、獣人の少年がレオン、同じく獣人の少女がミケ。
迷いの森にいた理由はアレクシアちゃんは主人殺しの罪を着せられたせい。
詳しく話を聞いた感じからすると死因は心臓麻痺だと思う。決してアレクシアちゃんのせいじゃない。
レオン君は主人に逆らって噛みついたせい。
ミケちゃんは主人に飽きられたから。
だからそれぞれ迷いの森に捨てられることになったらしい。
亜人たちの現状も聞いた。
聞いただけで理由が胸糞悪く、私は彼女たちを捨てた人間に対して胃液が逆流してくる思いをした。
「そっか。辛いこと話させてごめんね」
「いいえそんな、こんなに真剣に聞いてくれて嬉しかったです」
「そう…」
泣きながら笑うアレクシアちゃんの頭に手を乗せて撫でようとして気づく。
こう言っては何だけど匂いと汚れが凄いのだ。
多分本来はリーシャと同じ髪の色なんだろうけど、今はとてもそうは思えない色になっている。
ということは。…とあることを想像して体を触ってみると予想通り骨と皮。
この瞬間、私はアレクシアちゃんたちを引き取って育てることに決めた。
「ねぇ、みんなさ…ここで暮らさない? 簡単な仕事はしてもらうけど、三食出すし部屋も個室を用意するよ。どうかな?」
事後になったけれど、シルアとリーシャを見ると彼女たちは軽く微笑んでから頷いてくれたことから私に賛成らしい。
それを確認後、目線を子供たちに向けると唖然として固まってる?
「あ~、やっぱり親元に帰りたい? だったら」
「「「ここがいいです!!」」」
「そ、そっか…。うん、じゃあこれから…」
「そもそもわたし、親はいません。ううん、誰が親なのか分かりません」
「俺も」
「あたしもにゃ」
「えっ!?」
今度は私が固まる番だった。
さっき聞いたのよりどうも現状は酷いみたい?
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これは後で世界情勢を調べたシルアに聞いたことだけれど、亜人たちは奴隷や人体実験の研究材料として使われるために無理矢理交配させられているらしい。近親だろうがなんだろうが関係なく。そして生まれたらすぐに親元から引き離されて売られていくのだ。
「ふざけんなよっ!」
シルアから話を聞き終わった後はこれまでの人生でこれほどまでに怒ったことがあるだろうか? いや、ない。というくらいに怒り狂った。
右手を強く握りしめ、それによって爪が手の平に刺さって血が出ていても私はリーシャにそれを指摘されるまで怒りの感情が強すぎて痛みが飛んでいたのか、気が付くことができなかった。
閑話休題
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時は少し戻る。
シルアから話を聞く前、私たちはとりあえず子供たちをお風呂に入れることにした。
アレクシアちゃんとミケちゃんは私とリーシャで担当。
唯一の男の子であるレオン君はどうしようか迷った結果メイドさん軍団に任せることにした。
子供と言ってもレオン君は多分十歳くらい。
そのくらいの年齢なら羞恥心はとうに芽生えている。
DPを使用して急遽作った男湯から彼の悲鳴とメイドさんたちの楽しそうな声が聞こえてきたような気がするけど私は我関せずなのだ。
レオン君。ご愁傷様。
「アレクシアちゃん。ん~、アーシアちゃんでいい?」
「はい」
「じゃあアーシアちゃん、痛かったりしない?」
「大丈夫です。それより良いんでしょうか? わたしなんかが」
「んん~? どういうこと? お風呂入ったことないの?」
「ご主人様が使ってらしたので存在は知っていました。でもわたしは一ヶ月に何度か桶で水をかけられて洗われるだけだったので」
「冬は辛かったです」
そう続けたアーシアちゃんの言葉に私の手は止まってしまった。
「ユイさん?」
「ごめんね」
私はそう言ってそっとアーシアちゃんの小さな体を背後から抱き締める。
私たちの話を聞いていたのだろう。
リーシャもミケちゃんに同じ質問をし、同じ応えが戻ってきたことで彼女もミケちゃんを抱き締めている。
「「あ、あの…。どうしてお二人が謝るんですか(謝るのにゃ)」」
「うん、おかしいよね。でも…ごめんなさい」
「ごめんね…」
涙が零れる。
子供二人は困惑しながら顔を見合わせ、やがて私たちが泣いている理由に思い至ったか、或いは単純に悲しみが伝染して同じように泣き始める。
私たちはお風呂場で四人で抱き合って暫くの間泣いた。
お風呂の後、夕食を摂らせたら物凄い食欲だった。
最初は遠慮していたものの、私たちが笑いかけ、それにより一口食べたら止まらなくなったみたい。
ちなみに胃に負担をかけないように今日食卓に並べたのはあっさりとしたものばかりだ。
体が馴染んできたら徐々にお肉や魚など提供したいと思う。
元気に育って欲しい。
私は泣きながら食事をする子供たちを見て心からそう思った。
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シルアから話を聞いた後…。
私の怒りの炎は魔力として具現化し、更にその魔力が漆黒に染まるほどになっていた。
もう止まらない。私は亜人たちを救出する。
「シルア、リーシャ。亜人たちを助けるよ!」
『マスターの心のままに』
「私はユイに着いて行くわ」
「ありがとう」
私を転生させたイリス様の思惑からは外れるかもしれない。
だけど私は………。