外伝番外編02.楽しい旅行 その2
◆<里紗>
楽しい水着選びから二日後。
北の大地のC空港から飛行機に乗って本州にやってきた。
私の友人と結衣ちゃんとは初対面。少し心配だったけど、彼女たちは意外とあっさり仲良くなった。
相内詩織と風間実子。それが私の友人たちの名前。
だけど結衣ちゃんは最初に会った時に「アーシアちゃんとミケちゃん」と小声でそう呟いた。
幸いにも本人たちには聞こえなかったようだけど、私には聞き取れた。
それはつまり前に結衣ちゃんが荒唐無稽な話として私に話してくれた前世の知り合いということだろう。
実はあの話、私は信じていなかったりする。
というよりもどうでもいいっていうか、気にしていない。
だってあの時も言ったけど、私が好きになった結衣ちゃんは今そこにいる結衣ちゃんなのだから。
ただ二人と距離が近いとどうしても嫉妬してしまう。
結衣ちゃんは前世からの知り合いに対する接し方の延長みたいなところがあるのかもしれないけど、私にとってはそれはないわけで、なのに三人で楽しそうにお喋りしていると面白くない。
「へぇ、今回クジを当てたのは実子先輩なんですね」
「うんうん。私の彼女クジ運いいんだよ。前もね、お米当てたの」
「それほどでもないにゃ」
「ねぇ、結衣ちゃん!!」
「里紗先輩!?」
だから私は結衣ちゃんを二人から引き剥がす。
結衣ちゃんは突然の私の行動に多少びっくりしたようだったけど、特に苦言を言うわけでもなく、大人しく私に従って着いて来てくれた。
そんな結衣ちゃんだから私は告げる。
嫉妬したこと。私にも構って欲しいこと。みっともないとは思うけど、結衣ちゃんならきっと受けて止めてくれると思うのから。そして最後には結衣ちゃんが悪いわけじゃないのに「ごめんなさい、先輩」って謝罪する。優しい結衣ちゃんに付け込む私。最低だと思う。でもどうしても気持ちが抑えられなかった。
「結衣ちゃんの彼女は私だよ。どうして二人とばっかり話すの? …寂しいよ」
言うと、結衣ちゃんは予想通り困惑した顔。
でも次の言葉は私の考えたものとは違っていた。
「私の気持ち、分かってもらえました?」
「え?」
「だって里紗先輩、私より友達の方ばかり見てたじゃないですか」
結衣ちゃんの言葉で一瞬この娘は何を言っているのだろう? と思ったけど思い返して見るとそうだった。
結衣ちゃんが二人と話すのが面白くなくて私は二人のことを『私に譲れ』って思いながら見てた。
「ごめんね」
私と同じ思いをさせた愛しい彼女の手を取る。
結衣ちゃんはすぐに握り返してくれて指と指を絡めて恋人繋ぎ。
嬉しそうに微笑む彼女が可愛い。その笑みを見てるとさっきまでのことが嘘のように消えていった。
しかし私も結衣ちゃんも互いに私の友人たちに嫉妬してたなんて私たちは似た者同士。
類は友を呼ぶという言葉があるけれど、恋人もそうなのかもしれない。
とか言いつつ、似てないなぁって思うところも多々あるけれど。
「戻ろっか」
「はい」
蟠りも解けて私たちは二人のもとへ歩いていく。
詩織と実子の二人も恋人繋ぎをして仲睦まじく私たちを出迎えてくれた。
「里紗、遅い」
「ごめんごめん」
「もう! じゃあホテル行こ」
「そうね」
空港からは電車移動。数駅先で降りたところで今度はバスに乗り換えて再び移動。
今日は移動だけで一日が終わる。
遊ぶのは明日から。三泊四日の旅行。楽しもう。
前日は長い移動だけで疲弊してこれといって特別なイベントは無かった。
ホテルにチェックインしたらお風呂に入って…。
あ! 特別なイベントあった。二人で入ったお風呂楽しかった。うふふ。
食事を終えたら私たちは眠気に負けて即寝落ちしてしまった。
その分今日は元気。朝食を終えて結衣ちゃんを撫でまわし、それからいよいよ遊びに行くために着替える。
目的地はプール。ホテルのフロントにキーを預けてホテル前でバスに乗って数分でそこに到着。
受け付けでチケットを確認してもらって私たちは中へ。
脱衣場で水着に着替えるため服を脱ぎ始める結衣ちゃんをガン見する。
「見ないでください」って言われたってそんなの無理。
目の前で世界一大好きな恋人が裸になろうとしている様子を見ないで我慢できる人間がいるなら見てみたい。その人は聖人か何かだと思う。私は普通の人間なので見る。恥ずかしがって着替えの手を止める結衣ちゃん。早く着替えないといつまでもプールに行けないよ?
「結衣ちゃん、早く着替えないと」
「見られてたら着替えにくいです」
「え~~。あ! じゃあ着替え手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です。自分で着替えます」
残念。結衣ちゃんは服を脱ぎ、スカートも脱いで、下着姿。
その下着を恥ずかしそうに脱ぐところも当然ガン見。
水着を着用するところまで余すところなく見させてもらった。目が幸せだった。
私もさっさと着替える。結衣ちゃんも私を見てくるかなと思ってたけど、彼女はたまにチラっとこちらを伺うだけでガン見するようなことはなかった。初心で可愛い。
二人着替え終わり、脱衣場から出ていこうとする結衣ちゃんを止める。
「結衣ちゃん、待って」
「え!?」
「日焼け止め塗ってあげる」
「あ、はい」
このプールの脱衣場は女性のために考えられて設置された、それ専用の場所がある。
そこに結衣ちゃんを連れて行って俯せに寝てもらって私は日焼け止めを荷物から出す。
日焼け止めは大事。結衣ちゃんの白くて綺麗な肌が焼けて色が変わってしまうなんてそれは大きな損失だと思う。だからそうならないようにしないといけない。プールに出る前に気がついて良かった。
改めて結衣ちゃんを見る。それから水着を脱がして裸にさせる。彼女の裸幾ら見ても飽きずに興奮を覚えるのはどうしてだろう。この先も飽きたり、慣れたりすることはないんだろうなって思う。
だって結衣ちゃんの肌ってきめ細やかで白くて綺麗すぎるくらい綺麗なんだもの。
「先輩?」
見惚れてたら結衣ちゃんに声を掛けられた。
いけないいけない。頭を二、三度振ってから日焼け止めの容器の蓋を開けて液を手に落とす。
それから結衣ちゃんの背中に触れると冷たかったのだろう。短い悲鳴が私の耳に届いた。
「ひっ」
私はこの時点で悟った。これはダメだなって。
何がダメって冷静ではいられないことが分かったってこと。
世界一大好きな恋人の肌に触れて冷静でいられる人間がいるなら見てみたい。その人はきっと神様か仏様の生まれ変わりに違いない。私は普通の人間なので自分の欲望には素直に従う。
背中から腕、お尻に液を伸ばしていってお尻と太腿は特に念入りに。
それで後ろ側が終わると私は結衣ちゃんに仰向けになるよう指示をする。
「結衣ちゃん」
「はい」
「前も塗ってあげるから仰向けになって」
「ま、前は自分でやります!!」
「遠慮しなくていいから」
「遠慮ではなくて……」
「言うこと聞いてくれたら後でたっぷりキスしてあげるし、なんなら私も全身塗ってくれていいから」
私がそう言うと結衣ちゃんは固まった。長考の末に彼女が出した結論は了承だった。
なんだかんだで結衣ちゃんも欲望に正直な娘だ。
私はこの後自分も同じようにされるのだということなど無視して結衣ちゃんを堪能した。
「胸も塗らないとね」
「む、胸は水着で隠れるので必要ないと思います!」
「谷間だけ日焼けするの嫌じゃない? だったら全体に塗っておいた方がいいと思うよ?」
「うっ…」
「ね?」
「はい」
相変わらずちょろい。ちょろ結衣ちゃん。
私が結衣ちゃんの胸を他の何処よりも時間をかけて日焼け止めを塗ったのは言うまでもない。
尚、この後私も同じような目に遭ったことも付け加えておく。
自業自得とはいえ恥ずかしかった…。
燦々と降り注ぐ太陽の光。今日は快晴で雲はない。
目の前に広がるのは多くの人、空と同じ色の青いプールの水面。
絶好の遊泳日和。しかし暑い。そこに立っているだけでじわりと汗が滲んで垂れてくる。
「暑い…」
片手は額。それを日よけ代わりにしながら空を見上げてうんざりした表情の結衣ちゃんを見る。
今日はポニーテール。うなじに汗が滲んでいるのが色っぽい。
他の客には申し訳ないと思うけど、うちの結衣ちゃんに可愛さで勝っている人は一人もいない。結衣ちゃんが一番可愛い。恋人の欲目も入っているとは思うけど、それがなくても結衣ちゃんが絶対一番可愛い。
「里紗」
「遅くなってごめんにゃ」
結衣ちゃんを見て目に癒しを感じていたら詩織と実子の二人も到着した。
揃ったところでここまで水着の上に着てきたパーカー、カットソーを脱ぐと全員ビキニ。
結衣ちゃんは赤を基調として所々に白で可愛い模様があしらわれたバンドゥビキニ。肩紐は外されているので布によって胸が寄せられて結衣ちゃんの本来の胸よりちょっとだけ大きく見える。腰部は紐付き。これは飾りなので解いても水着が脱げるわけではない。後フリルがあしらわれていて可愛い。
私が選んだビキニ似合ってる。結衣ちゃん可愛い。可愛い。可愛い。
私はネイビーの三角ビキニ。シンプルイズベスト。胸元と腰部にちょこんとついた白のリボンがポイント。
詩織は白を基調としてピンクの桜柄があしらわれたワンショルダービキニ。腰部にパレオが巻かれてる。
実子は見て白と黒のボーダー柄三角ビキニ。腰部はお尻が丸出しのTバックみたいなやつになってる。
ちょっと目のやり場に困るから後ろは向いて欲しくないなって思う。
まじまじと見ていると結衣ちゃんに手を抓られた。
嫉妬して拗ねる結衣ちゃん可愛い。私の恋人世界一、ううん、宇宙一可愛い。
「…えっと、準備運動しようか」
「そうですね。後、実子先輩は里紗先輩にあまり近づかないでください。この人浮気しそうなので」
「にゃっ!?」
「ちょっ。しないよ? 結衣ちゃん、私をそんな目で見てたの!?」
「だってデレデレ実子先輩のお尻見てたじゃないですか! …私がいるのに」
最後小声なのにハッキリ聞き取れた。
水着の胸部に手を置いて少しだけ捲ってちらっと私を見、誘惑してくる結衣ちゃんに鼻血が出そうになる。
「ごめんね。私が悪かったから誘惑はやめて欲しいな。暑さと熱さで気を失いそうだから」
「じゃあ浮気しないって誓ってください。破ったら私は…そ、そこら辺の男性をナンパして浮気します」
心にもないことを。それに男性に興味のない結衣ちゃんがそれを行動に移すなんてあり得ないことだ。
絶対の絶対の絶対の絶対の絶対にないけど、もし仮に私が結衣ちゃん以外の女の子と浮気して結衣ちゃんが言った通りの行動を起こさなくてはならない状況となっても彼女はそれを実行することはないだろう。
分かっていても私は結衣ちゃんの隣に私の見知らぬ男性が立つ場面を想像してしまって鳥肌が立った。
「結衣ちゃん、そんなことしたら私怒るからね!」
「なら浮気しないでください」
「絶対しない。誓うよ」
「…信じます。我が儘言ってごめんなさい」
「結衣ちゃん」
「はい」
「その代わり結衣ちゃんを見張るから。傍から離れないからそのつもりでいてね。邪魔って言われても何処までも着いて行くから」
「はい!」
結衣ちゃんと和解して準備運動開始。
漸く私たちはプールに向かう。




