外伝16.クリスマスイヴ
◇<結衣>
クリスマスイヴ。今日は里紗先輩とお泊まり。
でも場所は先輩の家じゃなくて私の家。
海外ではクリスマスというものは地球の神様の男性御使い様の誕生日を祝うものとされているけど、日本では何故か違って恋人たちにとって特別な日という側面がある。
そんな特別な日に私はどうしても先輩を自宅に招きたかったのだ。
そわそわする。前日のうちに今日という日のための準備は全部済ませた。
落ち着かない私に憂お姉ちゃんがちょっかいをかけてくる。
「伴侶が待ちきれない? 恋する乙女だねぇ」
家族には私たちのことを全部話した。
同性愛者であることのカミングアウト。
多少緊張したけど、私の家族はそれで私を拒絶するようなことはなく、むしろ私が好きになったのがたまたま女性だっただけでしょ? っていうゆる~い感じで受け入れてくれた。
特にお母さんは「結衣はそうだと思ってた」って楽しそうに笑ってた。
「孫を抱かせてあげられなくてごめんなさい」っていう謝罪にも「娘が二人から三人になるんだから結衣は充分に親孝行してるわよ」って私と何故か憂お姉ちゃんを見ながら言ってくれた。
どうしてそこで憂お姉ちゃんを見ていたのかは知らないけど、私って本当に良い家族に恵まれたと思う。
家族によってはカミングアウトすることで互いに縁を切ることになったり、そこまで行かなくてもそれに近い疎遠状態になる家族だってあるのだ。
そんな中で私の家族はこの寛容さ。嬉しくて少し泣いてしまった。
「うん、待ちきれない。早く来て欲しいよ」
いつもなら顔を赤くして反論していたことだろう。
でも今日は全然そんな気になれなくて憂お姉ちゃんの言葉を全面的に肯定する。
呆気にとられる憂お姉ちゃん。お母さんがそんな私と憂お姉ちゃんを見て軽く口角を上げる。
「結衣は本当にその女性のことが好きなのね。…で憂はいつになったら恋人を紹介してくれるのかしら? お母さん、憂が恋人を連れて来てくれるの楽しみにしてるんだけどなぁ」
「うっ…」
どうやら私を揶揄ったことは憂お姉ちゃんにとって藪蛇になったらしい。
憂お姉ちゃんはその状況に冷や汗を流し、敵前逃亡していった。
「あ! 私、用事思い出したから部屋に戻るね。じゃ!」
「ちょっと待ちなさい。憂」
「用事用事~っと」
速い。あっという間にリビングからその姿が消える。
後に残されたお母さんは憮然とした顔。
その顔を見て少しだけ気持ちが解れる。
小さく笑うと玄関の呼び鈴がリビングに鳴り響いた。
「お邪魔します」
我が家に里紗先輩。なんとなくそれだけで頬が緩む。
「初めまして。貴女が結衣の?」
「はい。結衣さんと真剣にお付き合いさせていただいています。エシュアル・里紗と申します」
「結衣が好きになるのも分かるわね。あの子面食いなところがあるから」
「では私は結衣さんのお眼鏡にかなったということですね。それは光栄です。…そういうことだよね? 結衣ちゃん?」
「そ、そうだけどそうじゃなくて私は里紗先輩を顔だけで好きになったわけじゃ…ないです」
「うん、ありがとう」
「ひゅーひゅー、お二人さん玄関前で熱いよー」
「「うっ」」
玄関前でバカップルなやり取り。
二人して頬を紅にして互いから視線を逸らす。
のに少ししたら寂しくなって結局お互いを見てしまうんだから私たちは救いようがない。
「せ、先輩こっちです」
「う、うん」
「ひひひっ」
このままではいつまで経っても先輩を室内にあげることができないので適当なところで室内に案内。
途中先輩は持ってきたお土産をお母さんに渡してた。
桐箱に入ったメロンらしい。そんな高級なもの…。お母さんは目を見開いてた。
時間は夕食時。
先輩と家族を席に座らせて私は用意しておいた料理を食卓に並べる。
クリスマスらしく定番のローストビーフとポットパイシチュー、ポテトサラダに野菜を巻き付けて更にそれにトマトなどで飾りつけしてクリスマスツリーに見立てたサラダ、他にフライドチキンとカプレーゼ、生ハムのサラダ。
全部私の手作り。並べ終わり、それを告げ、そして私は先輩の隣に座る。
妙に熱い視線を感じて横を見ると先輩が私に微笑んでいた。
「ありがとう。結衣ちゃん」
「は、はい」
喜んでもらえて嬉しい。なんだか先輩の言葉に幸せを感じて心がほわほわと温かくなる。
そんな私たちを見ている私の家族の目も優しい。
私と先輩の目と目で語り合う時間を待ってくれたのだろう。
少ししてからお父さんから声がかかる。
「冷めてしまもうのもなんだし、熱いうちに食べないかい?」
「ええ、そうね」
「うんうん」
「うん」
「おー」
「あの、その前に少しだけいいですか?」
「先輩?」
「うん。実は皆さんに聞いていただきたいことが」
里紗先輩は私との関係を改めて私の家族に打ち明けた上で両親から私を先輩の婚約者とすることの許可を私の家族に求め、「結衣を幸せにできますか?」など私の家族と幾つか質疑応答した後、見事その権利を勝ち取ってみせた。
そんなことをするとは聞いてなかった私は一連のできごとをただただ呆けて見てただけ。
気が付けば家族から祝福されてて、先輩は私の肩に手を回して「絶対に幸せにします」って宣言してた。
正直何が何だか。行動速すぎます。先輩。
そんな風に私が泡食っていても時は進む。
家族と先輩と団欒しながら食事。
美味しそうに食べてくれる先輩が可愛い。
食べることを自身は忘れて先輩に見惚れていると先輩がこちらに振り向く。
「結衣ちゃん、本当に美味しい。全部大好きな結衣ちゃんの愛情が感じられる。私、幸せ者だね。こんなに料理上手で、しかも可愛くて、性格だっていいお嫁さんをもらうことになるんだから」
「ほ、褒め過ぎです」
「でも本当にそう思ってるよ?」
「……私もそうですよ。里紗先輩をお嫁さんにもらえるの幸せ者だって思います」
「ふふっ、ありがとう。ところで結衣ちゃんは食べないの?」
「あ! 食べます」
「うんうん」
正直先輩の言葉が甘すぎて、そのせいで味覚がおかしくなったみたいで料理の味はよく分からなかった。
皆で楽しく食事を終えて、お風呂は交代で入り、イカ人間がペンキをかけあうゲームとかVRとか、銃の扱い難しい。全身ピンクの小さい子上手かったなぁ。を楽しんでから就寝時間。
気分的に盛り上がっていた私たちはこの日一つになった。
↓一つになったお話はノクターンにて。
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