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女神様の御使いになりました。私と家族の恋と日常と平和貢献の物語。  作者: 彩音
外伝-アースパラレルワールド-
44/62

外伝05.初めての合コン

◇<結衣>

 合コン当日。何を着ていくか悩んだけれど、別にただの付き合いだし、普段着で行くことにした。

 上は黒のカットソーにベージュのカーディガン。下はスカートで濃い緑を基調としてオレンジ、白、グレーが交互に交じり合ったタータンチェックのタイトスカート。後は手持ちに黒のショルダーバッグ。

 鏡を見て特におかしなところがないことを確認したら玄関へ歩いていく。


「結衣姉。何処か行くの?」


 玄関前で弟に捕まった。靴を履いて振り向き、頭を軽く撫でながら笑いかける。


「お母さんたちと留守番よろしくね」

「任せろ!」


 弟の煉は思春期真っただ中だけど家の中では案外素直だ。

 外では頭を撫でたりすると恥ずかしがって手を払ったりするのに中では大人しく撫でられる。

 このくらいの男の子って私くらいの姉とかお母さんには生意気な口を利くものって思ってた。

 煉が珍しいのかな。アイリスで子供とよく戯れてた私だけど、彼ら・彼女らは身内ではなかったからその辺りいまいちよく分からない。

 そう言えばレオン君も煉と同じ感じだったような気もする。

 ううん、彼は外でも私に撫でられたりすると喜んでたっけ。

 う~ん、まぁ人それぞれの性格かな。


「じゃあ行ってきます」

「結衣姉、行ってらっしゃーい」


 弟に見送られながら外へ。出てみると案外寒く私はベージュのトレンチコートを取りに部屋に戻ることになった。弟が一度出ていったのに戻って来た私に不思議そうな顔をしてたけど仕方ないんだよ。

 季節は秋。寒かったんだ。




「それでは素晴らしい出会いに」

「「「かんぱーい」」」


 合コンに参加している男性の一人が乾杯の音頭を担当して私たちはグラスを頭の位置くらいに持ち上げる。

 中身は高校生で未成年なのでドリンクバーで注いできたジュース。

 でもそれは女性陣だけで男性陣は全員大学生で成人済ということでお酒を飲んでいる人もいる。

 場所はファミレスと言っていたのに何故かカラオケボックスに変更になった。

 早くもリモコンを操作して機械に曲をセットする者、食べ物を注文して届いた物を摘まもうとする者。

 とりあえず場を温めるために皆好き勝手なことをしている。

 

 ドリンクバーで注いできたカルピスとコーラを混ぜたものをちびちび飲みながら今日集まった人たちを観察してみる。 

 女性陣は私と敦美と純子と純子の取り巻きが二人。それからびっくりすることにリーシャ…りさ先輩。

 男性陣はイケメン…なのかな? その定義がいまいち分からないから分からない。

 隣の市にあるそこそこ有名大学に通っている人たち八名。

 純子はすでにその中の一人に目を付けて積極的に絡んでいっている。

 その取り巻きも積極的。

 敦美も気になる人がいたらしい。その人と雑談している。

 女性陣の中で壁と一体化しているのは私とりさ先輩。

 話しかけたい。ちらちら様子を伺うも私たちの間に男性数名が座っているのでそちらに行けない。

 邪魔。その中の一人が私の肩に手を回して話しかけてくる。


「初めまして。君みたいな可愛い子と出会えて嬉しいなぁ」


 純子が目当ての人物と共にデュエットを歌いだす。

 上手い…とは言えない。かと言って下手とも言えない。普通。

 う~ん、男性の方はちょっと下手かな。音程がずれてる。


「君って確か七瀬結衣ちゃんだったっけ。アイドルみたいだよね」

「はぁ…。ありがとうございます?」

「よく言われない? すっげぇ可愛いって」

「いえ、特には」

「まじで? 結衣ちゃんの周り見る目無い奴ばっかりじゃね。結衣ちゃんみたいないい女、放っておくなんてあり得ないって」

「はぁ…」


 ポテト美味しい。ケチャップとマヨネーズつけて…。塩も少しフリたいな。

 塩分過多で良くないか。塩は潔く諦めよう。


「でさ、結衣ちゃんってどんな男が好み? 俺とかどう思う?」

「ポテト美味しいです」

「ポテトって。結衣ちゃんって可愛いし、面白い娘だよね」


 男性が私にぴたりと体を寄せて寄って来る。

 実に馴れ馴れしい。それから鬱陶しい。

 突き飛ばしてもいいかな。


「可愛い可愛い」


 ついには頭を撫で始めた。背筋が凍る。なんだろう、この犯されてる感。屈辱を感じる。

 男性から離れたくてドリンクバーのお替りを理由に立ち上がる。

 ついて来ようとしてたけど丁重に断った。

 室内は騒がしい。こういうところ、こういう場はやっぱり精神的に疲労する。帰りたい。

 ふらふら目的のドリンクバーの前まで歩いていくとなんだか急激に眠気が襲ってきた。


(何、この眠気。まさか睡眠薬盛られた? お持ち帰りとか冗談じゃないんだけど)


 想像してゾっとする。朝起きたら知らない男性と裸で寝てたなんて洒落にならない。

 私の体に触れていいのはリーシャだけ。彼女だけが私を好きにする権利がある。

 

 歯を食いしばったり、手を抓ったりしてなんとか眠気に抗おうとするものの耐えきれない。

 体から力が抜ける。床に座り込み、睡魔に誘われるまま夢の世界へ…。


「大丈夫?」


 行く前にいつの間にそこにいたのか。女性から声を掛けられた。


「りさ…先輩?」

「睡眠薬か市販の改善薬を盛られたみたいね。あの男性と貴女が話している間に純子が貴女のグラスに何かしているのが見えたから気になって来てみて良かった。正解だったみたい」

「………ごめ……なさい」

「謝らなくていいよ。立て…ないよね。私におぶさって」

「………んっ」


 最早思考する力さえ残ってない。

 言われるがまま中腰で背を向けているりさ先輩にしがみ付く。


「少し揺れるよ~」


 それから後のことは覚えてない。

 ただ、安心する香りが鼻孔を擽ったことは覚えてる。

 私はりさ先輩の背中ですやすやと眠りに落ちた。




「知らない天井。……いや、知ってる天井だ」


 覚醒してすぐ。私の目に飛び込んできたのは高級ホテルみたいな天井。

 周りを見渡すとベット脇にこれまた高そうなソファとアンティークな箪笥が置かれている。

 小物を置くためのちょっとした台も。ここはユグドラシルダンジョンの婦々の寝室? 呆けていると足元の側から人の気配。


 目を向けるとリーシャ。

 …かと一瞬思ったけれど耳が丸いので違う。りさ先輩だった。


「起きたのね。おはよう」

「おはようございます。あの、ここは?」

「私の家。ごめんね、貴女の家が分からなかったから勝手に連れてきちゃった」


 連れて…。数秒して何があったか思い出した。

 睡眠薬らしきものを盛られて私はカラオケボックスで眠りに落ちた。

 助けてくれたんだ。お礼を言うために体を起こして頭を下げようとする。


「あの。私」

「気にしなくていいよ。あのままだとお持ち帰りされてたでしょ。助けるのは当然だよ。あ! でも私がお持ち帰りしちゃったけど」


 ふふっ。と小さく笑うりさ先輩は口調こそ全然違うものの笑い方はリーシャの面影がある。

 りさ先輩とリーシャは別人だ。そんなことは分かっているけど、似たところがあるから混乱してどう接したらいいか迷ってしまう。


 完全に赤の他人として振舞うべきか。少しくらい親密さをアピールしたりするべきか。

 前者が正解だろう。ただそれは私にとってかなり苦行。頭で理解できていたって正直ツラい。


「何も聞かないんだね」

「えっ?」

「えっ? って。私と純子の関係とか気にならないの?」


 りさ先輩がベットに腰かける。

 ギシッと小さく軋むベット。布団の沈み具合からしてりさ先輩の体重の軽さが伺える。


「ああ、そう言えば」

「そう言えばってゆいちゃんってあの男性(ひと)も言ってたけど面白い娘だね」

「聞いてもいいんですか?」

「いいよ」

「じゃあ聞きます。純子とはどういう関係なんですか? ああ、でもその前に」

「ん?」

「りさって漢字どう書くんですか? 教えてください」

「えっ? なんで?」

「いえ、特に理由はないですけどなんとなく?」

「どうして疑問形なの?」

「さぁ? どうしてでしょう?」


 私にも分からない。

 首を傾げるとりさ先輩は目を真ん丸にしてびっくりした表情を見せ、それから口に手を当ててくすくすと笑い始めた。


「あははっ、ほんとに面白い娘。ゆいちゃんみたいな娘初めてかも」

「なんかすいません」

「ううん。そういう娘に会えて嬉しいよ。りさの字は郷里(きょうり)の里に羅紗(らしゃ)の紗だよ」


 里紗。りさだけど少し強引に読めばリーシャとも読める。

 そっか。里紗、里紗、里紗…。

 その名前を心に刻み付ける。大切な人を思い出して温かいものが広がっていく。

 リーシャと里紗。里紗先輩はこちらの世界のリーシャ。確信した。


「ゆいちゃんは?」


 胸に手を当てて俯き、考え事をしていたので里紗先輩が私の目の前に来ていることに気づかなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!???」

「ちょっと幽霊でも見た顔して失礼じゃないかな?」

「あ、いえ…。いつの間にか目の前にいたのでびっくりしちゃって」


 手をばたばたと振って里紗先輩に言い訳する。


「だって何度か呼びかけても反応しないから、聞こえないのかなって思って」


 聞いても少し口を尖らせていたけど、納得してくれたらしい。"ほっ"とした。


「ごめんなさい。考え事してました。それで何の話でしたっけ?」

「ゆいちゃんの名前の漢字。どう書くのかなっていう話だよ」

「私は結ぶ(むすぶ)(ころも)です」

「結ぶ衣で結衣。なるほど。覚えた」

「はい」


 聞き終えると沈黙の刻。気まずい。何か話すべきなんだろうけど、リーシャじゃない里紗先輩に何を話していいか分からない。学校の話題? 一年違うと意外と壁がある。ならさっきの合コンの話題? 私から聞くのってどうも抵抗がある。里紗先輩は話したくないのかもしれないし、それを無理に聞くようなことしたくない。


「ねぇ、結衣ちゃん」


 先に沈黙を破ったのは里紗先輩だった。

 良かった。沈黙が途切れた。

 安心した私だったが次の瞬間、私は激しく狼狽えることになるのだった。


「ちょっと抱き締めてみてもいい?」

「えっ――――」

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