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女神様の御使いになりました。私と家族の恋と日常と平和貢献の物語。  作者: 彩音
番外編-前世。奇跡が起きた日-
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番外編14.再会 その3

◇<ユイ>

 久しぶりの七瀬家での夕食。

 お母さんが作ってくれたのは私の好物ばかりだった。


「結衣。卵焼きは甘いのが好きだったよね」


 夕食の席について食べ始めた時からお母さんの中では私は結衣だ。

 それについて時々お父さんやお姉ちゃん、弟から突っ込みが入るものの、その時だけ「あ! そうだったわね」と言いながらすぐまた結衣に戻っている。

 お母さんは間違えてない。間違えてないから私の方が反応に困る。

 まさか苦笑いするわけにもいかないし、普通に笑顔を見せているけど、これでいいのかな?


「ねぇ、結衣」

「母さん。だからゆいさんは」

「あっ! そうね。つい…」

「いえ、いいですよ。先程も言いましたけど、私でよければ結衣さんの代わりになります」

「いいんですか?」

「はい」

「すいませんねぇ。家内が迷惑をかけて」

「いえ。こちらこそ図々しく家に上がり込んでしまって、しかもご飯までご馳走になってしまってすみません」

「いや。久しぶりに賑やかな食卓で嬉しいですよ。なっ?」

「ええ、そうね」

「うん。本当に結衣がそこにいるみたい。だってゆいさん、食べ方も結衣とそっくりなんだもん」

「やっぱり憂姉もそう思った? 俺もそう思って見てたんだ。そっくりだよな」

「煉。あんたずっと見てたの…? エッロ」

「ちょっ! そんなんじゃねぇって」


「「「「「…ぷっ。あはははははっ」」」」」


 楽しい。そうだ。ここで生きてた頃は食事の時間よく皆で笑ってたっけ。

 懐かしいなぁ。ほんと懐かしい…。懐かしくて……。


「ゆいさん!!?」


 うん? どうしたの? 煉。そんなに驚いた顔して。…皆も。


「ゆいさん、気が付いてないんですか?」

「えっ? 何か顔についたりしてますか?」


 ご飯粒とか? だったら恥ずかしいな。


「どうして泣いてるんですか?」

「え?」


 泣いてる? 私が? 右手で頬に触れてみる。水滴。ほんとだ。泣いてる。


「あれ? どうしてだろう? おかしいですよね。あれ? 止まらない」


 前が見えない。

 なんで? なんで私、涙止まらないの?

 止めようとしてるのに次から次へと溢れてくる。

 ついさっきも沢山泣いて枯れたと思ってたのに。溢れてくる。


「うっ…。うっうううっ…。ごめんなさい。私…、ごめんなさい」

「結衣!!」


 我慢できなくなった隣の席のお母さんが私を抱き締めてくれた。


「ごめんなさいごめんなさい。うっううっ…迷惑かけて、ごめんなさい」

「いいのよ。いいのよ、結衣。泣きたい時は沢山泣いていいの」

「お母さん…」


 お母さんの胸の中、私は暫くの間泣き続けた。

 その後残すのは勿体ないからと食べたご飯はしょっぱかった。

 でも美味しかった。お母さんの味絶対忘れない。



 それから暫くしてお別れの時が来た。

 家族は泊まっていけばと言ってくれていたけど、ここの家族と過ごしているうちにアイリスの自分の家族と会いたくなったのだ。


「それじゃあお世話になりました」

「もう行くの? 泊まっていけばいいのに」

「母さん、ゆいさんも待ってる家族がいるだろう。無理を言うもんじゃないよ」

「でも…」

「すみません。夕ご飯美味しかったです」

「そう。良かったわ。また来てくださるかしら?」

「……ええ。またこの町に寄ることがあれば」

「ゆいさんは」

「すみません。そろそろ行かなくちゃ」

「…そうね。引き留めてごめんなさい。また絶対来てくださいね」

「はい。それじゃあ失礼します」


 私は家族に背を向けて歩き出す。

 家族の声に何度も何度も後ろ髪を引かれたけれど、私は一度も振り返ることをしなかった。


「お父さん、お母さん、お姉ちゃん、煉…」


 会えてよかった。

 皆のこと絶対絶対絶対に忘れないからね。



 暗がりの公園。

 ひと気のないその場所の都合よく生えた樹の裏で私は軽く息を吐く。

 気持ちを切り替えて想うは私の妻リーシャ。

 足の先から少しずつ体が消えていく。

 目を閉じる。次に開いたらそこはユグドラシルダンジョンの私の家だった。



<煉>

 ゆいさんが道向こうに消えてから、俺は玄関の下駄箱の上に何か光るものが置いてあることに気が付いた。

 何かと思い、それを手に取ると、それはネットや漫画、アニメの世界でしか見たことがない金貨という代物。

 円形で中央にゆいさんの顔が彫られていて、その周りには教会のステンドガラスで見るような繊細な細工が幾らか施されている。


「憂姉、これ」

「ん? 何?」


 換金したらどれくらいの金額になるのだろうか? 少し怖くなった俺は憂姉にそれを見せた。


「煉。これ何処で?」

「下駄箱に。これ絶対ゆいさんの持ち物だよな?」

「多分。でもどうして? もしかしてお礼のつもり? でもこんなの。お父さん、お母さん! 大変なの」

「なんだ? どうした?」

「なぁに? 何かあったの?」


 最初は笑顔で近づいてきた父さんと母さん。

 それを見ると険しい顔になり、俺たちと同じように慌てだした。


「ちょっと。これ何処で?」

「そこの下駄箱で。ゆいさんのだよな? これもらうのヤバいだろ」

「当たり前でしょ。煉、ゆいさんまだその辺にいるかもしれないからあんた走って返してきな」

「あ、ああ」


 こうして駆けだした俺。闇雲に走った結果、幸いにもひと気のない公園に入っていくゆいさんを発見した。


「なんであんなところに。こんな金貨を置いてくくらいだし、ホームレスってわけじゃあねぇよな」


 謎な女性(ひと)だ。首を傾げながらも俺はゆいさんの後を追いかける。


「ゆ…」


 そこで俺が見たのは空気に溶けて消えていくゆいさんの姿だった。


「嘘…だろ」


 最初は足。次に手と下半身、上半身、首、頭。そしてついにゆいさんが完全に消える。

 俺は暫くそこから動けなかった。

 呆けて家に戻った後、信じてもらえないことを承知の上で俺はこのことを家族に話した。

 とても馬鹿げたオカルト話だ。誰も信じないと思ったが意外にも家族は皆信じてくれた。


「そうか。ゆいさんは本当に結衣だったのかもしれないな。何かがあって一日だけ神様に時間をもらって俺たちに会いに来てくれたのかもしれない」


 父さんの言葉に皆が頷く。そうかもしれない。いや、きっとそうだ。だからあの時ゆいさんは…。いや、結衣姉は泣いたんだ。


「また神様に時間がもらえることがあったら会いに来てくれよ」


 俺は俺の目の前で空気中に消えた結衣姉に向けてそう呟いた。

 右手をそっと開く。俺の手の平の上には結衣姉が置いて行った金貨がキラリと輝いていた。



◇<ユイ>

 ユグドラシルダンジョンに戻ってきた私を待っていたのは私の家族だった。

 家族総出で私の帰りを待っていたらしい。

 信じていたけど心配で不安だったんだそう。

 愛しい家族。私はそんな家族に微笑む。


「ユイ」

『マスター』

「ユイお母さん」

「ユイさん」

「御使い殿」

『『ユイ様』』


「『「「「『『おかえり(なさい)(ませ)』』」」」』」 


 ふふっ。つくづく幸せ者だなぁ。私。

 

「皆、ただいま――――」

この後のお話はこちら。

(成人済みの方のみご覧ください)

https://novel18.syosetu.com/n8528gb/

番外編と外伝含めて全8話

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