番外編12.再会 その1
◇<ユイ>
私は今その場所に静かに佇んでいる。
私の目の前には地球の日本という国では極々一般的な家屋。
ここは私が十八年という月日を生きた家。言い換えれば私という人間を十八年間育ててくれた両親と二つ違いの姉、八つ違いの弟がいる家。
もう一度この場所に戻ってこれるなんて思ってなかった。
戻ってくるまでの私はそれでいいってそう思っていた。
だって私にはアイリスで大切な人が沢山できた。
その皆と私は一緒に生きている。
だから地球の家族は地球の家族で私のことなんて忘れて生きて欲しいってそう思っていた。
それなのに。
--
それは今朝方のこと。
昨夜可愛い妻のリーシャのお願いでワンコな着ぐるみパジャマを着用することになった私。
恥ずかしがる私をリーシャは「可愛い可愛いわ。ユイ」と瞳がハートマークになる感じで徹底的に愛でて褒めちぎった。最後には抱き枕。リーシャにそうされることは彼女と付き合い始めた頃から度々あることなので慣れてはいたんだけれど、それまでほんとのほんとのほんとに徹底的に愛でられたことを思い出して羞恥心が沸き上がり、そのせいで私はなかなか寝付くことができなかった。
「ふわぁぁ」
かみ殺すようなことはせず、むしろ堂々と右手で口を押えながら欠伸する。
まだ眠い。目がしぱしぱする。
ワンコ着ぐるみパジャマとセットなワンコの足スリッパを履いてぺたぺたとユグドラシルダンジョンの家の廊下を歩く。
大広間に差し掛かったところでシルアが話しかけてきた。
『マスター、おはようございます』
「うん、おふぁよぉ~」
『眠そうですね。また昨晩はお楽しみですか?』
「ある意味そうかも。主にリーシャがだけど」
『ふふっ。そうですか。ところでマスター』
「ん~~? ふわぁ…。眠い~…」
『もしワタシがマスターをマスターの元の世界に帰すことができますって言ったらどうします?』
「えっ!!?」
思ってもみなかったシルアの言葉で眠気は一気に吹き飛んだ。
暫くはどうしようか悩んだ。
地球に帰れると言っても地球の私は死んでるわけで…。
しかもあれから随分な月日が経っているから私の肉体はとっくに火葬場で焼かれているだろう。
死んだ直後だったらまだ良かった。なんらかの奇跡が起こったー。みたいな感じで誤魔化せるから。
しかしそれはもう無理だ。それに私には地球よりこのアイリスに愛着ができてしまった。
家族も。地球の家族のことも愛してた。でもアイリスの家族の方が今の私には大事なんだ。
(断ろう)
一度はそう決めてシルアに言いに行ったらシルアからは意外な応えが返ってきた。
彼女が生み出したらしい魔法は十年に一度だけ使える魔法で効力は二十四時間続くというもの。
その二十四時間以内ならアイリスに戻ろうと思えば戻ってくることができる。
そのまま地球に残りたいと思うなら二十四時間が経過するまで地球に残り続ければいい。
アイリスに戻る方法はアイリスの誰かの顔を思い浮かべて強く「帰りたい」と思うこと。
そうすればその人との縁により戻ってくることができる。
『ですので旅行だと思って行ってきたらどうですか?』
シルアにそう言われて私は頷いた。
「ほんとに戻って来れた」
さて、シルアに送ってもらった私は地元の買い物通りっていう通りにあるちょっと寂れた感じのする…。
これってなんだろう? デパート? の女子トイレに辿り着いた。
四階にアニメ販売店があって五階には百均。
前世はたまにここで買い物してた。
「懐かしいなぁ」
アイリスと地球に時差とかあるのか分からない。
でも女子トイレから出て百均を見て回って、それから外に出た感じ私が死んだ頃とあまり変わってないような気がした。
スピーカーから流れる地元の飲食店とか不動産屋さんの宣伝なんかもそのままだ。
コンビニとかドラッグストアの位置も。
だもんで一瞬、地球の時の進み具合は遅いのかと思った。
結論から言うとそんなことなかった。
むしろ地球の方が早い。アイリスは十四ヶ月で一年、地球は十二ヶ月で一年。その分の差が出てる。
コンビニに入って新聞で西暦を見た時はびっくりした。
それでもあんまり変化がない気がするのは地元の文化が飽和状態にあるせいだろう。
他にも人口的なものもあるかもしれない。日本は時が進むにつれ東京一極集中が進んでいったから。
「ん~…」
ミルク屋さんが親にあたる某コンビニの私が好きだったスイーツを手に取ってふと気が付いた。
「お金ない…」
アイリスのお金ならある。ユーリス神聖国と同盟国で出回ってるやつ。
金剛貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、鉄貨。
金剛貨はイリス様の横顔が彫られていて大金貨と金貨には私の顔、他はユーリス神聖国の名所とか同盟国の名所の景色が彫られている。
これは使えない。質屋なんかで売るにも私には身分証明書がないので売れない。
「あ。これ詰んでるやつだ」
せっかく地球に帰ってきたから買い物しようと思ったのに。
どうしようもなく泣く泣く買い物することは諦めた。
イオンモール、駅を横に歩く。
病院を超えてまだまだ歩くと私の前世の家。
--
「来ちゃったけど」
どうしよう。
家の前で右往左往。
知らない人に見られたりしたら完全に不審者。
今日は地球で生きてた頃に着てた服を着てる。
白のパーカーとブルーのフレアスカート、白のソックス、ブルーのスニーカー。
いわゆるフェミニンコーデ。
念のためパーカーのフードを被ってるから余計に不審者と思われること受けあい。
「あの。うちに何か用ですか?」
「うっ…!」
不審者に背後から掛けられる声。
恐る恐る振り向くとそれは私の知る頃よりも大きくなった弟だった。
分かる人には分かるところ。
尚、実際にその辺りを探しても作者の家はありません(笑)




