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番外編11.ある日の二人の恋模様

リーシャさん、意外と残念な女性(ハイエルフ)なのかも?(笑)

◆<リーシャ>

 あの勇者召喚事件から一ヶ月後。

 私はユイの機嫌の悪さに困惑していた。

 ユイは一週間程別大陸にある、とある公国の晩餐会のようなものに招かれて嫌々ながら出席していた。

 今回出席したのはユイだけで私たちは居残り。昨日帰宅したユイは甘えんぼモードでそれはもう、もしユイが犬だったら尻尾をちぎれんばかりに振ってるんだろうなぁって感じるくらい私に甘えてきた。

 その時は確かに機嫌が良かったのだ。

 それが先程シルアから留守中のことを聞いて以来何故か険しい顔。

 ユイの留守中は特に何もなく変わりない日常だったのに、どうしてユイが機嫌を悪くしたのか分からない。


「ねぇ、リーシャ」


 婦々の部屋。出入り口の扉前でユイがそっぽを向きながら私の名を呼ぶ。

 その態度に私の胸がチクリと痛む。

 理由が分からないがもしかして嫌われたんだろうか。

 不安になる。昨日あんなに私に甘えてくれたのに今日は私の方を見もせずに私を呼ぶ。

 勝手な妄想がぐるぐる頭の中を回り出す。

 別れを切り出される? ユイを失うなんて絶対に嫌だ――――。


「ユイ――――」

「聞きたいことあるんだけど」


 機嫌が悪い原因。それを聞こうとする前にユイに言葉を被せられた。

 ここでユイが私のことを見てくれる。

 それだけでホッとしてしまう私はなんて単純なんだろう。

 少し笑顔になったと思う。…とユイも顔を一瞬綻ばせて、それに気づいたのかまた仏頂面に戻した。


 …あれ? 何か変だ。私のことを嫌っていたりするなら私が笑顔になったからといって自分も釣られたりするだろうか? 何か別の事情があるような気がする。私はそれが何なのか知りたくてユイに話をするよう促してみることにした。


「聞きたいことって何かしら?」

「私がいない間に幼馴染に言い寄られたって本当?」


 そのことか。それは確かに間違いない。でも私はユイのことを心から愛していて、だから他の人と関係を持つなんてあり得ないからすぐに断った。

 しつこかったけど、弓で威嚇したらすごすご帰って行った。

 大体人妻の私を口説こうって考えることがどうかしてる。

「真実の愛に辿り着いたんだ」とか言ってたけど、私の気持ちは置き去りかっていう話よ。

 私の心の中に住んでいいのはユイだけ。

 ……ん? これってもしかしてもしかする?


「ユイ、ひょっとして嫉妬してる?」


 聞いたら即返事が戻ってきた。


「してるし怒ってる。私のリーシャを奪おうって考えたことが許せない」


 うわぁ。ユイ………可愛い。


「私は人妻なのにね」

「ほんとだよ。しかも()使()()()の。ああ~、ムカつく」


 ユイが権力を笠に着るなんて珍しい。

 それだけ私を愛してくれてるのね。良かった。ユイはユイだった。


「ユイ、おいで」


 ユイの前で手を左右に広げて誘ってみた。

 それを見てすぐに彼女は私の胸に飛び込んでくる。

 ちょっと勢いがあったから痛かったけど我慢。

 私の腰に手を回してできるだけ身を寄せてくるユイが可愛い。


「行かないで」

「行くわけないでしょう?」

「私を独りにしないで…」

「ユイ?」

「辛かった。七日間も会えなくて辛かった。それと怖かった。この話聞いた時、私を捨ててリーシャが行っちゃうんじゃないかって…」

「ユイ。貴女…」


 それまで私の肩に顔を埋めていたユイが顔を上げたことで目と目が合う。

 捨てられた子犬。ううん、捨てられることを恐れて飼い主に必死に縋りつこうとする子犬の目。

 私は今更ユイが中身は十八歳の少女なのだということを思い出した。

 私はユイを見ているようで御使い様のユイしか見てなかったのかもしれない。

 本人が普通の女の子ってよく言ってるのに私は、私たちは一笑に付していた。

 このアイリスはユイの故郷じゃない。

 世界に独りぼっち。どれ程不安で怖かったことだろう。

 私は自分の愚かさを反省し、ユイを強く強く抱き締める。


「ごめん。ごめんなさい。ユイの気持ちに気づいてあげられてなかったわ」

「独りは嫌だ。前に頼っていいって言ってくれたよね? ね? リーシャ」

「ええ、言ったわ」

「今度何かあったら着いて来て。お願い」

「独りにさせてごめんなさい。分かったわ、ユイ」


 私の返事を聞いてユイが陽だまりのような笑顔を見せる。

 うっ。可愛すぎるわ。その笑顔はちょっと反則すぎじゃないかしら。

 私とユイでは私の方がユイよりも背が高い。ユイの頭頂部が私の唇の辺りに来る。その分私は自然とユイを見下ろす形になるし、ユイは私を見上げる形になる。

 何が言いたいかというと、この顔で見上げられたら別の意味で堪らないのよ。

 ユイ可愛い、可愛い、可愛い、可愛い…。


「リーシャ」

「え? な、何かしら?」


 いけないいけない。自分の世界に入ってた。

 何気なくユイの頭に手を置いて撫でる。

 ユイの髪は本当にさらさらしてる。滑らかで指通りがいい。

 気持ち良さそうなユイの顔。私ずっと撫でていられそう。


「キスしたい」


 今度の要求はキス。私は喜んでユイに顔を近づけていく。

 後少しで薄い紅色の唇に触れるといったところで私はふと思いついてキスを中止した。


「リーシャ?」

「いい機会だから仕返しさせてもらおうかしらって思って」

「へっ? 仕返し」

「ええ、そう…よっ!」


 ユイの体を私から放して手と手を握って扉に張り付けにする。

 そして突然の私の行動に混乱しているユイに間髪入れず彼女の耳を口に含む。


"はむっ"

「きゃっ!」


 ふふ。可愛い声。これで少しは私の気持ちが分かったかしら?

 熟れたリンゴみたい。その顔を見ていると加虐心が湧き、いつもユイが私にしている以上のことをしたくなった。首筋にキス、そこを舌で舐めるとユイはピクリと体を震わせる。

 彼女の服の裾を捲って手を入れて滑らかな肌を直接触る。

 お腹、それから少しずつ上へ上へ。彼女の膨らみを包んでいるものを上へ押し上げて…。

 上気した頬、潤んだ瞳、ユイの甘いミルクのような匂いが私の脳髄を刺激して狂わせる。

 くらくらする。これ以上はこちらも危険だわ。歯止めが利かなくなる。

 手を止める。ユイは涙目に変わって羞恥に悶えてる。


「これがユイが私にしてることよ?」

「そ、それよりも激しくなかった…? なんというか…」

「でも嫌じゃなかったでしょ?」

「うん…」

 

 ユイが小さく頷く。素直なの可愛い。何処まで私を夢中にさせるのかしら。

 本人は自覚ないんでしょうけど、小悪魔的なところあるのよね。


「まったく」


 なんて言いながら小悪魔にやられることが全然満更じゃない私がいるのだからつくづく私ってユイが大好きなんだと思い知らされるわね。

 

「ユイ、大好きよ」

「私もリーシャが大好き。…リーシャは私の何処が好きなの?」


 何処って、そうね…。


「そうね。ユイって全体的に可愛いわよね」

「うん?」

「顔も勿論可愛いし、私に甘えてくるのも当然可愛いわね、高い本棚の前で目当ての本が取れなくて必死に手を伸ばしてる姿も可愛いし、食事を美味しそうに食べてる姿も可愛いし、その後眠気に襲われてそれに抗おうと頑張ってる姿も可愛いわ。後はお風呂に浸かってる時の緩み切った顔も可愛いし、シルアたちにマッサージされてる時の顔も可愛い、抱き枕のサイズにちょうどいいのも可愛いわね。他には…」

「待っ! もういい。もういいから。あんまり可愛い可愛い言われるとすっごい恥ずかしいから」


 あらら。残念ね。もっといっぱいユイの可愛いところ言いたかったのに。


「あ! 子供たちや動物と戯れてるユイは無邪気な顔してて」

「続けないで! 終わり。この話終わり」

「ふふっ。そういう焦って必死になるところも可愛いわ」

「ぐっ…」


 ちょっと虐めすぎたかしらね。これ以上は嫌われそうだからやめましょう。

 その代わり…。


「ユイ」

 

 さっき止めたキスを今から。

 顔を近づけるとユイは目を閉じる。

 重なる唇と唇。触れるだけじゃないもっと濃いキス。

 私と彼女が絡み合う。瑞々しくて美味しい。柔らかい。何度でも味わいたくなる。

 私をユイに溶かしたい。ユイに私を溶かして欲しい。

 ああ、これはまるで――――。

 

 ――――――――劇薬だ。


「ハァ」

「んっ…」


 透明の橋が架かる。ポタリと床に雫が落ちる。


 ユイを解放すると彼女は私を抱き締めて甘えてきた。

 まるで匂いつけをするように私の体に自分の頬を摺り付けてる。

 可愛い。この甘えんぼで愛しい人を永遠に離したくない。

 私はキスの後ユイをベットに誘導して押し倒した。



 数時間後。

 疲れて眠ってしまっていたらしい。

 目を開けてベットの頭側にある窓を見ると揺れているカーテン。

 僅かながら開いてたよう。それで寒かったのねと納得する。

 ユイと戯れていた時はまだ明るかったのに今は外はもううっすら暗い。

 ストラップレスブラにショーツな姿。ほぼ裸の体にシーツを引っかけるようにして半身を起こす。

 その途中体に何か引っかかり、見るとこちらは全裸のユイ。

 幸せそうに眠ってる。寝顔が可愛い。起きてる時も幼いが寝てると余計に幼く見える。


「ふふっ。うっ…寒いわね」


 窓からの隙間風に体をぶるりと震わせる。

 寒いので窓を閉めに立ち上がろうとするとユイの手が空中に持ち上がった。


「ん~…。リーシャ…行かないで」


 はぁ。これで行けるわけないわね。

 ユイの手を取って一人微笑む。


「寒いから抱き枕になってね。ユイ」


 私は愛してやまないユイの隣にいそいそと潜り込んだ。

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↑いわゆる乙女ゲームの悪役令嬢物です。

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