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番外編10.舞い込んだ厄介事 その5

◇<ユイ>

 私たちが見つけた勇者一行は最初からなんだか様子がおかしかった。

 望遠の魔道具で遠くから見ているので何を言っているのかは距離的に聞こえなかったけど、女性と男性とで対立しているように見える。


(大通りの真ん中で喧嘩? よくやるよ)


 ハッキリ言って呆れる。

 幸いなのは魔王モージス様の事前の御触れにより魔族の人たちが外に出てないことかな。

 家々から見守ってる様子は伺えるけど。

 暫く様子を見守っていると剣を抜く一人の男性。

 大きくそれを振り上げ、今にも女性に斬りかからんという体勢。


「危ない」


 それを見止めた私は考えるより先に体が勝手に動いていた。

 望遠の魔道具を投げ捨て、馬車から飛び出して堕天使モードに。最速で男性と女性の間に飛んでいき男性の剣が女性に振り下ろされる前に手で受け止める。

 痛い。魔法で強化するの忘れてた。

 自分の間抜けさに苦笑いするものの女性が無事で良かったと安堵もする。


「大丈夫? 怪我はない?」


 問いかけると「はい、ありがとうございます」って小さな声。

 可哀想に怖かったのだろう。体が小さく震えてる。


「あの…。血が」

「ああ」


 とりあえずこの剣をなんとかしないといけない。

 壊してもいいのかな? 何気なく剣の持ち主である男性を見ると驚愕した顔。


「バカな。聖剣を手で受け止めるだと。お前一体」


 聖剣? これただの鉄の剣だよ? しかもナマクラ。その辺の武器屋でセール品として売られてるやつだ。


「これただの鉄の剣だけど?」


 言うと男性は顔を歪めた。


「ふざけるな! これは神官さんからもらった勇者しか使えない由緒正しい剣だ。くそっ、放せ。なんでびくともしねぇんだ。くそっくそっくそっ」


 汚い用語連発。

 なんか鬱陶しくなった私は言われた通りに手を放す。

 そうするとここぞとばかりに男性が私に斬りかかってきたので手に風の魔法を纏わせて腹パンして吹き飛ばした。


「ぎゃああ」

「勇者…だよね? こんな弱いの? まじで?」


 唖然とする。勇者って言うくらいだからもっと強いと思ってた。

 そんな中私の背後から「治癒魔法(ヒール)」と掛け声。

 振り向くと私が助けた女性が私の手を治すために発動してくれたらしい。


「ありがとう」


 と笑顔でお礼。何故か顔を紅くする女性。

 私に続いて馬車から降りてきたリーシャとイリス姉様の視線がなんだか冷たい。

 私何かした? 女性を助けてそんな目を向けられるのは心外だよ。


「お前。お前何なんなんだよ。一体何なんだよ」


 あっ! もう一人男性が残ってた。

 なんなんだよって。私は。


「何って何処にでもいる極々普通の女の子だよ?」


 首を傾げながら言ってみた。

 ますますリーシャとイリス姉様の視線が冷たくなる。

 寒い。ここって北極だっけ? 絶対零度の魔法でも使った? ホントニワタシフツウノオンナノコダヨ。


「剣を手で止めて腹パンで男を吹っ飛ばす女を普通の女の子なんて言うわけないだろ!」


 否定された。後ろからも「そうだよね」って女性二人で囁き合ってる声が聞こえてくる。

 酷いなぁ。これでも手加減したのに勇者が予想以上に弱くて手加減が手加減にならなかったんだよ。


「まあそんなことどうでもよくない?」


 一歩前へ。すると男性は一歩下がる。がそこで踏み留まって剣を抜く。

 それもナマクラ。あの元教皇この男性たちのこと最初から使い捨てるつもりだったな。

 或いは逃亡中で資金がなかったか。どっちだろう。いずれにしても早く見つけて今度こそ逃げ出さないように脱獄不可能な刑務所に入れないと。


「思い出したぞ」


 考え事をしていた私に男性からそんな声が飛んでくる。

 何を思い出したのだろう? 聞いてみる私。


「何を?」

「お前、神官が言ってた堕天使だな。この世界に混沌を振りまいてるっていう」

「混沌…ねぇ。私はこれでも世界を平和にするために頑張ってるつもりなんだけどなぁ」


 国と国とが喧嘩したら仲裁に入ったりしてさ。それって平和活動だよね? 混沌とは真逆だよね?

 混沌に陥れようとしてるのはむしろその神官の方だよ。


「私はそんなことはしてない」

「黙れ! お前を倒して俺たちがこの世界に平和をもたらしてやる」


 男性が斬りかかってくる。

 大ぶりすぎて挙動が読みやすい。右にちょっと避ける。

 剣の重みでよろける男性。


「くそっ。避けるな」

「無茶言わないで欲しいかな。当たると痛いじゃない」

「お前なんて痛い目に遭えばいいんだよ」


 再び大振り。それも避ける。

 よろける男性が体勢を立て直すのを待ってまた斬りかかってきたらそれを避ける。

 幾度か繰り返し。これではいつまで経っても私に剣を当てるなんて無理だ。

「ハァハァ」肩で息をする男性。懲りずに斬りかかってきたので今度は忘れず魔法で手を強化してその剣をしっかり受け止めた。


「なっ!」

「貴方じゃいくらやっても無理。それより私や魔族がこの世界の悪だって本当に思うの?」

「当然だ。何せ…」

「神官が言ってた。とかじゃなく貴方自身の考えを聞かせて」

「っ。正直俺たちと変わらないような気がする。だがそれは!」

「それはこちらを油断させるためだ! とでも? 見た目だけで判断してない?」

「俺は。俺たちは勇者一行だ。俺たちのすることは全部正義なんだ」

「それがたとえ罪のない者を殺す行為だとしても?」

「黙れ黙れ黙れ黙れ。俺たちは。俺たちは正義だ!!」


 はぁ。話にならない。

 面倒臭くなってきたので片を付けようとした時、感じる気配。

 勇者が復活して私に襲い掛かってくる。


「八雲!」

「おお! 待たせたな。誠」


 私が今まで相手していた男性よりは少しは早い。

 けど誤差の範囲でしかない。

 奇襲したつもりだろうけど、全然成り立ってない。

 私はため息をつき魔法を発動させる。


風の散弾銃(エアバレット)


 その弾丸は男性二人の腹を的確に射抜き意識を刈り取る。

 私と勇者との戦いは微妙な気持ちになる感じで幕を閉じた。



 その後勇者ともう一人の男性はシルアにより道の上で正座させられて説教を受けることになった。

 舗装された道とはいえ下は石だ。こんなところで正座させられたらかなり痛いだろう。

 男性二人は涙目になっているけどシルアは容赦するつもりはないらしい。

 女性陣はそれを見て「良かったぁ」とか安堵の声を漏らしている。

 でも無罪というわけにはいかないんだよね。

 魔族に迷惑かけたんだし、罪は罪として償ってもらわないと。


「ねぇ」


 私は今、すっっっごくいい笑顔をしていると思う。

 その笑顔を見て顔を引き攣らせる女性陣。


「は、はい…」

「貴女たちに手伝って欲しいことがあるんだけど」


 私は女性陣に一日農家の手伝いを命じた。

 ちょうど刈り入れ時だったんだよね。助かるよ。

 腰が痛いって悲鳴上げてる。頑張れ頑張れー。私は応援だけしてるよー。



 翌日。

 シルアの説教二時間にプラスしてその後女性陣と共に農家の手伝いに強制参加させられた男性陣と農家の手伝いだけなんとかかんとかこなした女性陣。勇者一行が私たちの前にいる。


「ぜ、全身が筋肉痛…」

「俺もだ」

「あたしも」

「右に同じ」


 皆へろへろ。動く気力もない模様。

 男性は男性同士で背中合わせ。女性は女性同士で同じく背中合わせ。

 そうしてただ大人しくしている。

 

「で、これから俺たちをどうするんだ?」


 勇者。八雲君って言ったっけ?

 その八雲君の質問で"びくっ"となるのは女性陣。

 罰は昨日ので終わりとは思ってないんだろう。もう終わりなんだけどね。私はイリス姉様を見る。


 目と目で合図。イリス姉様が勇者一行の前へ。

 姉様はこのために具現化して今日まで一緒に私たちの傍にいたのだ。


《これからあなたたちを元の世界に送還します》


 魔方陣展開。四人の顔が驚きに変わる。

 

「まじか俺たち戻らされるのかよ!」

「俺はこの世界にいたい」


「ダメだよ。あなたたちは受け入れられない。迷惑な異物だからね。だからさっさと帰りなさい」


「待ってくれ。俺たちはまだ魔族たちに謝ってない」

「あたしたちも」


 光り輝く魔法陣。八雲君が立ち上がってそこから出ようとするも魔法は一歩早く発動する。


「待っ」


 送還完了。勇者一行はこの世界から消えた。

 次はイリス姉様。


《これで私も役目は終わりましたね。では私も消えるとしましょう》


 イリス姉様は魔素の塊(エーテル体)()()()()()世界を行き来させる魔法はさすがに大きな力を使い体を維持できなくなるためイリス姉様は空気に返ってしまうのだ。


「また会える?」

《必ず。だからそんなに悲しそうな顔しないの。ユイ。笑顔で見送って》

「うん…」


 イリス姉様の体が段々薄く透けてくる。

 それを見ていると我慢できなくなって、私はイリス姉様に飛びついた。


「姉様」

《可愛いユイ。私の妹。また会おうね》


 姉様が光に溶ける。

 私の体から温もりが消えて心にポッカリ穴が開いたような錯覚に陥る。


「姉様」

「ユイ」

「リーシャ…」

「私がいるわ」

「うん」


 私はリーシャに抱き着く。

 そのまま胸の中、私は暫く静かに泣いた。



 この日の午後。

 元教皇が魔族の警備隊により捕縛された。

 元教皇は魔族の国の空き家に身を潜めていたらしい。

 そこには勇者召喚の代償として儀式の生贄とされたのであろうと思しき彼の信者たちと無理矢理生贄にされた一般人の死体が多数転がっていたとか。

 何処までも迷惑な奴。苦虫を噛み潰す私の横をお縄になった元教皇が通り過ぎていく。


「これで終わったと思うなよ」

「ううん、もう終わりだよ。全部ね」


 睨み合い。先に目を逸らしたのは元教皇だった。


「お前さえいなければ」


 その恨み言が私が聞いた元教皇の最後の言葉で、その哀れな背中が私が見た元教皇の最後の姿だった。


 

 これでこの事件はすべて終わったのだけど、それから一ヶ月後。


「御使い殿、これから世話になる」

「早! 引継ぎはもう終わったんです?」

「うむ。早くここで働きたくてな。さっさと済ませてきたわ」

「そうですか。びっくりしましたけど、でもまぁ…。これからよろしくお願いしますね」

「うむ。よろしくな。本当の祖父と思って接してくれても良いぞ」

「そうしようかな」

「…冗談のつもりだったんだがな」

「ふふっ。よろしくねお爺ちゃん」

「どうも照れるのぉ」


 改めて握手。私に新しい家族、お爺ちゃんができました。

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